5話:隣の少女
どこで待っていたのか定かではないが、俺が玄関口から出て少し歩くと凪のやつが出てきて付いてきた。ストーカーですか、君は。
幼馴染に向かってこう言うのもなんだが、こいつの行動は少し常軌を逸してる気がしてならない。常に俺は監視されてそう。俺の行動パターンだけ割り出してどこかで張ってそうだしな。
「凪」
「なに?」
「俺は今日から少しばかり調査を始める。お前と帰れないかもしれない」
「ええ〜こんな可愛い幼馴染置いてくの?」
「昨日を考えてみろ。俺が突如消えてお前は探し回ったんだろ?そんなことが起こるかもしれない」
「想ちゃん帰らなかったら夢芽ちゃんになんて説明すればいいの」
夢芽より親父と母さんに先に話を通してもらいたいのだが。こいつの中での優先順位は夢芽の方が上なのか。
「遊の家にでも泊まりに行ったってことにしといてくれ」
「でも夢芽ちゃん結構鋭いしなぁ」
「お前の態度の問題じゃないのか……?」
こいつ隠し事が下手ですぐ目が泳ぐし動揺するから喋らせるより黙っておいてもらったほうが確率的にはいいのだが、まあ、俺がいなかったら妹はまず凪に確認取るだろうしな。
まず、根本的に向こう側へと行ける保証もないんだが。
「で、今日も付いてくるのか」
「想ちゃんがいる場所が私のいる場所だよ!」
「…………早く転移したいものだ」
「言ってることだけ抜き取ると想ちゃんそうとう危ない人だよ?」
「実際にしてしまったものは仕方ない。まあ、なんの証拠もないわけだが」
実際、本当に向こうとここは本当に別の場所なのかという疑問あるし、時間的なものももちろんだが、俺はある種異次元に飛んでいると考えてもいいかもしれない。そのまま向こうに移住なんて形は取りたくはないのだが。別に転生願望があるわけでもないし。行けたからと言って特殊能力をもらったわけでもない。向こうに行けたこと自体が特殊能力ではないのか?と言われれば、そうですね、と言うしかないけど。
一番怖いことは行ったまま帰れないことや、帰ってきたとして時間が流れすぎている浦島太郎状態になりかねないことだ。俺、ただの行方不明者じゃねえか。
やはり、行くとしてもあの子をこちらへ連れてくるというのが一番最善な解決策な気がする。ただ、そんなことが可能なのか。そもそも、あの子はどういった存在なのか。そういったところも究明しなきゃいけない。
……すべては会えればの話ではあるんだが。やる前から会えないと想定しては今まで考えてきたことがアホらしくなってしまう。
「凪。とりあえず隣にいてくれ。昨日みたいに勝手にいなくなったとしたら困るだろ」
「隣にいた人が急に消えるのも困るどころの話じゃないけど……」
「もしかしたら一緒に行けるかもしれない」
「なになに〜?1人で本当は寂しかったとか?」
「証人が2人いれば信憑性も増すだろう」
横からポコポコ叩かれてるが、こいつの非力で叩かれたところで大したダメージにはならない。
ただ、消えたところを見てるので凪は信じてはいるが、確かに移動したという証拠が今は欲しい。凪がいなかったら白昼夢でも見たのだろうということで片付けていたのだが、まったくどうしてこの幼馴染は……。まあ、別に凪が悪いわけではなく提案した遊か、もしくはそれに乗ってしまった俺か。
この案件というか七不思議は『トワイライトシーカー』などと呼ばれてるらしい。
名の示す通り、夕暮れ時、何かを探してると見つかることからだそうだ。話を聞く限りだと、迷い込んだそいつが探し物をしているのか、探し者が探し物をしているのかは定かではない。実際、俺は何も探してはいなかったしな。強いてあげるのだとすれば、あの少女を探していたわけだが。
目撃情報がいまいち一定となっていないのはなぜだろうか。同じような境遇のやつらが他にもいるとか?
