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トワイライトシーカー  作者: otsk
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9話:自分のペース

「まあ、夕方時の屋上とか怪しいことの鉄板だよな」


 なんかこいつのイメージでいくとやはりミステリーというよりはオカルトのような気がしてならないが突っ込まない方向で行こう。領域的に被るところがあるんだろう。

 しかし、屋上というが開いてるのか?


「誰も使わねえからなあ。精々給水塔のメンテナンスで業者が出入りするぐらいだ」


「じゃあどうするんだよ」


「まあ、ここの鍵はボロくてな。チョロっと仕組みがわかってれば開けることは簡単だ」


 それはピッキングであって、こういう場で活かすものではない。この情熱をもっと別の方向に活かしてほしいものだ。


「ほい、開いたぞ」


「戻せるんだろうな……」


「戻せないなら開けようなんてしねえぜ……げ、先客がいやがる」


「先客?」


 遊を押しのけて奥を見ると、確かに言う通り人影がある。まあ、だいぶ奥の方の柵にもたれかかってるので、ここで引き返せば見つかることもなさそうだが。

 そんなことは気にせずに遊は屋上へと歩き出した。


「お、おい。いいのかよ」


「大丈夫。あれなら」


 あれ扱いかよ。教師なのか?

 さすがに近づいてきたら気配に気づいたのか、こちらに振り返った。

 ……タバコ咥えながら。


「禁煙でしょう」


「……かてえこと言うなや。ここに入ってきてる時点でお前らも不法侵入として職員会議にかけることもできる」


「逆にこちらも喫煙の目撃を先生方にチクることも出来ますが」


「まあ、バレてるだろうし今更なんだよなあ。遅かれ早かれというやつだ」


「確かに口臭とかは誤魔化せても服についた匂いまではすぐに消せませんし」


「そういうこった。まあ、どちらも現行犯だから持ちつ持たれつといこうや」


「で、この人は?俺は知らん」


「ここの教師なんだけどなあ。非常勤だけどな」


「非常勤だから自由にやってるってことすか」


「そういうことだ。非常勤は楽でいいぜ。給料は悲しいけどな」


 この学校非常勤教師なんて雇ってたのか。まあ、教師が人数足りてるわけでもないし、非常勤から常勤に上がるケースだってあるだろう。ただ、この人は上がらなさそう。


「おいおい、そんな残念な人を見る目をするな。まあ、こんなんじゃ仕方無えか。で、俺は人なんてそうこうこないここで一服してたわけだが、お前らはどうしたんだ?悪い遊びをするようならそれこそ本当にチクるが」


「ああ、こいつの部活動の一環?で手伝いしてんすよ」


「神楽、ちゃんと活動してたのか」


「なんとか廃部にしないように動いて実績残そうとしてんすよ。顧問が働かねえから」


「雇われ顧問だし。俺がいなくなったらやるやついなくて結局自動消滅だろ」


「……はあ。この人はうちの部の顧問の仙石せんごく環太かんた先生だ。なんだっけ?美術の先生?」


「疑問系で聞くなよ。合ってるよ」


 なるほど、知らないわけだ。三年生はないのだが、2年までは選択科目で家庭、技術、音楽、美術から一つとるのだ。俺は技術を取ってたので、もし俺たちが1年のときからいるとしても知らんわけだ。


「ということは芸大とかで勉強してたんすか?」


「美術教師なんて大概なんかの芸術家崩れだよ。だからなり手が少なくてな。なかなか常勤講師も捕まらねえわけだよ」


「自分がなろうとは思わないんですか」


「なったら最後だと思ってる。もしその話がきたら断って別の非常勤を探す」


「……このご時世、そうそう再就職先って見つかるのか?」


「俺に聞くなよ」


 そもそもクビ前提で話してるのも大きなお世話な話であるし、そもそもこの人が常勤になろうが、どこかに飛ばされようが俺にはまったく関係ない話だ。


「で、うちの部のなんの手伝い?なんか活動してたっけ?」


「来いよ顧問……」


「まあ、問題起こさねえなら俺は首は突っ込まねえよ。ただ、確かに活動内容の把握ぐらいしといたほうがいいよな」


 こんなんで顧問も務まるんだな。まあ、全国目指すぞーとかそういう部活でもないからこれぐらい緩い方が合ってるのかもしれない。ただ、こんな幻想紛いの話をして信じてもらえるのだろうか。

