ルーガローガル?ってなに?新商品?
「執事バニラよ!我が領内にルーガローガルが入り込んだと…?」
「はい、村人や旅人の発言では東の街道に通った後があると…」
「街道…、くっ学園の方か…、兵を集め準備しろ!それと魔王さまにも伝言を飛ばせ!」
「はっ!」
チラホラと松明が光る街を見下ろし、グッと拳に力を入れる。
ルーガローガル…もし学園を襲ってきたら、学園はひとたまりも無いだろうな…。
◇◆◇
「そのルーガローガルってやつに追われていたと?」
「…そっそれで、うちも終わりだと思ったらたまたまこのお店の光を見つけてですね」
「追ってきたルーガローガルが店に突っ込んだって事か…」
めちゃくちゃになった店の中で比較的綺麗なレジのそばで座りながら話を聞く。どうやら私の店はルーガローガルってやつに体当りされたらしい。
なんてこった…、毎日床を磨き顔を映るほど綺麗にしていた床も、半径10キロの本屋にも置いてない珍しい週刊・月刊を並べた棚も、美味いと感じた順に並べたカップラーメンの棚も。
ぐちゃぐちゃだ…。
「…クソッ、どんだけポリッシャーかけたと思ってんだ…、グッここに転がってる食玩も仕入れ高かったのに…。落ち込むわー…」
「あっ…あの~、――すみませんでした。…このお店見たこと無いほど綺麗だし…商品も見たこと無いものばかりだし。すごく大切なお店だって解るので…うちの責任です!」
そう言って頭お下げている狐娘は小さく震えている。よく見れば逃げ回って作ったのか小さい切り傷や泥の汚れが毛に付いている。
「――あのっ!うちは誇り高い白狐族!逃げも隠れもしません…。奴隷になっても店の修理費は…」
「…うん、解った。それより今は傷の手当しよっか」
キョトンとして座り込む彼女に手を差し出してみる、犬のように尖った口元が自然に動き、耳が申し訳なさそうにペタリと寝ている。
「あー…、どう言ったら良いんだろう。…んー、たしかに私はこのお店がぐちゃぐちゃになって落ち込んでた、と言うか今も落ち込んでるけど…」
「やっぱり!うちのせいで!!」
うわーっ、グッと顔を近づかせてくると、子供の頃実家で飼ってた犬を思い出すな。あの子も可愛かったなー…。
「っとそうじゃなくて、私はあなた自身に怒ってないのよ」
「えっでも!うちが来なかったこの店は!」
「んー…でも私の店が無かったら死んじゃってたんでしょ?」
「そっ…それは。…た、多分そうです…」
またペタンと耳が寝てしまった、この子感情が耳に出ておもしろいな。でも良い子だし。
誇り高い白狐族か…。誇りを威張ったり暴力的な事で示さずに責任で表すのね…。うん!やっぱり良い子。
「なら良いじゃん、商品とガラスがちょっと割れたけど、まあ片付ければいいし。私のお店が人?いや貴方を救ったなら良いよ……だからさ、そんな自分を責めないで良いんじゃない?」
「――ッ!」
「うわっ!」
ガバッと立ち上がった彼女は私の両手を握ってきた。肉球がぷよっとしてる以上に鼻息が掛かるほど顔を近づけて来た。
「うちは誇り高い白狐族!名前は『モミジ』と言います!お名前!!お名前を聞かせてください!!!」
「あっ圧がすごい…、えっと私は店長の名前は…」
「店長!!店長さん!!!うち感動しました…。まさか魔王国の侵略を企ててる人間の中に、こんな素晴らしい人が居るなんて!!誇り高いです!!誇り高まってます!!!」
興奮したように腕を握ったままブンブン振り回して、さらに鼻息をピスピスならして本当に犬っぽいな。私の名前も店長になってし、…そっかー魔王国を人間が侵略…ん?
「ちょっとストップ!侵略!?魔王国が侵略されてるの?えっ普通逆じゃない!?」
「ん?普通というのは解らないが…、数百年前から人間のほうが侵略を繰り返してるぞ?魔族たちはルーガローガルみたいな知能のない種以外とは仲良く暮らしてるのに。人間は人間としか仲良く出来ない、その上、今でも人間内でも仲間割れしてるらしいし。あっでも店長さんは違います!誇りがない人間達の中で誇り高いです!!」
えー…人間ってやばい奴じゃん、そして私って人間じゃん。…そしてここは魔王国で対人間の最前線。
ん?ヤバくない?
「ねえモミジさん、もしも私が、…人間が他の敵対してる魔族とかと会ったらどうなるの?」
「えっ?んー…そうだなー、良くて全身の生皮を剥がれて出来るだけ苦しめて生かされながら殺されて。あっでもこれは良い方で、もし恨みが深い種族に見つかったりしたら……店長さん顔が真っ青だぞ」
「…ん?いやーうん、まあね…笑えないわー…」
――死ぬじゃん。しかもただ死ぬんじゃなくて考えられる一番やられたくない方法で死ぬじゃん。
逃げる?いや無理だろ!?外はどう見ても街灯も無い一本道、左右どっちに進んでも魔族の村だろうし、道を外れて森に入ってもルーガローガルみたいな化物が生きてる森で生きていけないし…。
「つっ詰んだ……」
「店長さんどうしたんだ?急に座り込んで。……あっ!人間!そうか店長さん人間だから!!もしうち以外の魔族に見つかったらっ、あー!」
なるほどその考えは無かったみたいに納得してるモミジ、この子見た目の割りに鈍い…。いや鈍かったから最初に治療してくれたのか良い子なんだけど。間違いなく良い子なんだけど…。
「だっ大丈夫ですよ店長さん!ここは魔王国と言ってもちょっと都市からも外れた田舎の街道で、近くには学園くらいしか無いし、相当運が悪くなかったら見つかることは…」
『ポンポーンいらっしゃいませ~♪』
「モミジちゃん!ここに居るの!?さっきルーガローガルが出たって学園で…。えっ人間…キャーー人間!!!」
モミジと同じローブを羽織った女の子が一人、いやっ人ではないのだろう。その声を聞きつけたのか続々とランタンの光が集まってきた。
私は意識が遠くなっていくのを感じながら目を閉じるのだった。