マリーの泣きたい一日
一年前に書いてましたが、うまく纏まらなかった長編の第一話です。お目汚しにではございますが、供養として投稿させて頂きます。
「もおおお!なんでこんな事になるのおお!」
「俺だって知りたい!!右ッ!」
ジョンの声で咄嗟に身体を捻って、振り下ろされるゴーレムの腕をギリギリで躱す。
「ウル・クーア」
ゴーレムの肩に輝く円盤部分へと水属性の魔法を撃つ。同時にバックステップでジョンのいる場所まで退避。
間髪入れずジョンが私が攻撃した部分と同じ箇所へ自動小銃で連射すると円盤の輝きが消えた。
円盤を破壊されたのが腹立たしいのか、ゴーレムが仁王立ちになって咆哮を上げる。その間に直ぐさま先ほど撃ち尽くした拳銃に弾を装填。
これで20箇所ほどあった輝く円盤は残り半分ほど。
再び動き出したゴーレムを見据えつつも、動きまわることでゴーレムの土魔法を避け続けながら拳銃で次の円盤を狙う。
銃の弾数は残り僅か。魔力も中級をあと3,4回発動が出来るかどうか。
ジョンも残弾は少ないだろう。つまり、何が言いたいかって?
私達はピンチだ!!!
< マリーの泣きたい一日>
「どうしよう」
「どうしよう」
私とジョンが二人して声を揃えた原因は至って単純。任務で討伐ターゲットのモンスターを追いかけているうちに最深部へと入り込んでしまっていたためだ。
このコスタ・フォレ森林群の最深部にはAランクのモンスターがうじゃうじゃいる場所だ。
そもそも私たちはこれまでコスタ・フォレ森林群に入ったことすらない。ここは危険指定区域で候補生は入ってはいけない規則だったからだ。
そんな超危険地帯へ学園を卒業したてのピカピカ新入隊員二人が入るとか、いくら正規隊員となった初任務で張り切っていたとしてもこれはない、ないわー。
「討伐ターゲットのモンスターを倒したはいいけども、まさか最深部に入り込んでたなんて。」
頭を抱えているジョン。気持ちは痛いほど分かるぞ。私も同じだ。
コスタ・フォレ森林群に入って直ぐにターゲットのモンスターを見つけたのは良いけども、そのモンスターの逃げ足の早いこと。
見つけた瞬間、脱兎のごとく逃げ出す。
私の元々の身体能力はそこまで高くないから脚力強化の術式をかけても追いつけないことはまあ、悲しいことにありえるけども、術式をかけたジョンからも逃げ切るとかどんだけ足が速いのこのモンスターは!
馬と兎が合体したようなモンスターだからか!!
見つけては、逃げられ、見つけては、逃げられの繰り返しの中、通算4回目の遭遇。
ようやく逃げられる前に追跡の術式をかける事に成功した。
その追跡の術式を利用してモンスターを待ち伏せし、先制攻撃を食らわすとあっさり倒せた事に拍子抜けをしたまでは良かった。
よっし、任務完了!と喜んだ過去の私達に言いたい。
ここからが地獄の始まりだぞ、と。
任務達成の報告をするためにジョンが腕時計に内蔵されている通信を起動させると、まさかの圏外。
ハイランド国軍で支給される腕時計は高性能で、通信は世界の3/2以上をカバーする最先端のハイテク機器だ。
それが圏外ということはつまり。
「俺の機械壊れたのかも。マリーが報告してくれない?」
「オッケー」
誰だってまずは故障を疑うよね。うん。そして私の腕時計を操作して本部に接続しようとするも、圏外。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ブリーフィングでさ、注意事項で最深部には絶対に入り込むなよー。A級がうじゃうじゃいるからなー。あとその一帯は通信が繋がらないからもし入り込んでも助けは期待できないぞー。とかなんとか言ってなかったけ?」
「・・・・よし、早くこの場所から離脱しよう。」
そうして、最深部から脱出を試みるも、通信だけではなく方向感感覚まで狂わされるとか思わないよね!