 でも、先代もそれを探ってたという話を遊のやつはしてたし、それぐらいなら知ってるのかもしれない。


「この町の七不思議知ってます?」


「ん?おお。まあ、この町の生まれ育ちだからな俺も」


「六つまではすでに解明してるんすよ。俺の前の代までで」


「最後の一つを解明しようとしてるわけだな?」


「話が早いっすね。まあ、その最後というのが……」


「『トワイライトシーカー』……だろ?」


「知ってんすか?」


「ま、知ってるも何も、その話を垂れ流し始めたのが俺だからな」


「……はい?」


「この学校の卒業生でな、俺も。だから、縁あってここで働いてるわけだが、不思議な出来事に巻き込まれたわけだ。信じようと信じまいと勝手だけどな。噂が巡り巡って、七不思議なんて呼ばれるようになっちまった」


「ちょ、ちょっと先生。事の発端はなんだったんですか?」


「俺は別にオカルト研究部でもミステリー研究部でもなかったけどな。ミステリー研究部の部長と仲がよくて面白い話はないかって聞かれたんだよ。だから、俺があった不可思議な出来事をそのまま話してやった。そいつがそれに出会えたのかは知らねえけどな」


「あの、具体的な内容は……」


「知りたいのか?」


「それを調べてるわけですし」


「それもそうだな。とある少年がちょうどこんな時間帯にちっちゃなガキに出会っただけの話だよ。名前なんて知らねえし、向こうも自分の名前なんて知らなかったしな。ただ、俺はなぜか3日ほど学校を無断欠席してる扱いになっててな。怪奇現象だろ?」


「オチは?」


「それがねえんだよな。親も3日もどこに行ってたの?って言うんだから家で寝てたわけでもなさそうだし、こりゃ神隠しにでもあったかねというわけだ」


「なんか雑じゃないですか?」


「俺が高校の時の話だしな。そして、高校を卒業してからは会うことはなかった。しかし、戻ってきて驚いたよ。まだ、そんなの残ってたんだなって。まあ、噂話には尾ひれがつくもんだが、これに関しては噂話はあっても尾ひれを掴ませてくれねえんだから厄介なもんだわな」


「……先生。俺、その先生がいうガキに会いました。たぶん、12,3歳ぐらいの女の子、ですよね?」


 仙石先生はひゅう、と大して上手くもない口笛を吹いて驚いた様子を見せた。


「同じことに遭うやつもいるもんだな」


「昨日、一昨日と会ってます」


「へぇ」


「……だから、他にそこに行けるところがないか探してました」


「それで立ち入り禁止のここに来たのか」


 仙石先生はタバコを一本取りだし、火をつけた。生徒の前だっつの。

 凪はタバコが苦手なのか、俺の後ろで俺の制服に顔を押し当てている。

 空を仰いで、仙石先生はタバコの煙を吐き出した。


「まあ、体験した俺としてはあまり深入りするな、と言いたいところだな」


「……だいたい理由は分かりますよ。行ったら戻れるかも分からないし、戻ったところでこっちでどれだけ時間が経ってるかも分からないからでしょう?」


「そこまでわかってんなら、お前はなんでそれを解明したいんだ?わざわざリスクを冒してやることはないだろ?」


「なんなんでしょうね。僕もよく分からないですが、なんとなく助けたいって思ったんでしょう。名前つけてあげたら愛着湧いたというか」


「ペットかよ」


「自分の名前を知らないって言ってたでしょう?なら、呼んであげられる人が呼んであげなきゃ、人の形を成してる意味がなくなります」


「……また会えるという保証は?ちなみに俺は一度きりだった。お前は二度会ってるというが、三度目があるとも限らない。二回目までこうして戻ってきてはいるが、次起きた時、時間のズレもなく戻ってこれる保証もない。解明したいと思うのは自由だが、それはお前が過ごせるはずだった青春を失うかもしれないという裏返しでもある。ま、忠告はするが止めはしねえよ。なんせ、俺は無責任教師だからな。今日はどちらも何も見なかった。そうしておこう」


 流石に屋上に灰皿が置いてるわけでもないので、ポケット灰皿を使って火を消してから仙石先生は屋上から出て行った。

 先駆者がいたんだな。まあ、確かにいなければ噂なんて立ちようもないし。火のないところに煙は立たないというやつだな。文字通りに煙を出して行ったけど。これ、見つかったら俺たちが喫煙してると思われないか?その時は突き出してやる。


「凪、いつまでそうしてんだ。もういいだろ」


「うう……タバコの臭い苦手」


「まあ、いいんだけどさ」


「想、どうする?」


「続けるさ。帰ってきたら受験がちょうど終わってるぐらいの時間軸がいいな」


「いや、それお前受けてねえから自動的に浪人……というか出席日数足りなくて留年だろ」


「マジかよ。誰か俺に瓜二つのやついねえの?」


「そんなやつを探すよりか、辞めるという選択肢を取ったほうが賢いと思うんだが?」


「まあ、誰も毎日やるとも言ってねえよ。現状、調べ出してすぐに行けたのは俺だけだ。他の調査してる奴らは止めさせとけ。何人もリスク冒すよか、俺だけで調べたほうがよほど効率が良さそうだ」


