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トワイライトシーカー  作者: otsk
43/45

42話:新しい出会い

 酷く頭痛がしていた。

 どうやって戻ってきたかももう覚えてなかった。

 気づいたらここにいた。

 どこだろうか。

 そういや、仙石が先に行ってると言っていた。ならば、あのお寺の付近なんだろうか。

 お寺で神隠しか。

 ……本当に俺は神隠しにあっていたのだろうか。

 俺はふと思い出して、唇に手を当てた。


「夢……だったのか?」


 あいつがいないのはもう変わらない事実だ。だけど、そのぬくもりがどこかまだ残ってるような気もした。

 そういや、一ヶ月ぐらい体感で言えば向こうにいたのだが、こっちでどれぐらい時間が経ってるのだろう。俺は捜索願とか出されてないだろうか。

 どうやら寝そべっていたみたいで、とりあえず体を起こそうとしたが、思うように動かなく、地面に叩きつけられるようにまた横になってしまった。


「はあ……下を見なくて済むけど、上しか見えないのもなあ」


 前は当然ながらに見えない。

 さすがにいい加減動かないとダメなんだろうか。


「はあ、かったりぃ。なんでいっときの休みの時に境内の掃除なんてしなくちゃいけねえん……だ?」


「ん?」


 上下スウェットというとりあえずだらしない格好で、竹箒を片手に持ち、タオルを首にかけた、なんだかくたびれてるやつが現れた。


「……何してんだ。……その制服、うちの高校の……」


「……仙石、環太先生……」


「あ?俺のこと知ってる?担当したことあったか?」


「あ、いえ……」


 覚えてないのか。しらばっくれているのか。


「これでも記憶力よくて、先生の名前全員知ってるんですよ」


「それはご苦労なことだな。で、うちの寺の近くで何してんだ」


「……ちょっと神隠しの調査を」


「神隠しぃ?はっはっはっ、何もねえよこんな寂れた寺に。いや、寂れた寺だからこそ何が起きても不思議じゃねえな。お前、名前は?」


「……隅吉、想です。ここのお寺、桜とか植わってないですか?」


「桜?ああ、なんか近くの高校がなんか寄贈してくれたとか何とかで寺の前に植わってるぜ。ちょうど今見頃ぐらいだろ。でも、それがどうかしたか?」


「……ちょっと約束をしまして。ここで夜桜を見ようって」


「……へえ、夜桜ねえ。そういや、うちの妹も最近夜桜見たいとかなんか言ってたなあ」


「妹さんがいるんですか」


「お前と同じぐらいだ。ずっと入院してたんだけどな、なんか臓器の病気で臓器移植しか治る方法がないって話だったんだが、ドナーが見つかって、適合してな。今度退院するんだ。そうだ、お前、よかったら一緒に見てやってくれよ。ずっと入院してたから友達いねえんだあいつ」


「え、それは……構わないですけど……名前は、なんて言うんですか?」


「仙石明里だ。明日退院予定だから俺の代わりに迎えに行ってくれ」


 なんで親族でも何でもない俺が迎え行かねばならんのだ。


「……ああ、あと、お前が失踪してからまだ三日ぐらいしか経ってない。それと、四十九日の法事を今日ここで行う。早く帰って身支度して来い」


「…………はい」


 やっぱり全部覚えてるんじゃねえか。下手くそな芝居しやがって。

 向こうでの記憶を頼りに一度桜を見ておいた。九分咲きだろうか。明日には満開になってるんだろうか。

 せっかくなら、満開で見たいな。もうすでに近いかもしれないけど。


「凪、桜、綺麗に咲いてるよ」


(うん、想ちゃん)


 ふと、凪の声が聞こえた気がした。

 いるはずがないんだから、そんなものは幻聴に過ぎないだろう。

 でも、俺はちゃんと区切りをつけるべきだろう。

 君にさよならを言うために。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 少しばかり泥をかぶってしまっていたので、シャワーを浴びたかったのだが、帰った途端に妹に怒られた。

