拗らせ男女
「防具?だったらこの先に進んだら時計台のある広場があるから。そこの奥に良い店があるぜ。リオリス工房ってとこだ」
オッサンからいろいろ有力情報を頂いて、Dの奥へ続く道を進む。
左右のバザールの出店は賑やかだ。
「とりあえず防具買ったら、なんか食うかな」
オッサンに聞いた防具屋目指しつつ、美味そうな匂いを垂れ流す飯テロ的な露店を眺める。
「美味そうだ……」
ジュワーーーーー!!!っと焼ける肉の串。
「すんません。肉串2本ください」
予定変更。またオレの良いトコロ「臨機応変」が。
「美味い!!」
オッサンの所でもらった釣りの岡山円で買った肉を頬張りながら広場を目指す。
しばらく歩くと開けた空間に出た。道の左右の露店が、建物、商店に変っていた。
「街か……?」
この道沿いの建物はどれも1階が商店、2階が住居って感じみたいだ。
さらに歩くと時計台は直ぐに見つかった。
見つかったんだが、辿り着かない。
「あの時計台……デカくね?」
広場の時計台とか言うから、あっても4〜5mぐらいだと思ってたのに。
アレ……塔だよな?なんなら高層ビル。
大きく拓けた広場にそそり立つ巨塔。時計台と言うだけあって外壁面から突き出たたくさんのポールにぶら下がる大小の時計。
ここで1つ気になったのが……。
「この塔、地面ぶち抜く程の高さじゃね?」
多少下って来たといっても、大した距離じゃない。あのサイズの塔はここには建てられない(物理)と思うんだ。
「う〜ん、現実感が無くなってきたな……」
この塔の存在はリアルじゃあり得ない。
てことは夢か異世界転移かの2択だな。
「まあ、夢なら覚めるまで楽しもか」
オレの良いトコロ「楽しいは正義」発動!
そんな非現実的な塔がドンドン近付いてくる。
「高さ、やべぇな……」
語彙力はお出掛け中。
実際ヤバい。なんだコレ?こんなのが岡山にあったら大都会wとか言われないんじゃないか?
まあなにはともあれ、まずは目的の店を探そう。
時計台の広場は、時計台を中心に十字を切るように大きな道が走っている。
多分オレが歩いて来たのが南側の道になる。ここから時計回りに時計台広場の外周にある商店を見てまわる。
まず南西の区画。古そうな本や巻物、杖や黒とか紫の尖った帽子が並んでる。
次に北西の区画。剣や槍が並んでいるが、さっき買ったばかりなので用がない。
そして北東の区画。鎧や兜、盾なんかが並んでいる。
恐らく武器屋のオッサンが教えてくれたリオリス工房はこの区画にあるんじゃないか?
北から順番に店の看板を見てまわる。
「ギャ……ガ…イア?工房」
「アェ…ギス?工房」
どこも工房名がアルファベット表記だから満足に読めない。
オレの特徴の「純国産」が出ちゃったな〜。
「あっ、ここかな?」
看板にリオリス工房の文字と鳥と花の彫刻が施されている。
しかし……。
「この店、鎧も盾も置いて無いぞ?」
今までの工房と違い店の外から見える範疇に防具らしきものは無い。
店先のショーウィンドウにはうらじゃで着る様な衣装が飾られている。
「……防具屋?」
外から見ていても始まらんし、入ってみよか。
「すんませ〜ん」
店内に入り声をかける。
店の中を見渡すと、やはり防具屋っぽい装備品は見受けられない。
あるのは蒼い布が巻かれた物と、色とりどりの糸巻き。
そして店の奥に見える大きな織り機とミシン。
「ここって洋品店?」
「ハイ。そうですよ」
「ッ!!?」
急に声掛けられて変な音がでたわ!
