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トワイライトシーカー  作者: otsk
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6話:作られた世界

 世界は一週間で神によって作られた、とされている話がある。実際はビッグバンによる宇宙の形成から始まって、隕石とかガンガンぶつかって、なんかの間違いで生命が誕生して、地球という天体になってるわけだが。神様というのはこの地球に色々もたらした言ったほうが作ったというより適切な気がする。正確には一週間で、ではなく6日だしな。最後休んだらしいし。詰めろよ。だから世界は欠陥品なんだよ。完璧なものなんて存在しないのだろうけど。もっと言えば、神様ですら完璧な存在ではないのだろう。どうせ人間の妄想の副産物だし。実際に会って見た人がいるのいうのなれば信用してもいいが、地球創生期のやつが今まだ生きていたらものすごいなんてものの発見ではないな。そもそも人間という知的生命自体の歴史はすごく浅い。そもそも神様の形が人型であることも人間が想像したものであるという立派な証拠だ。ある種自分たちを神としたようなものだ。アホらし。


「しかし、こう適当に歩いていても見つかるのだなお前は」


 そうすぐには見つからないものだと思ったが、十数分もブラブラ歩いていたら目的の人物はすぐに見つかった。


「む?君はいつか会ったね」


「昨日だよ」


「そうか。昨日か……。すまないね、ここにいると時間の流れがよくわからないんだ。景色もこの夕焼けのままだし」


「……俺、君に色々聞きたいことが出来たんだ」


「あまり長いことここにいては帰れなくなってしまうかもしれないよ」


「そんなことあるのか?」


「適当な一般論を言ってみただけだよ。しかし、同じ人間が二度も来るとは思いはしなかった」


「二度来たやつはいないのか?」


「いるかもしれないけどボクは会ったことはないね。そういえば聞きたいことがあるって言ったね。一つ二つで終わることかな?」


「うーん。下手したら日を跨ぐレベルかもな」


「日は跨がないよ。跨ぐべき日はいつも沈まないからね。ここは」


「時間分からねえじゃねえか」


「分からないよ。どれだけ時が経ってるのかなんて。だから、ここに来てしまった人をなるべく早く帰さないといけないんだ」


「今回も探しに来てくれたのか?」


「なぜかピンポイントで君が現れただけだよ。よくもまあ、そんなにポンポンと来るものだ。今日は探し物はあったのかい?」


「そりゃ、君を探していたからな。探し物という目的自体は達成した」


「……どうやってここに来たんだい」


「幼馴染に背中を押されたらなぜか来れた。全く理屈がわからん」


「立ち話もなんだし、どこか腰を落ち着けれるところにでも行こうじゃないか」


「それは家か?」


「ボクに帰る場所はないって教えなかったかな?」


「……ここって建物の中とか入れるのか?」


「入れるよ。もっとも、中に人なんていないんだけど」


「どうやって生活してんだ?」


「ここの時間が流れてないことが答えだよ。時間が流れなければ、お腹が減ることもないし、眠くなることもない。夜が訪れることもないんだ」


「服とか変えないのか?」


「謎だよね。生理的なことはないのに人間は普通に動いてるんだ。……もしかしたらボクは作られたこの街に放り込まれた操り人形なのかもね」


 あまり長い距離を歩くこともなく公園のベンチへと腰をかけた。

 少女は足がつかないためにぷらぷら落ち着きなく足を動かしている。


「何か飲むか?と言いたいところなんだけどな」


「自販機はあるけど、お金はないし、そこに概念的なものがあるだけと考えてくれたほうがいい」


「あんまり広くない街だけど、別の街へ行ったりは出来ないのか?」


「自由で暇な身。だから多分君の聞きたいことは試してきただろう。この街を出ようとするのは無理だった。それが結論だ。ある程度のところには行くんだ。でも、いつか歩いてると同じところへと戻ってきている。誰かがボクを外へ出そうとしてない気がする。そんな気がする」


「時間、あるんだよな」


「そうだね」


「暇ということなら俺と一緒に行ってみるか。1人より2人だ」


「変わるかな……」


「……他に人がいたりしないのか?」


「分かんないよ。ボクだって、どれだけここにいるか分からないんだ。別段ずっとここにいるとしても、それを探す気なんてないよ」


「何か手がかりとかないのか?ずっといる証拠だとか」


「見た目は変わらないからね。君みたいにどこから来たのか分からない人か、ボクみたいにずっとここにいようが、その違いなんて分かりはしないよ」


「……なあ、君がここまで成長するまでの記憶とか」


「ないよ。それも考えた。ボクは何者なのか。ルーツというのは自分を構成するために重要なものだ。……そんなものはなかったよ。でも、こうして喋れるということはどこかである程度の知識を蓄えていたという証拠ではあるのだけど」


 言い切られてしまっては返す言葉もない。ただ、中学生ぐらいというにはあまりにも達観していて、大人びている。時間の過ぎ方が違うのかもしれないというなれば、この姿のままで長い時間を過ごしてきたのかもしれない。

 でも、この事象を説明するには矛盾する点が多すぎる。そういう仕様なのか?