 なんで親より先に妹に怒られるのだろうか。

 だが、こんな時の対処法は心得ている。


「ほれ、アイス。ハイパーカップだ」


「ハイパー?スーパーじゃないの?」


「なんかあったんだよ」


「でもでもこんなもので私は誤魔化されない……って逃げるなー!」


 説教は後でいくらでも聞くから身支度ぐらいさせてくれ。

 10時ぐらいという話を聞いた。同じところへ向かうぐらいなら向こうでシャワーなり何なり借りた方がどう考えても効率的なのだが、あの偏屈野郎ではそれはどう考えてもありつけないだろう。

 しかし、高校三年ともなると放任主義なんだろうかたかだか三日帰らないぐらいだと、あっそうぐらいのものらしい。

 というのも親父があまり帰らないからなんだが。

 その親父はといえば、さすがに今日はちゃんと参列するらしい。

 なんだかすげえ久しぶりに見た気分だ。だけど、親父には法事が終わってから聞くことがある。


「どうした?想」


「いや、意外にちゃんと出るんだなと思って」


「夢芽がお前が逃亡したって言ってたから、むしろお前の方が心配だったぐらいだが。まあ、ちゃんと帰ってきて出るんなら俺からは何も言うことはない」


「……終わってからでいいからさ、ちょっと聞きたいことがあるんだ」


「そうだな。あまり話さないし、たまには聞いてやるか」


 親父は大学病院のなんかの先生らしい。ようするにお医者さんだ。ただ専門とかよく知らない。

 凪が亡くなったことで四十九日となる今日、納骨が行われるわけだが、さすがにそれは親族だけで行うものだとばかり思っていたが、ずっと付き合いのあった俺たち家族は立ち合いすることになっていた。

 と、いうのも、先ほど仙石の言っていた移植手術。あれは、植物状態となってしまった凪の臓器を明里に移植したのだ。それを執刀したのがウチの親父だったらしい。

 凪は、まだ生きてる。新しい身体の中で。


「ったく、お前は毎日来てたと思ったら、ここ数日ぱったり来なくなったって。顔馴染の看護師が逆に心配してたぞ」


「ちょっとやることがあったんだよ。……明日退院予定なんだろ?俺が引き取り手になってる。その子の兄から言われたんだ」


「…………出来るかどうかわからんが、知らん顔じゃないし、まあ俺が計らってやろう。ほら、寺に行くから車乗れ」


「はいはい」


 向かう道すがら、夢芽から三日間何してたのと猛抗議を受けていたが友人のところに厄介になってたということにしておいた。遊よ、とりあえず口裏合わせで後で連絡する。


「夢芽、お前高校の制服なんだな」


「一足早い入学式だよお兄ちゃん」


「どこに入学するんだ……」


 そもそも入学式自体は明日である。


「あ、でも、あそこのお寺って高校に近いんでしょ?連れてってよお兄ちゃん」


「お前、事前に部活とか行ってなかった?」


 そもそも受験の時とか普通に行ってるはずである。


「お兄ちゃんと一緒に行きたいのー!」


「はいはい」


 アイスではあんまりご機嫌取りはできなかったようです。

 まあ、こいつも凪がいなくなって寂しいだろうし、俺にすがってるのかもしれない。

 ……そういや、明里って本当に何歳なんだ?


「夢芽」


「ん?」


「明日、新しい友達できるといいな」


「うん。そうだね」


 よくよく考えたら明日高校の入学式の日らしい。だいぶ時間を巻き戻されたようだ。いや、誰かにとって都合のいいようにしたんだろう。

 誰かって?

