第25話〜恥ずべきことは何もない
…………。
『えっと、それではナナシさん。ここから移動しましょうか』
「ちょっと待ってくれ」
ベルを引き止める。
そして試しにナイフを取り出して振ってみた。
ビュッ!
動きに違和感はない。
連続で振っても思い通りに動く。
チュートリアルでの経験が活きているようだ。
続いてナイフを投擲してみる。
ナイフは一直線に飛び、壁の模様に狙い通り突き刺さった。
キレもあるし、身体能力もリセットされたわけではなさそうだ。
「なぁ、モンスターはどこにいるんだ?」
情報は時として危険を冒してでも収集すべき。
それをチュートリアルで学んだ。
クリア特典とやらがどの程度なのか。
まずは素の状態でどのくらいいけるのか試しておこう。
…………。
……ズンッ……ズンッ……
目の前を地響きを立てて小山が通過していく。
それは鋼のような光沢のある毛皮に包まれていた。
高さは天井とほぼ同じ、5メートルはあるだろうか。
意外とつぶらで愛くるしい瞳をしているが、その手には人型の何かが握られている。
それを時折美味しそうにガブリ、ムシャリとやっているのを見て、ここが異世界なのだと痛感した。
手元のナイフを見る。
どう考えてもあの毛皮すら貫通しそうにない。
剣を見る。
どう見比べても奴の爪の方が長くて分厚くて鋭い。
『✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎……えっと、ナナシさんに理解しやすい名前にすると、ミニスティールベアというモンスターですね』
小鋼熊、ね。
あれでミニなのだとしたらビックサイズになると本当に山になるな。
あんな化物が¨5体¨。
ここはボス部屋でも何でもないただの通路だ。
つまりあれは雑魚。
そこら辺を徘徊しているゴブリンと同じ扱い。
どうやら異世界の難易度は高過ぎるようだ。
「ベル、安全な場所まで案内してもらってもいい?」
『あ、はい』
…………。
どうやら異世界をナメていたようだ。
身の程を知れと転生したての自分に言いたい。
よくよく考えてもみれば、チュートリアルすらクリア出来なかったのだ。
本番とも言えるこれからの異世界生活がそう簡単なわけもなかった。
今はそれを知れただけ良しとしよう。
クールになれ。
大丈夫。
恥ずかしくなんかない。
『なぁ、モンスターはどこにいるんだ?(キリッ)』
情報収集はできた。
今の自分の実力はともかく、モンスターがどういったものか実際に見れたのはでかい。
何の問題もない。
恥ずべきことは何もない。
1、早く特典ボーナスを取ろう。
2、早く特典ボーナスを選ぼう。
3、早く特典ボーナスを貰おう。




