リオ先生とごっついおっさん
「えっへん。では、今日からワタシはゴトーさんの大家さんです!」
なんか、嬉しそうだ。
「よろしく……」
「ハイ、よろしくお願いします」
凄いニコニコだ。
「では、家族だと思って何でも言ってくださいね」
「あ〜でしたら……」
いろいろ定かじゃないけど、この世界の事を知らないって事実は変わらない。
信じてもらえるかどうか分からないが、オレはリオに自分の事を話した。
「ああ、ゴトーさんは異世界転移者だったんですね」
あっさり信じてくれるの?
「え?オレみたいな人って結構居る?」
「ええ。居ますよ。この街に居るかは分かりませんが、決して珍しい唯一無二の存在と言う訳では無いはずですよ」
そうか……。レア感は無くなったが、隠す必要が無いのは楽でいいな。
「そっか、隠す程の事じゃなかったんだな……」
「まあ結果的にはそうですけと、話すまでは不安だったんでしょ?」
「そりゃあ……」
「それをワタシに話してくれた……ありがとうございます」
「いや、お礼はオレが言う側じゃね?」
「お礼は立場とか関係なく、双方が言えば良い物だって師匠が言ってました」
「良い師匠だな」
「ハイ!」
リオ……可愛いな。
「では、ここからはゴトーさんにこの世界の事を知ってもらう時間ですね」
「よろしくお願いします」
「では……」
おもむろに三角形のとんがり眼鏡を掛けるリオ。
眼鏡の端をクイッとして。
「リオ先生ですよ」
可愛いぞッ!?
グラマラスバディな女性に似合いそうなキャラを、敢えてリオの様に華奢で小さい、が巨乳なエルフにつけるってのがたまりませんな!!
これでは、大学生になったばかりの家庭教師(リオ先生)が、実際は歳が1つしか変わらない高校3年生の男子生徒をからかって挑発するも、絶対自分なんかに興味無いと思っていた男子生徒がまさかの先生の事を前から大好きで「一線越えちゃう!?」的な急接近をされてしまい、動揺のあまり「あぅあぅ……」ってなってる間に薄い本展開!!
そんなリオ先生の薄い本はどこで買えますか?
「ではまずゴトー君のステータスチェックからいきましょう」
「……あ、ハイ」
リオ先生にはいろんな夢か詰まっているけど、今は真面目に聞かねば……集中しづらいけど……。
「まずは自分のステータスを見てください。」
「ステータス?どうやって?」
「えっ!?」
リオ先生初手で止まっちゃったぞ。
「あのぉ……ゴトーさんの世界にはステータスって……無いんですか?」
「う〜ん。個人の能力をダイレクトに数値化した一覧表って事なら無いよ」
「えぇ……」
リオ先生他愛のなし。
「じゃあ、じゃあステータスって心の中で念じても……?」
出たらオレもテンション上がるんだが……。
「出ません。」
「えっ……どうしよう……?」
「言われても……」
今までの人生で自分のステータス画面を開いたことがないので、その代替効果のある行為が分かんないです。
そもそもリオ先生がステータス画面で何を確認したいのかも分かってないし……。
「まあ、開かない物はそっとしとくとして。ステータス画面って開かないとギルドとかに登録出来なかったりする?」
「いえ、それは問題無いんですか……。取得しているスキルや現在のHPとかが分からないと何かと不便だと思いますよ。」
「まあ、そこはなんとなくやっていくよ。ちなみにオレがレベル1だとしたら、HPってどれくらいかな?」
「え〜と、普通の人なら25ぐらいじゃないかと。レベルが上がるたびドンドン高くなるので、最初は要注意です」
「この装備だったら食らうダメージとかは?」
「多分1とか2とかだと思います」
「なら、何とかなりそうな気がする。まあ行ってみよか!」
ウダウダ悩んでも仕方ないからな。オレの良いトコロ「楽天家」が出ちゃったな。
「とりあえず冒険者ギルドって何処?」
「冒険者ギルドはどこの街でもダンジョンの入口の1階部分にありますよ。岡南Dだとそこの時計台です」
「へぇ〜。1階部分に陣取るのは、魔物の暴走対策?」
「暴走?」
「ん?違うのか。まあ、良いか。じゃあとりあえず登録してくるわ」
「えっ、ハイ、行ってらっしゃい」
リオリス工房を出たら目の前の巨塔に向かう。
グルリと回って見た結果、?入口は南側に有るらしい。
クソでっかいアーチ型の入口を入ると、向かって右側に酒場だか飯屋だかがある。
オレが今用がある受付は真正面に並んでいる。
しかしこの受付カウンター……。
「病院みたいだな……」