 そりゃ、決まってるだろう。


「……凪ちゃん。本当可愛かったよね」


「そうだな」


「お兄ちゃんにはもったいないよ」


「そうだな」


「もーちゃんと聞いてる?」


「聞いてるよ。俺は凪に顔向け出来るようちゃんと前を向くって決めたからな」


「……お兄ちゃん、ちょっと変わった?」


「そうか?」


「うん。なんかずっとこの世の終わりみたいな絶望しきった顔してたけど、ちょっとだけ希望が見えてきたみたいな」


「それはいい傾向だな。いつまでも辛気臭いお兄ちゃんじゃお前も嫌だろ」


「まあ、胸張ってお兄ちゃんです、って言えないのは確かだよね。お兄ちゃんが高校で私を見つけて呼びかけてもスルーする勢いだよ」


 それはそれで思春期の妹みたいな感じのお話ではないのでしょうか。


「想くん」


「え?はい」


 夢芽と離れて話してたが、凪のお母さんが俺の方に箱を持って近づいてきた。


「凪の骨。想くんが墓に入れてあげて」


「俺でいいんですか?おじさんとか」


「凪もその方が喜ぶだろうって言ってるから」


「そうですか」


 最愛の娘が先立ってしまう悲しみはどれ程のものだろうか。その最後を俺に任せてしまって。いや、選んでもらったのだ。


「じゃあな。凪。俺は前に進むよ」


 これで本当に最後だ。

 箱を入れる前にその上に桜がひとひら落ちてきたが、それを払うことはせず、一緒に入れてやった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺は病院に親父と向かっていた。すでに退院手続きは終えてるらしく、本当に荷物を持って出て行くだけらしい。

 さすがに、あまり顔も知らないやつがいきなり帰るぞって来てもあれなので、今日自己紹介して、明日一緒に帰るって話だ。

 彼女は個室に入院していた。これでもICUからは出たので驚異的な回復を見せてるらしい。


「あんまりうるさくするなよ。今までは見てるだけだったかもしれんが」


「わかってるよ」


 俺は扉をノックした。

 個室の中に入る。カーテンで仕切られており、まだ彼女の顔を見ることはできない。


「明里ちゃん?隅吉先生だ。開けていいかな」


「どうぞ」


「体調はどうかな」


「いまいち、いい状態っていうのがわからないですけど……まあ、喋れるぐらいなんて悪くはないと思います」


「そいつはよかった。明日退院なのに悪くなったら延びちまうからな」


「別にいいですけどね。ずっと病院でしたから。家に戻っても家族も何から何まで心配するでしょうし」


「まあ、さすがにまだ人並みにってのは無理だけどな。でも、外に出ないと体力もつかないしな」


「はあ、退院してもしばらくは毎日病院に来ないといけないんでしょう?」


「そうだなあ。そんな君に紹介する奴がいる。想」


 ようやく呼ばれて、少しだけ開かれたカーテンの間から身体を入り込ませた。

 まだ、点滴から栄養を取らないといけないのか、左腕から管が伸びていた。

 俺の記憶より、随分と細く、触れば壊れてしまいそうなほど脆い印象を受けたが、何よりも綺麗な子だとそういう印象だった。


「隅吉想です。……初めまして」


「……仙石、明里です」


「明里ちゃん今いくつだったっけ」


「……16です。今年17になります」


「じゃあ、想の一個下だな。想は俺の息子だ。諸事情でな、お前のお兄さんが明日の引き取り役だったんだが、こいつが来ることになった」


「…………大丈夫なんですか?荷物はそんなにないですけど、車椅子退院ですし」


「大丈夫だよな?男だし」


 とても大丈夫だと思えない。


「まあ、バスでもなんでも使って帰れ。さて、俺はまだ仕事があるからちょっと話してけよ」


 えらく適当に投げて出て行きやがった。あれが医者でいいのか。

 こういうところぐらいいい加減でないと逆にやってられないのかもな。


「えっと、じゃあ、改めて。隅吉想です。さっきの隅吉先生……自分の親を先生とかいうの吐き気する」


「トイレ行ってきてどうぞ。個室なのですぐそこにあります」


「大丈夫だ。お気遣いありがとう。で、まあ紹介されたわけだけど、明日、俺が退院の時に引き取り役で来るから、よろしく」


「いつぐらいですか」


「そうだな、明日入学式だし、俺関係ないからいつでもいいんだが……いや、妹が出るから行かないといけないのか?」


「来てもらうんですしいつでもいいですけど、一応身支度ぐらいはしないといけないですから」


「……ちょっと遠慮してる?」


「そっちはこっちをなんだと思ってるんですか」


「ちょこっと不思議な体験をしてきてな。過去の君を見たんだ。年の瀬が12歳ぐらいかな」


 もしかしたら、女の子の発育の具合なんてよく知らないしもっと下だったかもしれないが。


「一人称がボクで、なんか達観したような感じだったんだ。そのイメージで来ちゃったから違和感が拭えなくて」


 そもそもこんな唐突に白昼夢のような話をして聞き入れてもらえるのか口に出してから思ったが、それは杞憂だったようである。


「……私、しばらく夢を見てました。臓器移植をしてから1ヶ月ぐらいですかね。あなたと同じ名前を名乗る男の人ともう一人凪と名乗る女の人が少し小さい頃の私と一緒にいる夢です。本当、他愛もないことをしてました。同じ夕暮れの時を何度も何度も。ちょうど今と同じぐらいの時間ですかね。あなたと同じ夢を見ていたのかもしれません」