「そうだな」


「ねえ、想ちゃん」


「ん?」


「学校って喫煙室なかったっけ?」


「まあ、あったような気もするな」


「なんで先生はわざわざここで吸いに来てたんだろ?」


「肩身狭いんだろ。非常勤だから」


「それこそリスクを冒してるんじゃないの?」


「そうだな……」


 わざわざここでタバコを吸ってた理由か。確かにここに来てまで吸うのは得策ではない。素直に喫煙室にでも行けばいい話だ。俺が言った肩身が狭いというのもなくはない話かもしれないが、一々そんなことまで気にすることはないだろう。いない時を見計らって吸いに行けばいいことだし。

 なら、なぜここで吸ってたんだろう。


「想ちゃん。それはですね、あの先生はここでそこに行ったからじゃないですかね?」


「ここで?」


「ここで」


「もしかしたらまた行けるんじゃないかっていう期待か」


「だから、私たちもここを調べればもしかしたら行けるかも」


「まあ、あんな街中で不確定なところを散策するよかは場所が固定されてるほうがいいよな」


「まだ行けると決まったわけじゃないだろ」


「行けると信じれば行ける。最初から行けないと思ってたら確率は下がるさ。よし、どこかにゲートがないか探すぞ」


「お前が一番疑ってんだろ。ゲートなんてねえよ。そこにある屋上への入り口だけだ」


「給水塔に謎の扉があって異空間に繋がってるとかねえの?」


「そんな話があるなら真っ先に俺が行ってるわ。そもそもそんなもんあったら給水塔のメンテナンスに来てる人が次々行方不明になるだろうが」


「だから、アレだよ。お前言ってたろ?俺たちの年代ぐらいまでしかその現象に遭わないって」


「むしろそれすらもデマであってほしいと願ってる自分がここにいるぜ。新しく7個目作り直してそれを七不思議に登録してやる」


「じゃあ、お前は離脱な。これからは俺単独で捜索させてもらう」


「私もいるよ!」


「待てや!誰もやらないなんて言ってないだろ!」


「じゃあ、試しにここから飛んでみるか?」


「その異空間に行く前に別の領域へ行っちまうわ!」


「コントしててもしょうがねえな。適当にグルッと周るか」


「見つかるといいな」


「あと、遊。一つ質問だ」


「なんだ?」


「さっきな、あそこの扉が閉まるのを見たんだ」


「仙石先生が閉めたんだろ」


「まあ、それは分かる。ただ、その後になんか鍵が閉まる音が聞こえたんだが、あそこ、こっちから鍵開けれたか?」


「…………試してくる」


 すぐに行って戻ってきた。


「まあ、鍵自体はこっちからはひねるだけのものだから開けられる。が」


「が?」


「悲しいかな。立て付けが悪いのか開かない」


「…………」


「…………」


「今日は何曜日だったか」


「金曜日だな」


「次のメンテナンスは」


「さすがに生徒がいるときにやんねえだろうから今度の日曜とかじゃね?」


「……凪、悪いが他の友達のところに泊まってるって連絡しておけ」


「え?私、想ちゃん以外に友達いないよ」


 こんなところで悲しき事実が露見したんだけど。だから、俺にばっかつきまとってんのか。というか、遊のやつは友達ではないのか。


「まあ、私は学校以外の時間を想ちゃんに費やすって決めてるから仕方ないね!」


 胸張るな。こんな幼馴染を持って逆に悲しいから。せめて友達作って。というか、友達と思ってくれてる人もいるだろうし、この人たちに失礼だろうが。誰かこの子引き取ってあげて。


「ですが、私にも新しい友達ができそうです」


 ん?遊のやつか?


「想ちゃんが会った女の子に会わせてくれればきっと友達になれると思います!」


 会わせたくなくなってきた。むしろ、お前の方が来い。下手するとここで1夜どころか2夜明ける羽目になるかもしれんし。


「心配はご無用だぞ、想。なんのための携帯だ。怒られるわ、反省文は必至だが、担任の連絡先を使えばさすがに救出され……」


「どうした?」


「電源切れてる」


「この役立たず」


「持ってきてすらいないお前らに言われたくない!」


 カバンの中に突っ込んだまま来たので、部室に放置。使う事態になるとは思わなかったから仕方ない。ここは、警備員か当直の先生が見回りに来るまで待つことにしよう。


「じゃあ探してみよう〜」


 なんでこの娘はもっと危機感持たないの?

 夕日も沈みかける頃、屋上に取り残された俺たちは特に脱出しようとかいう計画を立てるでもなく、あの世界への入り口を探し歩き始めるのだった。


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