24話:作戦会議
こうして、俺は何度ミステリー研究部の部室へ足を運んで、あたかも部員かのように椅子に座らなきゃいけないんだろう。このまま部員と認められたくない。こちらから拒否していくといった意思は変わりはしない。
「部員少ないんでいてくれても構わないっすよ」
「そして、俺は初見なんだが、誰だこいつは」
いかにもノリの軽そうなまあ、明らかに後輩だろうやつが俺の対面にはいた。
「二人いるって言った後輩の片割れ」
「ちょっ、あいつとニコイチじゃないんすから片割れとかやめてくださいよ!」
「どうせ、二人揃って一人前になるかどうかだからこれでも過大評価なぐらいだ」
「くそ〜。今ある七不思議よりもっと面白そうなものみつけて見せますよ」
「あ〜日野。依頼入ってたから調査よろしく」
「神楽先輩もやってくださいよ!なんで俺呼ばれたんですか⁉︎あいつ来てないし!」
「月宮は女子会だそうだ」
「俺には友達いなさそうだから暇そうだし呼んでやるか的な感じで呼び出したんですか⁉︎」
「近いものはあるな」
「くそ〜なら今日ボウリング行くって言ってたやつらのとこ乗り込んで来ます!」
「まあ、筋肉痛にならん程度にな。それと、依頼主女子生徒だったぞ」
「今すぐ行ってきます!特徴教えてください!」
こうして迷子猫を度々探すらしいのだが、この日野くんだか何だかが鼻が効くらしく(どういう意味でかは知らないが)探し物に関してはかなり解決率が高いらしい。
探し物ということなので、俺たちが探ってる案件も調査してもらってたが、さすがにあやふやなものにまで効くものでもないらしく、今は時折来る依頼にこうして駆り出されるらしい。まあ、ノリも軽けりゃ、頭も軽そうな気もしなくもない。
日野くんが出て行った後だからこうしてボロクソに言ってるわけだが。
「まあ、悪いやつじゃねえよ。少しばかりアホな子なだけだ」
「もう一人の女子会に行ったって子は?」
「あれは……ただの女帝だから」
女帝とか言う時点でただのとか付けるのはおかしいのだが。しかし、内弁慶の匂いしかしないのは俺の気のせいだろうか。
「2年だろ?後輩だろ?」
「2年で後輩であろうとも、尊大な態度は変わらないんだよな。基本的に興味のあることしかやってくれねえし」
そもそもの話、なんでそんなやつがミステリー研究部にいるのかという話なんだが。
「人が少ないなら掌握しやすい、とのことです」
「…………」
「見た目はいいんだけどな」
綺麗なバラには棘があるとは言ったものである。実物は見たことないけど。
なんかイメージはすごいツンデレそう。イメージしかないけど。
「ま、小さい子が無理して背伸びしてるって感じなんだけどな。ハハハ」
ああ、だからこいつも別に畏怖してるわけでもないのか。まあ、何にでも言えることだが、相手の琴線にさえ触れなければということだろう。
探し物の光さんはそれを考えるととてもいい子だと思います。
「とりあえず、日野もいるならいたでよかったんだけどな。依頼が入っちまったし、俺たちでやってくか」
「そもそも依頼があるなんて初めて聞いたわ」
「二週間に一回程度は落し物探しとかやるぜ。大概落し物届けに届いてないものだから中々に面倒だけどな」
こんなんだからミステリー研究部としての活動が広まらないのではないのだろうか。いっそ探偵部にも部名を変えろよ。
「うちの活動は後輩がやってくれるとして」
「一人しかやってないが?しかもそれはミステリー研究部の活動なのか?」
「ま、一環だよ。何もそれを主として活動してるわけじゃないのはお前も分かってるだろう?」
「分かりたくもないが」
ミステリー研究部の活動はこの学校に残されている七不思議の究明。すでに六つは解明して、残る一つ「トワイライトシーカー」のことを追っている。
まあ、解明したところでなんだと言われることだが、結局、求めることは好奇心を満たすことである。
やってることに意味を見出すこと自体が愚考なのかもしれない。