腕時計に内蔵されている方位磁針もくるくる回ってまるで役にたたない。
「ほんと、どうする。マリーの位置探査術式も使えないし。」
「生態探知術式は使えるからなんとかモンスターは避けれてるのが不幸中の幸いだねぇ」
「それでも何度か遭遇しそうになるし。」
「発動地点から半径50mしか探知できないからねぇ。ってジョンくんよ、さっきから泣き言ばかりで普段の君の脳天気さはどこへいった。」
「俺は脳天気じゃないし、この状況は泣き言も言いたくなる。マリーはどうなんだよ?」
「そんなの決まってる………泣きたい!!」
私は声高らかに叫んだ。
そんな私の高らかな泣きの宣言に引き寄せられて来たというなら反省します。二度と泣きたいとは言いません。
こんな誓いを立てちゃう事態が発生。
現在私とジョンは全速力で走ってます。
「ちょおおおおおおお!マリーが大声だすからあああああ!」
「ごめえええええんんんん!!」
私とジョンの後ろには古代魔導生命体・通称ゴーレムが追いかけてきていた。
古代の魔道士に造られたゴーレムはそのパワー・魔力共に強大だ。もちろん最深部に相応しいAランクであり、滅多に遭遇しないレアモンスターでもある。
退治するにはゴーレムの駆動部にある光輝く円盤を全て破壊するしかないのだが、それがまた絶妙に攻撃を当てにくい箇所に円盤があるのだ。
なんで足の下にまであるのさ。
ゴーレムは魔導生命体なので生物を探知する生態探知術式には反応しないため、もちろん先ほど展開した術式に反応せず。
よりによってなんでこんな時にレアキャラで面倒臭いモンスターとエンカウントしちゃうの!?しかも振り切ったと思っても何故か追いついてくるし。
ゴーレムは追跡の術は使えないはずなんだけども、逃げ切れない。
こうなったら…。
「残りの装備は?」
隣を走るジョンに声をかける。
「自動小銃の弾倉が2個、拳銃が2丁。それからナイフだな。」
「私も拳銃2丁と同じくナイフ、魔力は高難易度が4,5発ほど。いける?!」
「ギリギリだけどやるしかないよなぁ。1,2の3で左右に散開するか。」
「了解っと。その前に対魔法・対物理防御をかけとくね。プラエ・マグ・フィラム。」
「…よし、それじゃあいくぞ!1、2の……3ッ!!」
そうして、冒頭へと至るのだが、私とジョンは学園の候補生の頃からよく一緒にチームを組んでいたから連携はスムーズにいった。
自然と挟撃するように動き、互いをサポートする。
私は魔法と拳銃の中距離型、ジョンは銃火器の中・遠距離型だったのも相性がよかった。ゴーレムは強力なパワーと無尽蔵な魔力は脅威だが、動きは遅い。ある程度距離を取れば私達みたいな新入隊員でもなんとか対応できている。
では何が問題かといえば、装備品の少なさだ。
任務で討伐したモンスターをあっさり倒せてはいたが、それでも少なくない弾薬と魔力を消耗した後だ。
そして、その不安は的中する。円盤も残りあと僅かという所にきて弾薬と魔力が尽きたのだ。
「やばい、弾が切れた。」
「同じく。魔力もカラッカラ。」
「やっぱり節約してはいても倒すまでは持たなかったかぁ、っと!」
「そうだ、ねっ!」
ゴーレムの攻撃を避けながら一時的に退避。木の陰に身を隠しながらゴーレムの様子を伺う。って、円盤あと2個じゃん。
これなら、とジョンの方を見ると、ジョンも気づいたのか真剣な顔で頷く。
「マリー。俺、この戦いが終わったらお前に伝えたい事があるんだ。」
「(真剣な顔をしたかと思えば。)あーはいはい、急に変なフラグを立ててないで、残り2個の円盤を破壊することに集中しよう。私、ナイフは苦手なんだよね。」
「本当なのに軽く流された。ま、それは後にするとして、ナイフは俺も苦手。でもコレでやるしかないんだよなぁ。残り2個だしなんとかなるはず。ってことで俺が先に仕掛けるからアシストよろしく。」
そう言って、ジョンはゴーレムに向かって駆け出す。私はすぐさまその後ろを追随する。
残りの円盤は1つは頭部、1つは腹の真ん中だ。
ジョンは振りかぶるゴーレムの腕を潜り抜けて腹部の円盤にナイフで一撃を食らわす。
ジョンは銃火器のエキスパートだがナイフ戦だって苦手なんだと言いながらも中の上な成績だったのだ。
うまいなーと思いながら私もジョンを狙って振りかぶられた腕へと飛び乗り、そこから頭の円盤を狙って跳躍する。カラッカラになった魔力を絞り出し、足りない腕力を術式強化。なりふり構わず全体重を載せてナイフを突き刺す。
円盤の破壊はジョンと私ほぼ同時だった。魔力を流す円盤がなくなったことでゴーレムはしだいにゆっくりとした動作となり、ついには完全に停止した。
「・・・終わった?」
そっと小さくつぶやくと、ジョンが答える。
「これで終わらなかったら無理死ぬ。」