「なあ、浦島太郎って知ってるか?」


「さすがに昔話を説明できないほど教養がないつもりはないよ。さながらここは竜宮城と言いたいのかな?」


「竜宮城ほど、大したものがあるとも思えないし、そもそも向こうは遅いとはいえ時は流れていた。それを考えるのならここも見た目には分からなくても時が流れてるのかもしれない」


「牛歩以下の歩みのようだけど」


「それを考えるのなら、君はきっとその姿でここへ迷い込んだと考えるべきだが、腑に落ちないことはある」


「なんだい?」


「俺を元の世界へと戻した力と自分がその力を有していることを知ってることだ」


「まあ、確かに君の言うことは一理あるよ。他に同じような人はいるかもしれない。それを除いても、ボクはまるでこの世界にいるために生まれたかのようだ」


「解明するための謎が多そうだな」


「しかし、君は大丈夫なのかい?」


「何が?」


「さっきの浦島太郎を考えるならば、もしかしたら戻ったら向こうは時間が考えられないほども過ぎ去ってるかもしれない。君は過ごせるはずだった人生を棒にふるのかもしれないよ」


「……まあ、その時は学校へ行かずとも別に肉体が腐るわけでもあるまいし働けばいい。まあ、君と過ごすのも面白いのかもな」


「すぐに後悔するよ」


「……君も戻るんだ。元の世界へ」


「君にとってはそちらが本当の世界なのかもしれない。でも、ボクにとってはこちらが本当の世界なのかもしれないんだ。適応できるとも限らない。……前に会った時言ったね。その答えを言っておこう。そちらの世界へ行くことは考えてはいない。君のような迷子を返すためにボクはここで生きていく。……ここで生きていれば、おそらく死ぬようなことはないだろうから」


「……君にだって友達や親や、家だってやりたいことだってあったはずだ」


「記憶のないものには縋れないんだよ!もし君のいる世界がボクにとっても本当の世界だったところでなんだというんだい!向こうに行って記憶が戻るなんて保証もない!そうしたらボクはどこで生きていけばいいんだ!ボクを知ってる人はみんな死んでるかもしれない!本当に浦島太郎状態なのかもしれないのに……そんな無責任なことは言わないでくれ!」


「あ…………」


 どこで言葉を間違えたんだろう。そもそも自分は善意で言ってたものはすべて少女にとっては探っていた可能性かもしれない。ただ、それはあくまでも可能性の話であって、本当にそうであるとは限らないんだ。

 なら、今見えている現実を受け入れてしまったほうが、少女にとってはまだ気が楽だったのかもしれない。そもそも、俺が質問する前から分かっていたことなんだろう。

 でも、また会えるなんて思っていなかったから保留した。だけど、俺は琴線に触れてしまったようだ。

 少女は立ち上がって、俺に背を向けて振り向かないように歩いてる。

 このままでは見失ってしまう。しいては、俺も戻れなくなるかもしれない。

 俺は、急いで立ち上がって、少女の肩を掴んだ。


「……すまないね。そういえば君を帰さなければいけなかった」


「待ってくれ。今機嫌を直してくれなんて都合のいいことは言わない。でも、また会ってくれると約束してくれ。その時は君の名前を呼ぶから」


「ボクの……名前?……そんなもの、ないって言ったじゃないか」


「ないならつけてやる。俺が名前をつけてやるから、今から、それが君の名前だ」


「バカバカしい。また会える保証なんてないのに」


「会えないなんて保証もない。だから、名前をつけてやる。君の名前は夕陰ゆうかげひかりだ。だから、俺はこれから君のことを光って呼ぶ。ちゃんとこの名前を呼ばれたら返事してくれよ」


「……呼ばれたらね」


 どうやら受け入れてくれたようだ。正直安直な名前ではあったが、覚えやすいほうがいいだろう。


「今回は出直すよ。また来るから」


「待って。……ボクは君の名前を聞いてない。こちらの名前だけ知ってるなんて不公平じゃないか」


「……言ってなかったか。勝手に言ってるものだと思ってた。俺の名前は隅吉想。呼び方は……まあ、光の呼びやすいようにしてくれ。今度までの宿題だ」


「その必要はないよ。また会おう。想」


 機嫌を直したかは定かではない。だけど、一つ目的を果たした。

 少女に名前をつけることができた。大きな収穫ではなかろうか。

 ただ、まだやることを残していたことを思い出したのは光に触れられた後だった。


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