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トワイライトシーカー  作者: otsk
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29話:恋だの好いたの惚れたの

 一応寝る時間は確保できたが、それでも一介の高校生。部活などの朝練があるわけでもないが、早く起きなきゃいけないので、ちゃんと起きて学校へ行く支度をしていた。


「おにーちゃん。学校行くよ~」


 そして、先に起きてもう出ていったものだと思っていた夢芽に出る用意の催促をされた。


「お前、朝練はどうした」


「あれ?知らない?朝練はバレー部と交代で体育館使うから今日はない日」


 外でランニングでもしろと言いたいが、まあ部活もやってない俺があーだこーだ口出しできる立場でもあるまい。減らず口はいくらでも叩くが。


「にしてもお兄ちゃんはいい立場ですね~」


「これでも疲れてんだ。ゴールデンウィークに入るまでには終わらせる予定だから」


「終わる目処は?」


「立ってないが」


「はあ……受験生だというのに妹は心配ですよ……」


 心配というのは俺が体調を崩したか、成績があからさまに落ちてた時に言ってくれ。


「お兄ちゃんが帰ってこないから結局窓の鍵だけ開けたままだし。知らない間に帰ってくるし」


「まあ、お前に心配かけないためにちゃんと戻って来てんだから。ああ、一個頼まれごと、していいか?」


「お兄ちゃんが私に家の出入り以外で頼みごとをするとは珍しいね。どうしたの?」


「まあ、部活終わって帰って来てからでいいんだが、母さんに親父のこと聞いてくれないか?」


「自分で聞けばいいのに」


「今日も昨日と同じ感じかもしれないからな」


「まったく。青春で汗を流すスポーツ少女とは対照的な兄ですな。夜中までフラフラ歩き回って挙句妹にまでその飛び火をするとは」


「ゴールデンウィークはどっか遊びに行くか」


「よっし!言ったね⁉︎約束は守るんだよ!」


「……はいはい」


 今日もその約束をしたがための話だ。妹に皮肉を言われてるようでは兄としての威厳はないな。まあ、最初からあったのかどうかって言われると、きっと夢芽からは元々ないよって返ってくるだろうから聞きはしないけど。


「さて、凪を拾いつつ行くか」


「そんな捨て猫だか捨て犬みたいな言い方……」


 俺と夢芽は玄関を出て、数歩歩いた先の凪の家の玄関にたどりついたが、一人の少女がダンボールの中に拾ってくださいと張り紙をして待っていた。


「飼っていい?」


「お兄ちゃんが世話する羽目になるんだからダメです」


「ちぇー」


 そしてそのまま通り過ぎていった。


「まっっったーーーーー!」


「ぐえっ」


「こんな可哀想な子を放置してそのまま行くってどういうことなの⁉︎」


「く、首……首しまっ、てるか、ら離せ……」


「ありゃ。そりゃごめんね」


 後ろから飛びついてきた凪に首を絞められ、危うく窒息するところだった。まったく、清々しい朝から飛んだバイオレンスだ。


「ったく、なんだ朝っぱらから」


「想ちゃん待ってたんだよ」


「自分ちの敷地内で捨て犬ごっこしてか」


「そのまま拾ってくれれば何事もなかったんだよ」


 普通に待ってればそのままおはようで一緒に行くだけだったのに余計な一芝居をするな。

 などと言ってもこいつの突発的な行動なのだからそんなところを咎めてもこいつは反省の色を見せるとは到底思えないが。


「凪ちゃんもすっかり元気だねー」


「元気百倍!愛もその分想ちゃんがくれれば言うことなしだよ!」


「と、お嬢様が申しておりますけど殿方の言い分は?」


「そんな気はさらさらない」


「もう、素直じゃないなあ、お兄ちゃん」


 十二分に素直なつもりだが。むしろこれ以上素直な気持ちをどう表現したらいいかわからないぐらいだ。

 そのまま並ぶように凪は前に来て歩き始めた。正直こいつらより20……は言い過ぎかもしれんが15cm以上は確実に背は上なので俺が歩幅を合わせないとこいつらは遅れる一方で、そのままゆっくり歩いて行くだろうから俺一人だけ勝手に行くっていうのも気が引けるというか、あとで凪より夢芽にぐちぐち文句言われるんだよな。私は気にしないけど〜から入って大抵凪に対してどうなの?みたいな感じで。お前は本当に凪のこと大好きだな。お前が嫁にもらってやれよ。

 ただ、日本の法律においては同性婚許可はされてない気がする。俺がこんな知識を有してる必要性は皆無なんだけども。


「隅吉さ〜ん」


「あ、お兄ちゃん。バスケ部の子が呼んでるから行くね。ちゃんと凪ちゃん見てるんだよ」


 お前は小さい子を預けるお母さんか。しかしながら、こいつの実の母親より母親をしてる感はあるな。

 夢芽はバスケ部の友達と合流して校舎へと入っていった。あいにく、一年生と三年生は玄関口が違うので俺たちはもう少し歩く必要がある。


「想ちゃ〜ん。疲れた〜」


「引っ張ってやるから自分で歩け」


「おんぶ〜」


「校内で自重するといった態度はどこへ行った」


「あのね、想ちゃん。私は病み上がりなのですよ」


「そうだな。俺を探して大捜索できるほど体力が有り余ってるな」


「甘えさせてよ〜」


「あのな?俺も疲れてんだ。自分一人で手一杯だ。見ててはやるけど甘えさせることは無理だ。そもそも……」


 だんだん人の目が辛くなって来た。普通に間に合う時間であり、別に遅刻ギリギリというわけでもないので、人がわらわらいる。

 いや、不特定多数の他人を指してわらわらという表現もどうかと思うが、まあ逆に言えばそれ以外にうまく形容できそうもないのでそのわらわらした人たちの視線が段々痛くなってくる。視線で殺せるよ、君たち。その原因を作ってるやつは気づいてか気づいてないでかは知らないが、相変わらずすり寄ってくるわけだが。