「そいつは奇遇なことだ」


「あの……凪さんは……私に臓器提供してくれた方と同じ名前なんですけど」


「間違いないよ。その凪だ。俺の幼馴染で今日四十九日だったんだ」


「そうだったんですか……私に生きる術を与えて、その人は亡くなったんですか……聞いてた話ですが、やっぱり気にしてしまいますね」


「なんなら、今度一緒に墓参りに行くか」


「そうですね」


「……そういや、学校とかどうするんだ?いきなり、はい登校ってわけにもいかんだろ」


「家の近くの高校に一年生で入ることになってます。まあ、確かにふつうに登校はできませんが。保健室登校です」


「そらそうだな」


「……あの、隅吉さんは次三年生なんですよね?」


「苗字で呼んでると親父とこんがらがりそうだし、俺のことは想でいいよ」


「そうですか。なら、私のことも明里でいいです。その制服ってことは同じ高校だと思います」


「そっか。短いけど後輩が出来たな」


「やっぱり一年だけですよね」


「さすがに留年しろとかいう無茶振りはできないぞ」


「まあ、私は周りより一年遅れて入学するわけですから留年と変わらないんですけど」


「そうだな……俺の妹がさっき入学式って言ったよな。同じ高校なんだ。あいつなら仲良くしてくれると思うし、紹介するぞ?」


「まあ、私にかまってばかりでも退屈だと思うので、知合いがいる程度のことでいいですよ。向こうだって私が年上だし気にすると思いますし」


「いや〜どうかな」


 凪とはほぼ対等に喋ってたと思うし、それは幼馴染だったからかもしれんけど。あまりそういうことは気にしないタイプだと思う。相手が気にしなければの話だけど。


「まだ満足に一人で動くこともできませんし。半年ぐらいを目処に徐々に動けるようにしていきましょうってぐらいですから」


「まあ、それぐらいなら俺が付き合うよ」


「いいんですか?」


「任せられたからな」


「兄からですか?」


「いいや、君に生きる術を与えたやつにだ」


「……どこでそんな約束をしたのか、なんて野暮なことは聞かないことにします。聞いた話では、凪さんから移植をしてもらって、ずっと想さんは見舞いに来てたらしいじゃないですか。もっとも、親族ではないので外から見てるだけだったようですけど」


「本当は中に入ることもよろしくないんだけどな。凪こととあとは親父がここの医者だったから見舞いだけは許可されてたんだ」


「……それだけ好きだったんですか。その凪さんが」


「ああ、そうだな。正直、今でもちょっと思い出すと泣きそうなぐらいだ」


「私を慰めがわりにしないでくださいよ」


「酷い言い草だな。でも、凪は君の中でまだ生きてるんだ。見届けるぐらいいいだろ」


「まあ、無事適合したみたいなので、あとは快復するのを待つばかりなんですけどね。じゃあ、傷心の想さんのために私が元気になるまで付き合ってくれたのなら彼女ぐらいにはなってあげましょう」