それならそれとしてあそこは街を形成しているということにもなるが。
「……想ちゃん!」
「なんだ、うるさい」
「人の話無視してうるさいはないでしょー!」
「で、なんだよ」
考え事をしていた間に話しかけていたようだ。思いっきり気づいてなかったけど。
「私ね。昨日、想ちゃんが消える瞬間を見てなかったわけですよ」
「はあ」
「だから、ずっと想ちゃん見てれば何が起きたかも分かるかも!」
「瞬きしてる間に消えてたら意味ないな」
「もうーそういうことばっか言うんだからー付き合ってあげないよー」
元より頼んだ記憶もないのだが。むしろ、先に帰っててくれたほうが気苦労もないのだが。まあ、こいつはこいつで部活やってないし、そうするとあまりやることもないので俺についてきてるのだろう。
他に友達いないんですかね?そっちの方が不安です。
「うーむ。向こうに行って出られなくなったやつらが出られたやつの目撃情報になってるのか?」
「なになに?」
「一応俺は帰ってきた、という認識でいるわけだ。時間とかはさておき。目撃情報があって噂があるということは、俺と同じ体験をしたやつがいるということになる」
「それで?」
「誰が構成したかは分からないし、目的も知らないけど、出るためには条件が必要みたいでな。全員が全員その方法で出来たのかも定かじゃない。まあ、結局は何かしら意味があってその世界だか街だかがあるのかもしれないな」
「……でも、それってなんかおかしくない?」
「なにが」
「一瞬とはいえ想ちゃんはこの場からいなくなったってことだよね。場所はこの街と同じ風景の場所って言ってたけど。でも、そんなに迷い込んでる人がいるのなら探す人がいるだろうし、もっと言えばニュースとかになっててもおかしくないと思う」
確かに、この街の風景がそのまま映し出されてるような場所だった。建物内に入れるかどうかは確認はしてないが、この街の風景を映し出して、その中で迷い込んでるやつがいるのなら、迷い込んだやつらはこの街の人、ということにもなりかねない。そんなに行方不明者が出るのならば大々的にニュースになってるはずだ。だが、たかだか噂程度でこれは収まってるということは、元々ここにはない世界で誰かが作った世界だとか?
バカバカしい。ここが現実であるし、誰かが作った世界なんてものは夢だけで十分だ。
でも、どちらかが現実ではない世界が存在しているというのも俺は認識してしまっている。俺たちがいるこの世界が現実のもだと認識しているが、向こうにいる奴らにとっては向こうが現実の世界だと認識しているのかもしれない。だから、何も不自然に思ってない。……と考えることも出来る。
それならば、あの世界を不自然だと認識してるやつを見つければ解決しそうだ。
あそこを作られた世界だと仮定する話であればだが。
「どうやったら行けるんだろうな」
「呼んでみれば?」
「なにを」
「想ちゃんが会った女の子」
「名前もないし、自分の名前を知らないやつのことをか」
「うう〜……そっか。名前、ないんだ。よし、じゃあ私たちでつけてあげよう」
「今ここで付けたところでそいつに伝わるわけないだろ」
「私が適当に押したら行けるかもしれない」
「なんだその謎理論」
「よーいドン!」
間も開けずにこいつは唐突に俺の背中を押した。何も構えてなかったので、少しよろけてしまう。
デコピンでもしてやろうかと、俺は凪の方へ振り向いた。
だけど、凪の姿はなかった。
「……まさか、あんな適当な方法で入ってしまうとは」
あいつが超能力者な気がする。なんてことないアホな少女ではあるはずなんだけど。
「さて……」
とりあえず、一周ぐるりと見渡してみたが、昨日の少女は見当たらない。まあ、いつも同じ場所にいるとかゲームのNPCでもあるまいし、そんなことはないか。どこかに行って俺のようなやつの手助けをしてるのかもしれない。危惧したいところはあの子自身はただの華奢な中学生になるかどうか程度の女の子だということだ。下手なやつだと身の危険もあるのではないだろうか。
遊から仕入れた情報を鵜呑みにするのならば、数年前からここにいるということになるけど。ここで成長を続けているのならば、実年齢は俺たちと同い年か、もしくはもっと小さい頃からここにいるかのどっちかだが。
俺がここで頭を回転させて考えてるよか、本人に直接会って聞いてみたほうが早いか。
見つかるといいんだけど……。