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ここが私のお店です

「それじゃあ、後頼むね~おつかれ~」


「あっ店長おつかれさまです~」「店長おつかれっす」


 午前10時帳簿の記入と仕入れの注文を終わらせて、やっと私の長い夜が終わる、あー…今日も疲れたー…。

 カン、カン、と革靴と階段の鳴らす音を聞きながらコンビニの裏にある階段を登る、コンビニ経営を初めてはや3年。


「たはははっ今日もいい天気だ。…まあ私は帰って寝るだけなんだけどね」


 青い空の下この街の一番高い坂の上に私のコンビニはある、アパートの1階を改築して1階はコンビニに2階は自宅兼倉庫に使っている。

 私の部屋は階段を上がったすぐにある201号室だ、間取りはよくある1Rだ、玄関を入ったすぐ横にはバスルームと台所がありそのままリビングへ続いている。

 面倒くさいと思いながらもシャワーを浴びる、ちなみに風呂とトイレは別だこれだけは譲れないとアパートを改築した時ついでに変えてしまった、シャワーを浴びた後いつものジャージとTシャツに着替えて寝床へ飛び込む。


「あー気持ち―、この時間が最高に幸せを感じるサイコー!…あっそうだ」


 ガサリと布団の上にスポーツ新聞と新作の食玩【空想生き物シリーズ】を広げる


「発売から2週間【空想生き物シリーズ】天空覇者編、もうコンプリートしてるけど時間が立つほど食玩は出来が良くなるからねー…ん?…ふっふぁぁあぁあぁああぁぁぁぁあああああ!!!」


 思わず布団から飛び上がり握った食玩に飛びついてしまう。


「なにこれ!?なにこれ!?虹色の卵!?」


 【空想生き物シリーズ】天空覇者編には5種類のおまけがある、世界最強の魔竜テューポーン・天空の原初の神アイテール・天国と空の女神ヌト・星空の神アストライオス・蝿の王ベルゼブブ。

 ちなみにシークレットはテューポーンですべて食玩としては大きい10センチほどある、他のコンビニは棚が圧縮されるのを嫌がって少量しか入荷しないが私の独断と偏見で他店の10倍は仕入れをした。

 そのおかげでネットであそこの店はオタクな店長に違いないと言われたり、言われなかったりまあ良いけど。そんなことを考えながらPCを付けて早速情報を集める。


「んー…やっぱり公式のホームページにも載ってない…、虹色の卵なんだろう…?、工場ラインで間違って入ったのか?いやその確率は数億分の1くらいだろうし、ツイッターにも情報サイトにも載ってないなんだこれ…?」


 その後も数時間情報を集めたが1つとして虹色の卵の手がかりは掴めなかった。


「うわーもう14時回ってんじゃん、夢中になるとすぐこれだよ、あー20時からシフトだから寝よ寝よ、卵も天空覇者編の棚に飾って…よしっ、それにしてもなんか禍々しいというか威圧的というか凄いなこのランナップ…」


 床に引いた布団から見上げるとカーテンの隙間から差し込む光で鈍く輝く虹色の卵、そしてその光を受けて今にも鼓動が聞こえてきそうなほどリアルに見える5種類のフィギュア、私は不思議な感覚を覚えながら眠りに落ちたのだった。


◇◆◇


『仕事に行きたくない、行きたくない、行きたくない、行きたくない、行きたくない、行きたくない、行きたくない、行きたくない』


 懐かしい昔の私だ、新卒で入った会社はブラック企業で一日18時間働いて、その上司からはパワハラ三昧、クタクタになって家に帰って4時間寝てまた会社に行く毎日。

 朝一番の電車のホームで考えることはここで飛び込めばこの苦しい状況から抜け出せるんじゃないか?というだけだった…


ピピピピピピピピピ


「んー…あーきつ…嫌な夢見たって!!!遅刻!!!!」


 久々に嫌な夢見るしあー!もう時間無い!歯磨きは店で済ませよう、化粧も無理だし顔だけ洗って、よしっ後は店で…


「えっーと今日は水曜日だから雑誌の入れ替えして1時からモップかけて、それからシフト表作って…ブツブツ、ごめーん遅れたー!」


 いつも通り自動ドアが開くのと同時に暖かい空気とふわっと店内の匂いが漂ってくる、急ぎながら入った店内はLEDで照らされて若干眩しさを感じる。夜の8時30分いつもは数人のお客様と見知った店員が忙しそうに働いている―――それがいつもの日常だった。


 だがそこには誰も居なかった。


「…えっ?」

 

 私はいつもと違う店の雰囲気、いや店以外の雰囲気が違う気がして、入り口の自動ドアの前で少し止まってしまた。

 静まりかえった店内でいつもは聞こえない冷蔵庫の音とレジの後ろに置かれた時計のコチコチと進む音が妙に大きく聞こえ、明るく照らされた店内は得体のしれないものが息を潜めているようで私の店なのにゾクリと嫌なものを感じた。


「おーい、…山田くーん、青山さーんバックに居るのー?」


 夜の8時30分を少し過ぎるように指している時計を確認して私はバックヤードに向かう、もしかしたら何か問題が起きた?今の時間は3人シフトだから1人がトイレで1人が裏で品出し?そんな事を考えながらバックヤードに続くドアを開ける。