「なんつー恩着せがましい彼女だ」


「まあ、途中で投げ出すに一票入れておきます」


「こうなったら意地だ。デートでもなんでもできるぐらい快復するまでリハビリさせてやるからな」


「それは想さんの仕事ではなく、ここのトレーナーの仕事ですが」


「君は話の腰を折ってくねぇ」


「……でも、やっぱり友達が一人もいないのは寂しいので、保健室に顔をのぞかせるぐらいはしてください。私もその方が精神衛生上はよろしいので」


「素直に嬉しいって言いやがれ」


「さてさて、私の面会時間はここまです。また明日引き取りに来てください」


「あ、携帯とか持ってるか?来るとき連絡したいんだけど」


「……数日前に急に兄に渡されたんです。もっとも通話とメールだけの機能しか使えないようですが」


「上等だろ」


「……ここで使ってはいけませんよ」


「普通に気にせず使おうとしてたよな」


「まあ、困るのは私なのでその私が使うぶんには問題ないです」


 めちゃくちゃな論理をかましてるが、もっと筋道を立てて正論ばかりかましてた小学生ぐらいの君の方がよっぽど頭良さそうに見えたよ。


「……それと、これはどういうことなんでしょうか」


「なにが」


「すでに想さんの名前が登録されてます」


「…………」


 明里ちゃんといえばいいんだろうか。その手に持ってる携帯に少し見覚えがあった。

 いつの日か俺が連絡を取れるようにって、結局一度も使わなかった携帯と同機種同系色のものに見える。

 いつの間に回収されてしまったのか。

 しかしながら、俺の方には仙石明里の名前は見当たらなかった。


「ああ、それとですね」


「なんだ?さっさっと帰れってか」


「まあ、それもなきにしもあらずですが」


 せめて取り繕って当たり障りのない発言をしてください。君は年上に対する礼儀を覚えるべきだ。

 まあ、付き合ってくうちに直して……いけるといいなあ。


「一人思案に暮れないでください」


「ああ、悪い。で、なんだ?」


「私、夢の中で光って呼ばれてました。というのも、わたしが名乗らなかったというか名前を言えなかったせいで想さんがつけたようですが」


 夕陰光。

 俺が名付けた名前だ。

 もう一度、俺は連絡先一覧を見る。

 スクロールしていき、や行にたどり着く。


「電話、使ってもいいか?」


「どうぞ」


 個室ということもあり、多分看護師に見つかったら怒られるだろうけど、明里が気にしなければいいのだろう。この場では。

 それに、俺がかけるのは……


「わっ」


「ビンゴ」


「……どうやって登録したんですか」


「ま、世の中不思議が溢れてるってこった」


「……今度どっちか言及しましょうかね」


「多分、俺にも仙石にも分からないと思うぞ」


「………」


 なんか不機嫌そうな目をされたが、仙石が不思議現象を起こしてたという自称だが、原理も何も分かったもんじゃない。

 何も分からないなら、分からないままのほうがいい。もしかしたら、って期待を持ってしまうからだ。


「じゃ、明日来るよ。明里ちゃんの兄貴には俺が口酸っぱく言っとくから」


「アテにはしてないですが、あれでも一応教師なんですよね」


「美術教師だから俺が担当されることは一切ないけどな」


「……体育以外なら出てもいい気がしますけど」


「あまり無理はしないほうがいいぞ」


「くすっ。兄より兄らしいです」


「手のかかる妹がいるからな」


「いいじゃないですか。妹さんは自由でしょう?私は与えられた自由すらないですから」


「……これからなるんだろう?自由に」


「なりたいですね。兄も教師なんで誰か別に私をお世話してくれる人をあてがったんでしょう。……まったく、うちの家族は」


「その……親は?」


「お母さんは体が弱かったらしくて、私を産んで時期になくなったそうです。私の体が弱いのも遺伝かもしれませんね。お父さんは、亭主関白というか頑固者なんで兄には厳しく当たってますが、私の扱いがわからないみたいで、ほとんど兄に丸投げしてたようです」


「だから、別に俺がいても特に抵抗感とかないんだな」


「……やっぱり女の子の友達欲しいですね。その、想さんの妹さんも今度紹介してください」


「そうだな。じゃあ、話すのはまたいつでもできる。今度こそちゃんと出てくよ。じゃあ、明日来るからな」


 ICUにいては自由に動いたりもできなかっただろうし、決まった時間に決まった場所だけっていう感じだったのだろう。来る見舞客は仙石だけだったってことか。それじゃ、友達もできないだろうな。

 彼女がいつから入院してたのかは定かではないけど、きっと友達らしい友達もいないまま、作り方もよくわからないまま新しく学校へ行くのか。


「やれやれ。俺も甘いもんだな」


 人のことは言えないが、彼女もあまり上手い生き方をできるわけではないだろう。

 意外と溶け込ませたらうまくいくかもしれないが、でも、周りは彼女がどれだけ悪いかなんてわかりはしないだろう。

 しばらくは見てやるか。

 約束したもんな。

 いつか、一人で歩けるようになったあいつを連れて行くからな。






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