「せめて、教室までちゃんと歩け。そこまで着けばいくらでも寝てろ」


「想ちゃん冷たい……」


 そもそものこいつがどこまで甘えていいのかのラインもわかってないから際限なく甘えてくるのが悪いような気もする。甘えさせてる俺も俺かもしれないが。しかし、少しばかり離さないと、1ヶ月という約束を超えても甘えてくる気しかしないからな。約束は守らないと。

 まあ、それでも家は隣だし、学校も一緒で、クラスも一緒で、俺も部活をやってないとくれば、必然的に一緒に行ってやれってなるんだろうけど。

 俺がもらってやるしかないのか?


「よ、想。朝っぱら暗い顔……どころかなんか酷い顔だな」


「俺に好意を寄せてる幼馴染に対しての対処法を考えてたが、どうやっても一択しかない。無限にルートがあったとしてもたどり着くゴールがひとつしかないってどういうことだ?」


「そりゃ定められてるゴールは一つだろうに……」


「まあ、このままじゃダメなのも分かってるけども」


「世の中な?相手すらいないやつなんていくらでもいるんだ。あれだけ可愛いんだし、お前は恵まれてると思え」


「逆に考えろ。近すぎて知りすぎてそんな感情が一切湧かないんだ。どうしろと?」


「まあまあ、そこの男子諸君。付き合ってあげればいいのよ」


「唐突になんだ」


「恋バナあるところに私あり。みんなのお姉さんこと鳴海さんですよ」


「お帰り願います」


「つれないなあ」


 別に俺が好きだからどうしたらいいかという話ではなく、凪をどうしたらいいかという話なので、特に恋バナでもなんでもない。聞き様によっては確かに聞こえるかもしれんが。


「で、想ちゃんはどう思ってるわけよ」


「いきなり馴れ馴れしいな」


「私のことも木乃葉ちゃんと呼んでいいと言ってるのに」


「断固拒否する」


「頑なだねえ」


「ついでに俺は遊くんで構わないぞ」


「じゃあ、神楽くん」


「この扱いの差はなんだろうな?」


「知るかよ」


 人心掌握に長けてる奴はどこの界隈にもいると思うが、こいつはその類のようだ。簡単に人の距離を詰められるのだろう。まあ、その中でも何も考えてないやつと計算づくのやつがいるだろう。鳴海さんに関しては後者だろうけど。無駄に頭良さそうだし。

 しかし、俺はそうはいかん。


「で、凪は何してんだ」


「寝てるよ」


 指差した方に目を向けると机に伏せて寝てる凪と、その周りでその凪を突いてる女子数名がいた。ほっとこう。


「凪はいいわ。俺にどうしろと?」


「まあ、まずは想ちゃんが凪ちゃんことをどう思ってるかだ」


「幼馴染」


「これマジもんですね」


「だろ?うまいこと籠絡させてくれよ」


 意気投合するなそこの二人。


「……人の好いた惚れたに突っ込むのは野暮な話だってどこかで習わなかったか?」


「習った結果、見てるだけじゃつまらないからちょっかいかけてみることに労力を費やしてみることにした」


 めんどくせえ。なんだこいつは。クラスに一人はいるお節介委員長とは別のベクトルでめんどくせえ。


「あまり突っ込むと引き際がわからなくなって交通事故起こすかもな」


「お、上手い例えだね。こんな格言もあるんだよ」


「なんだ」


「『赤信号、みんなで渡れば怖くない』」


 轢かれてしまえそんなやつら。どこが格言だ。お前らが発端となって他の奴らが大事故起こしてんだろうが。どう責任取るつもりだ。


「やっぱり既成事実しかないか……」


「真面目に不穏当な発言をするな。それこそ大事故だ」


「あんなに可愛い子をほっといて他にいい子がいるのかい?」


「いや、別にいるわけでもないが……」


「恋はね、報われるものなら報われて欲しいものよ。特に目の前にあるんならね。だって、アイドルだとか芸能人だとか、自分たちとはステージが違いすぎるわけでしょ?なら、近くで好きな人がいる方がよほど夢見れるじゃない」


「じゃあ、永遠にいい夢見ててくれ。交わる必要はない」


「どうしたもんかね?この筋金入り」


「なんか拗らせたのかもな」


 好き勝手言われてるが、近すぎるというのも考えものだ。無意識に意識しないようにしてるのかもしれない。じゃあ、意識してみたらどうだって、簡単に切り替えられるものでもない。

 だって、俺は……あいつがいついなくなるのかも分からない状態をずっと見てきたのだ。急によくなったからってその不安がなくなることがない。

 いつかいなくなるなんてものは、誰にだって共通することだ。

 なら、深く付き合わないのが正解じゃないのか?浅く、表面的に付き合ってはいけないのか?

 そんなのは凪にだって言えることだ。俺がいついなくなるかも分からない。

 付き合ったところでほんの短いひと時を味わって終わりになる可能性だってある。

 朝のHRが始まるチャイムが鳴って、鳴海さんは自分の席へと戻り、遊も前を向いた。これ以上俺に何か言っても今の所はどうしようもないと結論づけたのだろう。

 そういうのは、自分たちがどうにかなってからやってほしいものだ。




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