 そこはただ電気が消え、まだダンボールから出されていない商品が積まれているだけだった。さらにその奥にある休憩所兼事務所として使っている部屋から光が漏れている、なんで私はこんなに不安なのだろう…、ただタイミングで店に人が居なかっただけ、そう考えるのが自然だし普通だだけど…。

 いつの間にか汗ばんでいた手でスライド式のドアに手をかける、…いつもは気にならない壁型の冷蔵庫の音がさらに大きく聞こえる、いつもは普通に開くドアが今日は地獄の門のように重い気がする。


「スーッ…、えーい!ビビってられるかここは私の店だ!!」


 グッと力を開け開けようとしたその時


『ポンポーンいらっしゃいませ~♪』


「うわっ!あっお客さんか…し、仕事しないと」


 突然自動ドアのセンサーが起動して急に引き戻される、そうだ営業中じゃないか私は何をやってるんだ、早く戻って接客しなきゃ。

 ドアから手を離しバックドアから店内へ戻る、視点の隅で休憩室のドアの隙間から何かが動いたように見えたが気にしていられない、今はお客さんの対応しないと。


「いらっしゃいませー!」


「えっ、…もしかして人間、なっなんでこんな所に!?」


 バックヤードか出てお決まりの挨拶をすると入り口には尻もちを付いてこちらを見ている女性が1人、うわー…なんか変なお客さんが来たな。

 THE 魔法使いのような足元まである黒いローブを着て顔や体は見えないが声で女性だとわかる、それにしても使い古されたのかボロボロのローブだな…アニメでよく見るけど、近所でコスプレイベンドでもあったのかな?

 アニメ好きの私はよく食玩を大量に仕入れたり、一番くじを多めに入れたりしてるので、アニメ好きのスタッフやお客さんも多いのだ。尻もちをついた彼女は長いローブをバサバサと妙に焦っているように見える。


「ちょっちょっと!ななんで人間がココにえっ?えっ!?」


「あー…ちょっと落ち着いて…、えっとー…良いコスプレですね頭巾の所とかちょっと盛り上がって、あっ!猫耳魔法使いですか?へーなんの作品だろう?」


 まだ焦って立てない彼女に手を差し伸べながら話しかける、やっぱり趣味が絡んでる仕事は楽しいなー、など呑気なことを考えていると彼女がいきなり後ろを指差して――


「「あっ危ない!!!」」


「へっ?」


 一瞬コンビニのガラス張り全面に土石流のような猛烈な勢いで体当たりを仕掛けてくる生物が見えた。よくテレビで死の危機に瀕した人達がスローモーションで世界が動いているように見えたとか、嘘くさい話は本当だったのかと脳天気な考えと恐怖でピクリとも動かない身体、だが徐々に近づいてくる山のような物体が現実味をましていく。

 あっもうダメだ、私はとっさに床に座り込んでいるお客さんを抱きかかえるように倒れ込んだ。死ぬのか…せっかく3年間作った店もって、私はこんな時にもお店の心配をするのか…、まあ私らしいな。



「・・・トッ、……アナタ、ねえ!返事しなさいよ!!!」


 誰…すごい眠いからもうちょっと寝かせてよ…、冬の暖かい布団から引きずり出されるように強引な声が響く。起きたほうが良いのかな…でもすごく眠いしあーっどうでも良いや、寝……る。


「起きろこのっ!」


「ぐえっ!ちょっとお腹押すのやめでっ!」


「良かった…生き返った…」


「ゴホッゴホッ生き返ったって…、うえっなんか気持ち悪いっ、ってあれ…誰、というかここっ私の店。…ああっ!!なにこれ!?」


 店の中は一言で言うと悲惨だった、外側に面したガラスが全て割れ破片が店中に飛び散り、雑誌が置いてあった棚は反対側のお弁当が置いてある冷蔵庫まで飛ばされていた。

 私は先程とは逆に床に寝かされ、謎の女性は私に被さり手から光を出していた、というか出している。


「良かった…死んじゃったかと思った、うちあんまり治癒魔法上手くないし、全然あなた動かなくて…グスッ」


「魔法?えっ…魔法って?死んだ?えっ!?……狐耳!!」


「ヒッ!」


 思わず私は叫んでしまった、だって彼女の頭に付いているのはどう見ても2つの動物の耳しかもピコピコと動き、ペタンと座っているスカートから伸びる足は猫の足のようにふわふわの毛、そして顔を覆っていたローブの下からはケッケモノっ子だああああ!


「えっ!?狐?でも喋ってっえ!?」


「ちょっ…ちょっと抱きつこうとするな!――私は誇り高き白狐族(びゃっこぞく)のエウディだ!」


 ちょっと混乱した私は思いっきり抱きついて体中撫で回してしまった…。だってホワホワして気持ちよかったし……それよりも!

 あの突撃してきた怪物も店の状況も飛び散ったガラスで切ったじんじんと痛み血が流れている腕も、どこを見ても現実にしか見えない。私はぐるぐると回る思考からかろうじで出せた言葉に希望を込める。


「えっと…ここってどこですか?」


「?、…どこって魔王国だが?」


 耳をピクピクさせ何言ってんだこいつ?みたいな顔をして、あっさりと答える彼女の言葉に私の力がゆっくりと抜けていくのを感じながら床に倒れるのだった。


「異世界だここ…」

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