「リオリス工房は岡南D唯一の洋品店です」
「エッ?エッ……?」
カウンターの下から現れた女の子。
華奢な肩幅。
細いプラチナの髪。
透ける様な白い肌。
長い耳。
「ハイッ。エルフですよ」
そして巨乳。
エロフだ……。
某オリエンタルな会社の商品が生身で歩いている様な、そんな存在。
ヤバい。また語彙力がお出掛け遊ばしてしまった様だ。
「本日はなにかお探しですか?」
その存在感にしばしフリーズしていたみたいだ。
「あ、ああ。防具屋を紹介してもらったら、ここ、リオリス工房の名前が上がったんだ」
「紹介……ですか?」
「そう、紹介。ここの露店街の1番最初の所に店を出してる武器屋のオッサンから」
「露店街の武器屋?」
エロフ……いやいや、エルフの少女は首を傾げる。
「どうした?」
「この街では時計台広場の北西エリアしか武器販売が出来ない決まりなのです」
「その話が本当なら盗品を売りつけて今頃はもう店の跡形もないんじゃないかと」
「あ〜確かに売ってる物も怪しかったしな」
「大丈夫ですか?なにかおかしな物を買わされたのなら商人ギルドに通報を……」
「ああ……大丈夫大丈夫、問題無いよ」
あのオッサン、な〜んか気が合ったと言うか、波長が合ったと言うか、とりあえずお尋ね者にはしたくないかな。
おっと、オレの良いトコロ「お人好し」が出ちゃったな。
まあ、なによりこのエルフの女の子に会えただけでも価値があったし。
「そうですか。被害が無いなら慌てて通報する必要も無いですね。また後でそういった話があったってだけ伝えておきますね」
「そうな、そんな感じでよろしく」
方向性が決まったところでエルフの少女は今までの緊張を解いて、オレに微笑みかける。
「では、改めまして。ようこそリオリス工房へ。なにをお探しですか?」
「う、おお……」
カワイイぞ。可愛すぎるぞ、巨乳エロフ。可愛すぎて、また変な声というか音が出たじゃねぇか……。
「あ、ああ、防具が欲しいんだ……ケド。ここって鎧とか無いよね?」
「周りのお店みたいな鎧とか盾はありませんけど、うちにはコレがあります!!」
勢いつけてエルフの少女がショーウィンドウの方をアピールする。
そこにはさっき店の外から見たうらじゃの衣装が………。
「えぇ……アレ?」
「ハイッ。アレです!」
岡山市で毎年夏に行われる祭りうらじゃ。数多くのチームが参加し踊る。その衣装はチームごとに制作された物らしい。
踊り易く、そして舞を派手にってコトなんだろうが、その衣装ってのが端的に言えば「振り袖ニッカポッカ」なんだよな……。
少なくとも日常で着る服じゃ……。
ん?
「夢or異世界って日常じゃなくね?」
「はい?」
「てことは少々はっちゃけた格好しても良くね!!?」
「は、はい?」
「お嬢さん。いやリオリス!」
「ハイっ!」
「いやいやリオ!!」
「ハイッ!!」
「オレの為にうらじゃの衣装を作ってくれ!」
「ハッ、ハイッ!!」
うらじゃの衣装が防具になるって言うならしっかり良いやつを作ってもらっとくに越した事は無いはず。
「えッ!?でもそんな全力で作ったらお値段が大変なことに……」
「問題無いよ、リオ」
オレは財布から千円札を抜き出した。
「コレがなんだか分かるかい?」
「きゅ…旧貨幣?しかも、千円……!?」
「ワタクシの財布にはまだまだあるのだよ。HAHAHA〜!!」
実際、財布には全部で3000円入っている。
「ええ〜!?だったらワタシ全力で作って良いんですか!?」
「ああ〜構わんよ〜。」
リオが目を輝かせて……と言うか、ギラつかせている。ちょっと怖……。
「じゃあまず採寸を!!」
目をギラつかせた小柄なエロフがオレの身体を這い回り、まさぐり、図る、測る、計る、量る。
ナニをハカラレたのか、ナニをマサグられたのか。もうされるがまま。
「ああ……お母さん。……僕は今日、男の子になります!!」
後藤隆(35歳)。エロフに導かれて大人の階段登ります!!
「はい!採寸終わりました!!」
「えぇ〜。終わりぃ〜?」
「ハイッ!次はエンチャント刺繍の打ち合わせです!!」
「なにそれ!?ちょっ、ちょっと〜!?」
目をギラつかせたエロフが、お店の入口のオープンの札をひっくり返して、鍵を掛け、挙げ句の果にカーテンまで閉めてオレを店舗の奥にあるベッドルームへ連れ去る。
半ば強引にベッドに押し倒されるオレ。
「ああ、お母さん。やっぱり僕は今日男の子に……」
とか、思って目を閉じているが、エロフがさっきみたいな猛攻をかけてこない。
「……ハぁ、ハァ……こ、これ見て?」
おおう。そういうプレイ?てことは、オレの目の前にはエロフのヒミツの花園がッ!?
目を開くと……。
「カタログ?」
「この刺繍とか、どう?どう?コレだったらこっちの刺繍と合わせて耐打撃と耐斬撃が付いて、裏地にこの刺繍を入れたら、なななんと!火炎耐性と飛び道具を逸らせる効果が付いちゃうよぉ!?」
無理矢理上半身を引き起こされながらオレは思った。
「ああ、この子拗らせた感じの職人気質だ……」
しかし弱ったもんで、オレの拗らせてる童貞も大概の物で……。
「ねッ?ねぇ?ココにはこの刺繍で、コッチにはこの刺繍……。でもってここにはまさかのこの刺繍をッ!?」
女の子のベッドに座らされて、右側から身体ごとオッパイを押し付けてくるエロフに、膝の上に置かれたカタログを。
「で、コレがね!コレがね!」
って、何度も何度も指差されているだけで、大人の階段を2段飛ばしぐらいで登っちゃいそうです……。