第36話〜生き返りの代償
…………。
部屋の中には誰もいない。
足元の血溜まりは固まってから結構な時間が経っているらしい。
赤黒い色のシミは触れても乾いたペンキのような感触しかしない。
どれだけの時間が流れたのだろう。
「…………?」
おかしい。
ベルがいない。
……別に頭がおかしくなったわけでも、記憶が消えたわけでもない。
ベルはあの男に殺された。
死体も見た。
しかしその場所には死体はおろか血のシミすらなかった。
幻覚?
あの男が死体を持ち去った?
妖精は死ぬと消える?
疑問は浮かんでくるが、答えは出ない。
「…………。」
ベルとはまだ出会って間がなかった。
それでも一生懸命ないい子だった。
悲しみが浮かぶが、今は気持ちを切り替えよう。
これからを生き延びられなければ、悲しむこともできない。
…………。
「さて…」
とりあえずやるべきことがある。
胸元を見下ろした。
別に性転換して胸があるとかではない。
刃の根元までズッポシと突き刺さったナイフの柄を見た。
実の所、生き返った訳ではないのだ。
今は仮初めの命というか、死んだ直後の状態をキープしている状態、と言えばいいのだろうか。
これは冥界師の職業になったことによる結果だ。
…………。
【職業自由選択】を使って本来ならば適性や条件をクリアしないとなることのできない職業になった。
それが冥界師だ。
冥界師は魂の導き手とも呼ばれ、特殊な職業を幾つか
経ることでなることができる特殊な職業だ。
冥界師になることでユニークスキル【不死者】とスキル【死霊魔術】が身につく。
職業やそれに関する知識は【職業自由選択】を取得したことで、自由に確認することができるようになった。
あの男と対峙し、取れる選択肢が結果として全て死に直結することを悟ったあの瞬間。
奥の手として考えていた【職業自由選択】をあっさり使用してしまった。
実は【職業自由選択】だが、破格の効果をもたらすだけあって制限も多い。
一度使用すると再使用まで10日のクールタイムが必要になり、職業が固定化されてしまうのだ。
他にも制限はあるのだが、とりあえず職業が固定化されてしまったことで、【職業自由選択】が10日は使用できなくなった。
他にも死なない、もしくは生き返ることができる職業とスキルはあったが、まだデメリットがましな冥界師を選択したのだった。
冥界師のデメリット。
それはレベルやステータスの低下だけでない。
生き延びることができたとはいえ、これから生き残るには相当な苦労が予想された。