しばらくするとゴーレムが少しずつ崩れ始めたので、私は円盤に突き刺したナイフを引き抜き地面へ飛び降りる。
「危なかったぁ。ゴーレムって硬いからナイフが折れるかと思ったよ。」
「よく、突き刺せたな。俺でも結構きつかったのに。」
「術式を使って腕力強化したからね〜。」
「カラッカラになったじゃなかったっけ。」
「そこは、ほら。気合と根性で。」
「気合と根性…。しかしあの装備品でよく俺たちゴーレムを倒せてよかったよなぁ。我ながらすげぇ。でも根本的な問題は解決してないんだよなぁ。」
「絶賛迷子中だもんね。ゴーレムとの戦闘で弾と魔力を完全に消費しちゃったし、本格的にこれはマズイよね。」
「次に敵と遭遇したら今度こそ死ぬ自信がある。」
「だよねー。まぁ、戦ってる間に結構な距離を移動したし、念の為に通信が繋がるかの確認だけしとこっか。」
「だな。俺ので確認してみるよ。」
はたして。
「…あ、繋がった。」
「神様ありがとう!!」
「で、討伐モンスターを倒して、ついでに古代魔導生命体のゴーレムを倒して、無事に任務完了というわけか。君たちの噂は学園の教官達から聞いてはいたがコスタ・フォレ森林群の最深部に侵入して、しかもAランクモンスターを倒してくるだなんて、それも初任務で…。」
通信が繋がって無事に本部へと戻った私たちはさっそく今回の任務報告を上官であるリース隊長へと行っていた。
でも、いま隊長がいった私達の噂ってなんだ?ジョンも不思議そうにしている。すごく聞きたいような聞きたくないような。よし、聞かなかったことにしよう。
「ゴーレムに関しましては、討伐後に核となっていたクリスタルの採集もしております。提出はどちらの部署にすればよろしいでしょうか。」
「……あぁ、うん、それは私が預かっておくよ。後で担当部署に回しておくから。」
そういったリース隊長はどこか疲れた表情だ。隊長という立場だ。色々な雑務やら対応やら雑務やらで忙しいんだろうなぁ。お疲れ様です。
「分かりました。では、これで任務報告は以上となります。失礼します。」
「失礼します。」
私とジョンはリース隊長にむかって敬礼をし、部屋を出た。
しばらく廊下を歩いていくうちに無事に任務を達成したことの実感を感じ始めてきた。
この感覚、ジョンも感じていることだろう。嬉しいよね、高揚するよね。お酒飲みに行きたいよね!
「初めての任務で色々あったけど無事に終わってよかったね!それでさ、一緒に居酒屋でも行か、」
「マリー…。」
と、そこには真剣な表情をしたジョンがいた。
あれ?任務達成したけどまだなにか問題あったけ?何か報告漏れしてた?再報告しに戻ったほうがいいのかな。
「ゴーレム戦の時に、この戦いが終わったらお前に伝えたい事があるって言ったよな。」
「!?……あぁ、そういえば、そんなこと言ってたねぇ。(すっかり忘れてた。)」
戦闘中は冗談だと思って流してたけども、本当だったんだ。
よくあるパターンだとここで愛の告白とかになるんだろうけども、まぁ、相手はジョンだしな。
そしてジョンは真剣な表情で私に爆弾を落としていったのだった。
「実は……………今週の土曜日におばさんがこっちに来るんだって。」
「へ?」
「だから、今週の土曜日にお前の母親が、」
「はああああああ!?え!?ちょ?なんで!!?どうして!?お母さんが!?てか、なんでジョンがそんなこと知ってるの!?!??」
「間違って俺の所におばさんからの手紙が届いたから。配達する人が間違えたんだろうな。」
「またか!!シャーウッド違い!!!!」
そう、私とジョンのファミリーネームは同じなのだ。
私はマリー・シャーウッド。
ジョンはジョン・シャーウッド
珍しいファミリーネームでしかもそれが同じだから学園に入学した当初も兄弟か親戚かと周りから思われたりしたが、至って普通に赤の他人だ。顔だって全然似てない。でも、周囲からは雰囲気が同じとも言われたなぁ。
私は真面目で、ジョンはマイペースで脳天気。全然違うのに。
ちなみにそのことをジョンに言ったら、俺が真面目でお前がマイペースで脳天気だよと言われた。
しかし、そのせいとでもいうか、当時は互いの荷物が間違って届いたり(配達員しっかりしろ)、シャーウッド同士で同じチーム組めばじゃんと何度もチームを組まされたり(最終的には息のあったバディになったからいいけど)、とまぁ、色々あったのだ。
そうか、ここでも同じ目に合うのか…。新しい場所だもんね。新入隊員だもんね。
しかし、よりによってお母さんからの手紙を間違えて届けられるだなんて。
ジョンが哀れんだ目でこちらを見る。
「お前、おばさんのこと苦手だもんな。ちなみに、俺もちょっと苦手。」
泣きたいなんて言わないって誓ったけど、撤回。
すっっっっっごく泣きたい!!!!!