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だいすきなひと  作者: 高塚しをん
2/8

#2 突然の訪問者

2年生の下駄箱の横にある傘立ての、一番見えやすいところに、沙絵先輩の傘を入れた。傘の中には、お礼のメモと、キャンディーをテープでつけて。


「ありがとうございました。

       2-A 岡崎珠理」



まぁ、なんと愛想のないお礼だとも思うが、こんな時に気の利いた言葉が出てこないのが私なのだ。本当は教室まで、傘を返したことを言いに行った方が良いのだろう。でも、そんな勇気も私にはない。


今後沙絵先輩とは、すれ違えば会釈するくらいの関係性にはなるだろう。もっとも社交的な沙絵先輩だから、声くらいはかけてきてくれる可能性はある。



その日はいつものように、私は親友の晴香と、お弁当を食べていた。


もっぱら話題は、最近つき合い始めたという晴香の彼氏のことだ。つき合い出して3ヶ月ほどで、つい先日ひと山超えたとの報告を受けたところだった。


自称氷の女である私は、正直ノロケとかってウザイ以外の何でもないと思っていたし、ひと山超えようが百山超えようがどうでもいい。だけど、嬉しそうに話す晴香を見ると、素直に良かったねと思えるものだ。

でも、本音を言うと、羨ましい気持ちもある。



私だって彼氏いたことあるしなっ。

中学の時の同級生の、圭吾。2年生の時同じクラスになった圭吾とは、なんとなく仲良くなって、告白された。もちろん圭吾のことは好きだったし、一緒にいて楽しかった。だから、つき合うことにした。

けど、何か違うのだ。一緒にいて楽しい、それ以上の感情が生まれなかった。結局大して続かず、なんとなく別れた。今ではとても良い友達。


まぁ、そんな恋愛とも呼べないレベルの恋愛しかしていない私だから、晴香のひと山だのなんだのって話は正直よくわからない。クラスでは誰が経験済だとかそんな噂も立つが、私はそう言うことに興味もイマイチ持てずにいる。


だから、晴香が恥ずかしそうにしながらも、おいおいすげぇ自分からバラまいてくるなってレベルの話をしてくるのも、聞いているフリをして実のところはイマイチ聞いていない。もちろん、晴香が彼氏とうまくいっていることは、心から喜んでいる。ただ私は、人より冷たいだけだ。


沙絵先輩の傘にメモをつけておいたけど、次に傘を使うときまで多分見ないよなぁ。


晴香の話を聞くフリをしながら、そんな風に思っていたその時だ。


「すみませーん!珠理ちゃんて、いますかぁ?」


ビックリするくらい大きい声が、廊下側の窓から飛び込んで来たのだ。

窓からは、沙絵先輩がキョロキョロと教室の中を見回していた。


クラスのみんなの目線が、私に刺さる。ザワザワし始めたその空気からは、「なんで珠理が沙絵先輩と繋がりがあるわけ?」の風味しか漂って来ない。


「あ、はい…」


小走りで沙絵先輩の元へ駆け寄る。


「傘、ありがとうございました。

今朝傘立てに返しておいたんですけど…」


クラスメイトに話を聞かれたくないので、どうしても小声になる。


「あー!見た見た!ありがとね!お手紙もありがとね!」


なんなの、この人体の中に拡声器仕込んでんだろってくらい声が大きい。全部のセリフの語尾に「!」がついてる。


手紙とか言うなー。別に手紙ってほどのもんじゃないし。クラスメイトに勘違いされそうじゃないか。


「いえ、お礼だけなんで…。

本当にありがとうございました」


「いえいえー!飴もありがとう!

ってわけで、沙絵もお返しに来たんだ!

はい、これあげるー!」


そう言って沙絵先輩は私にキャンディーを手渡した。


「というわけで!じゃあねー!

お邪魔しましたー!

みなさんもまたねー!」


そう言ってクラス全体に手を振り、沙絵先輩は教室を後にした。


沸き立つクラスメイトたち。

「さよならー!」とか「また来てくださーい!」とか言う声が聞こえる。

「やばい、めっちゃカッコいい…」とかまで。


沙絵先輩が去った後、悪い予感が的中した。

席に戻ろうとした私のところにクラスメイト数名が詰め寄る。


「ねぇねぇ、沙絵先輩と知り合い?」


「なんの繋がり?」


「仲いいの?」


「紹介して!」


いやいやいやいや。ほんと、マジでそんなんじゃないですから。


「ちょっと借り物してただけ。ほんとそんだけ」


「LINEとか知ってる?」


「知らない知らない」


とりあえずクラスメイトたちを適当に流し、席についた。



あー怖い、女子。

こんな私も女子ではあるんだけど、なんだろう、人種の違いを感じると言うか。人にこんなにも興味を持てるのが女子だとしたら、私はもう男子ってことでいい。



「え、何…?」


席につくと、晴香が声を潜めて私に言った。

おい、お前もその類か。


「や、マジでなんもないんだよ」


「なんもない訳ないでしょーがよ」


「だからさ、昨日傘借りたんだよ。

んで、今朝傘立てに返しといた。

そしたら何故か教室まで来た」


「ちょ、端的すぎやしないか」


「長々とする話じゃない」


「ふーん。そうなんだ」


こんな瞬間は、何で私女子校に来てしまったのかなって、ちょっとウンザリする。

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