4話:ミステリーの定義
翌日、あくまでも出会ったという報告だけをしたため、遊に捕まって成果の報告ということでミステリー研究会へと拉致された。
このミステリー研究会。こいつが入った当初こそそこそこ活気があって部員も10人そこらいたような気がするが、現在では三年生で部長の遊と二年生の部員が2人いるだけというそろそろ廃部も危うくなっている部だ。助けようという気はさらさらない。
「そもそもミステリー研究会って何やってるんだ?」
「こうやって謎の究明をしている」
「自分たちの考察垂れ流してるだけだろ。しかも、謎なんてあちらこちらに転がっててたまるか。某名探偵ものでもあるまいし。そもそも探偵だって、殺人事件を取り扱うようなことは滅多どころか事実上はないに等しいぐらいだろ」
「俺たちもどちらかといえば、探偵ごっこに近いことしてるだけだしな。半分お手伝い部、ボランティア部なんて言われてる」
「そんなんだから部員が集んねえんだろ」
「誰かがトリック考えて事件起こしてくれればな」
「そんな奇怪な行動を起こすやつはいねえよ」
「まあ、だから噂話程度の謎めいたことにも果敢に首を突っ込みたいわけだ。なんの成果も上げずに卒業したくねえぜ」
「だから、俺を引き連れてきたと?」
「おうとも」
「そもそもこの噂話だって、どこが元種なんだよ。何年も前からあったのか?」
「みたいだな。うちの町の七不思議なんて呼ばれてるぐらいだぜ?知らないのお前ぐらいのもんだろ」
「むしろ七不思議なんて一つも知らないんだが。学校ですら七不思議なんて作られてないのに町単位で存在するのかよ」
「そのうちの六つはうちの先代が色々暴いちまったからな。だけど、これだけは解明できなかったとのことだ。俺が解明したら大手柄だろ?」
「お前の手柄ではないと思うが」
「まあ、そう言わずに親友よ。早瀬から裏は取ってんだ。会ってんだろ?」
あいつは大概お喋りというか口が軽いというか。そもそも、裏をとる必要性もほとんどないのだが。別に大した情報を仕入れたわけでもないんだし。渡す情報といえば、会って、別れた。それだけのことだ。
「ただ、事実のみを伝えたところでつまらんよな?」
「そういうこと考える奴が噂を誇張して回してんだろうな。事実だけ寄越せ」
「教えてもらおうっていうやつの態度じゃねえなあ?」
「教えてください、隅吉様」
「ったく。で?まず、目撃件数っていうのはいつ頃からあってどのぐらいあるんだ?」
「結構前からだ。俺たちが小学……まあ高学年程度から出てきてるみたいだな。まあ、あくまで記録上そうなってるだけだからもっと前からあるのかもしれねえけど、最初はそのぐらいだ」
「俺の情報はその中の一つであり、今まであったものと大差ないかもしれないぞ」
「いや、『いる』ということが分かるだけでも収穫だ。というわけで、どんな感じで会ったのかとどんなやつだったかを教えてください」
大分下に出てきたな。このまま飼いならしてやろうか。飼いならしても俺になんの益ももたらしそうにないのがこいつが下に出てもなんだかなあとなる原因なんだが。
「……まあ、突飛な話になるが、俺は凪とお前が言ったやつを探してたわけだ。だけど、数歩前に歩いてた凪が突然消えたと思ったら、そのお前が言っていた人?に会った。だから、何が起因していたのかはさっぱりだ」
「場所はどのあたりだ?」
「お前と別れた位置からすぐだったし、あそこから精々100~200mぐらい離れた住宅街ってとこだな」
「ふーむ。じゃあ、とりあえず俺が昨日いた位置とお前が会った位置を中心に考えてみるか」
「でも、お前から昨日もらった地図じゃ、別にどこって特定できるほど目撃したところが集中してたわけじゃないだろ」
「移動してる可能性はあるだろ」
「何年も同じ町をか?」
「……そういやそうだな。何年も前から目撃情報があるのに、それが特定できてない。想。お前が会ったのはどんなやつだった?」
「中学生に上がるか上がらないかぐらいの女の子だ。一人称はボク。……それ以上はあまり接触してないからよく分からない」
凪には話したが、なぜだかこいつにあの子の詳細な情報を話すのをためらわれた。理由はよく分からない。俺が自分で調べたいと思ったんだろうか。
それこそ、終わりの見えない話だし、何度も会えることではないとは思ってる。
「……お前、ロリコンじゃないよな?」
「あのなあ。たまたま会ったやつにどうこうなんて話がすぐ出てくるわけないだろ」
「そうだよな……そうしないと早瀬が報われないというか……」
「凪は関係ない」
「お前も強情だな。結構な優良物件だろ」
「俺が不良債権だからだ。とにかく、俺から与えられる情報は以上だ。帰らせてもらうぞ」
「また会いに行くのか」
「そんな都合よく会えるか」
「そう急くこともないぜ兄貴よ。お前はミステリーというのはトリックがあってそれを解き明かすものだと思ってるようだ」
「急になんだ。ミステリーなんてそんなもんだろ」
「それは一つの側面だ。元より神秘的、不思議、そういったことも呼ばれるんだ。ミステリアスなんて言葉もある通りだな」
「これはその不思議とやらに該当するミステリーだと、そう言いたいのか?」
「そうだ。だから俺たちの領分」
「オカルティックだとも言えるから向こうもそう主張すれば喧嘩は勃発するな」
「なんでそう喧嘩を起こしたがるんだよ⁉︎」
「俺の関係ないところで勝手に起こってたら面白いなぐらいのもんだし……まあ、調査には協力するよ。解決した暁には学食おごれ」
「一食でいい?」
「せめて一週間分にしろ。時間割いてやるんだから」
「うう……こちらの手の内見ていくなあ」
「なら調査はするがお前には一切情報は寄越さない。凪から聞いた場合でも情報提供したことにして昼食代を搾取していく」
「わ、分かったよ。それで手打ちにする。一週間分だけなら安いもんだ」
「本当ならもっとふんだくってもいいぐらいだが」
「お前……ロクな大人にならねえぞ」
「元がそんなにロクなやつじゃないからな。百も承知だ。じゃあ、早速行ってくる。まあ、メカニズム的なことでも分かれば報告してやるよ」
「まあ……あまり期待はしないでおく」
向こう側としては情報は欲しいところだが、俺からの情報はできる限りあまりもらいたくないというところか。まあ、損益ばかり出そうだしな。すべて打算的にやっていかなければ。世の中うまいこと回らなかったり、回ったりする。すべてにおいて上手くいくとも言えないが、大部分で上手くやれれば上々であろう。
確かに俺自身としても、これにおいてはあまり期待ができるものではないが、凪のなんの根拠もない言葉を信じて、再び会えることを祈るしかない。
ただ、問題は時間である。それだけは向こうに行ったとして、またこちらへ帰ってこないとどれだけ流れたのかは実証できない。仮説としては向こうは時間が経ってない可能性すらも考えられるのだ。このあたりはもう少し確証が持ててから話すとしよう。
まったく、なんで高校三年生にもなってこんなことしてるのやら。
きっと、まったく科学的ではないが数奇的な運命だったのかもしれない。出会わなければ、いやもっと言えば、巻き込まれなければ、こんなことに首を突っ込もうとも思わなかったわけだ。
多少は割り切って調査してやろう。あの子にまた会うためにも。