四、キルの配属先
地下室で行われたキルの歓迎会から一週間。
無事に工場跡であるアロイの改装は終わり、一階にはキルの寝室を含めた二部屋と大広間が完成。
大広間からはドクの部屋に続く階段と、地下室へ降りる隠し階段が併設されており、体を動かせるだけのスペースと、革張りのソファーや家電製品が置かれている。
「それで、お前らは何故また此処に居るんだ」
現在、大広間のソファーに座るのはリンネ、ミィナ、ドクの三人。
キルは鈍った感覚を取り戻すべく外に出て体を動かし、丁度アロイへと戻って来た所である。
「あっ!お帰りなさい、キルくん!ちょっと待っててね!」
「何故って、アロイは元々ミィナの物なんだから、私達が何処に居ようと勝手でしょ」
「それをリンネさんが言うのはおかしいですけどね」
「じゃああんたは何で此処に居んのよ?二階に自分の部屋があんでしょうが。要らないなら私が貰ってあげるけどお?」
「一々階段を上るのが面倒なだけですよ。眠る時はちゃんと使ってるんですから要らない訳ないでしょ。ったくこれだからーー」
「あぁ!?なんか文句でもあんのかクソガキィ」
三日前にこの大広間が完成して以来、此処は三人の溜まり場と化している。
元々はこのスペースを使って訓練をしようと思っていたキルが、態々外へ出掛けていたのはそういう理由だった。
窓から入る太陽光のお陰か、地下室よりも開放的な気分になれるこの部屋を三人は気に入っている様子で、外から自室に向かう手間を考慮してか、帰って来るとこの広い部屋でくつろぎ、寝る時だけ自室に戻る。
そんな流れが定着しつつあり、地下室にあった家電製品の引越しまで行われている始末だ。
帰って来たキルへ、湯沸かしポットで作ったミィナのミルクティーが運ばれて来る。
「はい、お待たせしました。
私達が此処に居るのやっぱり邪魔かな?もしそうだったら、やっぱり地下室に戻るけど・・」
先程までミィナが座っていたソファーに腰掛けたキルは、其れを口に運んで一口飲むと、溜め息を吐いて答える。
「邪魔だが・・確かに騒音女の言う通り、此処はお前の家だ。
既に俺の部屋も二つあるし、これを飲む為にわざわざ地下に降りるのも面倒だ。このスペースだけなら許してやらんこともない」
「ほんと!?よかったぁ・・。
この大広間って凄く開放的で綺麗だし、帰って来て直ぐに寛げるから凄く便利だなぁって思ってたんだぁ。
本当にキルくんが来てくれて良かったよ!約束通り、いつでも美味しいミルクティー、作るからね」
「ちょっとキル、騒音女って呼び方定着させないでくれる!?ドクがクソきのこなのは認めるけど、私にはリンネって名前があんの!」
「名前?どうせウカイが適当に付けた名だろう。それよりミィナ、ウカイからの連絡は?」
「な・・っ、確かにそうだけど・・」
「あっ、そうだった!さっきウカイさんからレグで通信があって、キルくんの配属先が決まったんだって!」
「ほう、やっとか。それで?」
「キルくんの配属先は、WPOだよ!ウフフッ、これで安定した収入が得られるね!」
「俺が・・WPOに?一体どんな部署だ?」
「WPOが誇る特殊犯罪対策部隊・梟。一般的に知られてる犯罪組織の鎮圧部隊は鷗だけど、梟はより危険な集団や個人を捕らえる為に組織された少数精鋭の部隊だよ!」
「なるほどな。梟か・・、実際の配属はいつになる?」
「えっとねぇ、今から!」
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「どうだい?少しくらい鈍った体は戻ったのかな?キル」
「どうだかな」
ミィナから配属先を告げられたキルは、ウカイが寄越した迎えの馬車へ乗り込んだ。
このダブルズにも車は存在するものの、一部の限られた者しか所有することは出来ず、また、犯罪の横行する現代において車でダブル都内を走行するなど自殺行為と言えるような行為でもある。
そのため、街中で車を見かけることはまずあり得ず、専らの移動手段と言えば徒歩やWPOの運営する鉄道会社が所有する蒸気機関車、または馬車や獣に直接騎乗するような方法が一般的には挙げられる。
「クックック・・、まぁ初日から死ぬような相手と戦うことは無いだろう。その辺りの犯罪者でも使ってゆっくりと体を慣らすといい」
「そうか。それより、何故お前が馬車に乗っている。まさかお前も梟のメンバーじゃないだろうな?」
「ククク・・勿論違うとも。キル達の働く姿も見てみたい所ではあるが、私も忙しい身でね。今日は交通手段を持たない君を私の仕事のついでに拾ってやったというだけだ」