31話:夢は夢でしかなくて
レム睡眠、ノンレム睡眠というものがある。いわゆる寝ているときの睡眠の深さを表してるもので、ノンレム睡眠が完全に脳も身体も休んでる状態。レム睡眠は体は寝てるけど、脳が活発に動いてる状態。このレム睡眠の時に人間は夢を見るのだ。
夢はよく、記憶の整理とも言われてる。だから、今まであったことや、見たものがごっちゃになって浮かぶのだ。
ここで見る夢を指定できるのなら、解明不可能だともされてる脳神経の仕組みを知る手がかりにもなるだろう。
ただ、どのような介入をすれば見たい夢が見れるかなんてさっぱりだが。
せいぜい寝る前に、自分が見たい夢を思い浮かべるか、その元なるものを見ておくか、そんなものだろう。
将来の夢とかではなく、寝ている間に見る夢は確かにある程度操作はしたい気はする。
……そうすれば、自分に不都合なことが起きてる夢なんて見ないだろうから。
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はっきり、それは夢だと断言できた。
でも、しっかり会話してるのはなんだか、妙な感覚だった。なんだか、臨死体験でもしてるかのようだ。
自分で自分を見ているのだから。
いや、性格にいうなら、確実に俺は一人であるけど妙に俯瞰的に見えるとでも言えばいいのだろうか。
自分を他人として捉えてるというか。
そこには凪はいなかった。
俺と光が存在していた。
「……とうとう夢の中まで出てくるか」
「君がそれだけ考えてるという証明ではないのかな?」
「明日も早いんだけど。そして、お前はなんで平然と俺の中の夢で存在してて、俺が夢だと言って否定もしないんだ」
「まあ、白昼夢かもしれないからね。僕の存在は。そんなおぼろげなものだ」
「俺の夢の中にインプットされたコマでしかないとしてもか?」
「それを言うなら想も誰かに自分の夢を操られてるってことになるよ」
それもそうだ。しかし、今まで体験してきたことが夢ではなかったという証明にもなる。夢の中で夢を見てるなんてそんなマトリョーシカ的なことが出来てたまるか。
「ただ、そうなると脳を異常に酷使することになるから体力消費が半端じゃないんだろうな」
「はてさて、それを誰が行なっているのやら」
「それはここで解明できるものなのか?」
「できるかもしれないし、できないかもしれない。不確定なことを出来ると断言して期待を持たせるのは愚策だと思うよ」
まあ、中で不具合を見つけるか、外から元を叩くかの違いだとは思うが、外は広すぎる。
中の方が動ける範囲が限定されているのだから、確かに中から解明していくほうが効率的にはいいかもしれない。が、
「中は中で効率悪いんだよな。手が少なすぎる」
「なければ増やせばいいんだよ」
「どうやって」
「細胞分裂をして想が腕を増やせばいいんじゃない?」
「恐ろしいことを平然というな!手が足りないというのはそういう物理的な意味ではない!」
というより、その場合どこから腕が生えてくるんだ?
出来るできない以前より生えたときの図がカオスというか想像を絶する出来になりそうで、途中で思考がショートした。
「日本には阿修羅像というものがあってね」
「いや、イメージして出来るものでも絶対やらないからな」
なんで出来ることが前提で話を進めようとしてるんだこいつは。
「今は腕を生やすより足を使え」
「使うのはいいけど、想は何を探すんだい?」
「え?何って、お前がここを出る手がかりを……」
「いつ僕が頼んだんだい?」
「…………」
頼まれていない。俺の一方的な願望だ。でも、お前は肯定してたじゃないか。
そう出そうになって無理やり飲み込む。
結局は願望の押し付けだ。そもそも、探し物が見つかる場所であるのならば、とうの昔に見つかってるはず。それが、こいつの望むことなのだから。
……だから、見つからないのか?だから、俺は何度も来てるのか?
もしくは……それが本当に俺が見つけたいものではないから?
光は俺から背を向けて、去っていく。だけど、俺はそこに立ち尽くして、光の後を追えないままだ。
当たり前だ。夢だから俺の意思で動こうとして動いていない。金縛りとも違う。
俺の答えが決まっていて、やるべきことも決まっているのなら光の後を追えるはずだ。
できないということはビジョンが曖昧なまま、答えがわからないまま、ただ闇雲にかき乱してるだけだ。
……光は存在しないものなのか?本当にそこに作り出されただけの存在なのか?じゃあ、なんのためにそんなことをしたんだ。
……誰のために?
思考が侵食してきて、俺を蝕み、夢はそこで途切れた。