別に真っ白とかじゃなくて、このカウンター、右端から順に「冒険者登録」が1窓、「クエスト受注」が6窓、「クエスト報告」が同じく6窓、という感じで並んでいる。
ちなみにさらに左には武器防具屋があり、飯屋から1番遠い位置にアイテム買取カウンターが4つばかりある。
「じゃあ、右端からだな」
右端の登録カウンターに近付いて行くと、必然的にその右にある飯屋にも近くなり。
「良い匂いだ」
昨日リオリス工房を探す前に肉串買って食ったのが最後の飯だったな。
そんなことに気付いたら……。
「腹……減ってきたな」
まだ、夜明けには時間があるので、ギルド内に人の姿はあまり無い。
受付カウンターにいるギルド職員。
フロア内に全部で5人程の冒険者。
そして飯屋の厨房で何やら作っているデッカイおっさん。
「すんませ〜ん」
「おう、ちょっと待ってくんな」
作業中の工程にキリをつけてデッカイおっさんが厨房から出てきた。
「はいよ、お待たせ。なんにする?」
「えっと、ここってギルドに入って無いと使えなかったりする?」
「ん?ああ、ここは誰でも使っていいぜ。金さえ払えばな!ハハハ!」
豪快なおっさんだな。
まあいいか、飯食えるなら文句は無い。
「え〜っと、メニューは?お、コレか。じゃあソースカツ丼で」
「はいよ、そこらに座って待ってな」
席に座って周りを見回すと。
「水、セルフか」
グラスに水を汲んで、水のピッチャーに一番近い席に座る。
オレは飯の時に割と水が欲しいタイプなんでな。
しばらくするとおっさんがドンブリ……というか、ちょっと小さ目の洗面器か!?ってサイズのソースカツ丼を持って来た。
「デカッ!!」
「ん?当たり前だろ?ここをどこだと思ってんだ?」
「ああ……」
冒険者って言えば身体が資本の究極の肉体労働者だな。だったら飯もこのサイズが基準になるわな。
「いただきます!」
まあ、このサイズなどオレの敵じゃ無いがな。
「ごちそうさまでした!」
あっと言う間の完食。美味かった。おっさんやるな。
「おっさん。美味かったよ」
「おう、おそまつさん。で、あんた冒険者ギルドに加入して無いのに、ここになんの用だい?」
「ああ、その加入をしにきたんだ」
「ほう、あんたその歳から冒険者になるのかい?」
「まあ、ちょっと訳有でな」
「ここにはそんな奴は山程いるぜ?気にする必要も無え」
このおっさん、名前はグランドンって言うらしい。なんか知らんがやたら話しやすい。話しやすかったのと、リオが隠す程の事じゃないって言ってたので、オレはグランドンに今日自分の身に起こった事を話した。
「ほう?ゴトー、あんた異世界転移者か」
確かにあまり驚かれて無い。
だったらと、オレ自身が気になっている部分にまで話が及ぶ。
「はぁ?ステータスが出ない!?」
どうやらステータスが表示されないのは驚きの案件らしい。
「ああ、やり方は聞いてやってみたんだが表示されなくてな」
「そりゃ、厄介だな。MHPすら分からんがとか死にに行くようなもんだぞ」
「そうなのか?」
「当たり前だろ?己を知り敵を知ればってヤツだ。相手の情報なんて必ず持ってるもんじゃ無え。だったら自分の情報はキチンと把握しとかねぇとな」
「確かに」
「しかしステータスが表示出来ないとなると、最弱モンスターから順番に戦っていく必要があるな」
「安全マージンはしっかりとらんとダメだからな」
「そうだ」
冒険者ギルドに登録する前に狩りの方針が決まってしまったな。
「じゃあ早速ギルド登録だな?」
「ああ、そうだな」
「了解だ」
そう言うとグランドンはおもむろに中央カウンターの中に入って行く。
「おいおい、勝手に入ったら怒られるんじゃないのか?」
「そりゃあ部外者が入れば怒られるな」
「だったら……」
そこでグランドンはオレに向かって手を広げた。
「ようこそ!岡南ダンジョン冒険者ギルドへ!ワシがここのギルド長、グランドンだ!」
マジかッ!?グランドン、ただの飯屋のおっさんじゃ無かったのか!?
てか、あの話しやすさはギルド長の技ってところか?やるな、グランドン!
まあいろいろ話も聞いてもらったし、このまま登録もしときゃ良かろう。
ああ〜オレの良いトコロ「楽天家」が出ちゃったわ〜。
「登録するならこの用紙に名前を書いてくれ。あと普通ならステータスとか職とかを書いて貰うところなんだか……」
「まあかける所だけ書いとくよ」
「そうしてくれ」
名前、年齢、種族……あれ?これしか書けないぞ?
「おう、構わ無えぜ。なんなら名前が書けるだけ上出来だ!」
「お……おお。そうか……。」
「それじゃあ冒険者ギルドの説明だな」