やった先にどうなるかは、やり終えてから考えることだ。
「遊。とりあえず、写真だ」
「また、こう隠し撮り的なアングルはなんなんだ?」
「撮るぞ〜って言っても警戒するだろ。自然体を目指した」
「お前はカメラマンでも目指す気か」
「んな気はさらさらねえよ。しかし、これを見て手がかりは調べられるのか?」
「まあ、やってみるだけやってみるわ。正直聞いた情報だけだと手探り感がハンパじゃねえからな。写真見れば、ある程度は絞れる……さすがに全く見たことないわけじゃなくなるしな」
「俺もいつまでその世界に行けるか分からんぞ」
「代役がいないのが辛いところだよな。まあ、なんかあった時の誤魔化しぐらいはするからさ、親友」
「いくらごまかそうが、凪だけには嗅ぎとられるけどな」
「ああ、その早瀬だけど、あいつも一度行ってるんだよな?」
「ん?ああ」
あれ以来は行ってないが。そもそも光の記憶がリセットされてる疑惑があるために凪のやつとは会った記憶は光にはないだろう。おそらく。
確認はとってないのでなんとも言えないが。
それと、また来るときは誰か連れてくるって約束したんだよなあ。来れる保証があるのがその凪だけなんだが。
その凪さんは放課後は放課後で連行されました。静かだね。
「しかしなあ。あいつがいないと行けるかどうか分からねえんだよな。行けたときは確実にあいつが近くにいたし」
「あいつは特殊な磁場でも発生させてんのか?」
「ひとつ、図にしてみるか」
まず、適当に人を描いていく。絵心なんてないのでもっぱら棒人間だが。
分かればいいんだよ。
棒人間の顔のところに名前の一文字を入れとけば誰か判別つくだろ。
とりあえず、主を俺に置く。そりゃ、俺を中心として調べているのだから当然の話である。
そして、能力?らしきものを書いていく。凪のやつは推測でしかないが、俺にだけ影響する、俺を向こう側の世界に送る力があるのかもしれない。現に他の奴らがあの世界へ行ったという話は聞かないからな。
光の方は逆にあの世界へ迷い込んだ人をこちらに戻す能力。
そして、その力を受け入れる……凪の方はともかく、光の方は迷い込んだ人間には全部適用されるような言い方ではあったが、それが俺となる。
「今まで行ったことのあるやつはどうやって行ったんだろうな?」
「それこそどっかにゲートがあってお前みたいなワープ的なことは稀なんじゃねえの?」
「じゃあ凪もいないし、今日こそゲート探しでもするか?」
「屋上にはないぞ」
「そもそも仙石先生がいるかもしれねえからあんまり行きたくはないんだよな。……そうだ」
「なんだ?なんか目星でもあるのか?」
「いや、前に行ったときに凪が言ってたことを思い出してな。仙石先生も前に行ったことがあるって言ってたろ」
「まあ、嘘の可能性もあるけどな」
「そこを疑ってもしょうがないだろ。なんで高校には喫煙室あるのにわざわざ立ち入り禁止の屋上に来てまでタバコ吸ってたんだ?ってことになってだな」
「非常勤だから肩身狭いんだろ」
「それも考えられなくはないがな。おそらく、仙石先生はこの学校、それも屋上でその神隠しにあったんじゃないかって、推論だ。あくまで推論だから本当にそうかは定かじゃないが、今一度調べてみてもいいんじゃないか?」
「そういや、一応あそこでお前も一度行ったんだよな。もう一度調査してみるか」
「もっとも凪よりお前が来てくれたほうが調査は捗りそうなんだがな」
「……写真でしか見てないが女の子だろ?大の男二人が行ってもなんだかなあ、という感じだが。それこそ早瀬を連れてったほうがいいだろ」
「いや、あいつはあいつで面倒だった」
「…………」
「…………」
「申し訳ない限りだがお前一人でなんとか調べてくれ」
まあ、そうなるだろうな。確かに遊の言う通り、こんな女の子を調べるために男二人を遣わせるのも首をかしげざるを得ないし、かと言って凪を連れて行ったところで調査に進展があるかと聞かれれば、むしろ邪魔しかしない気がするからついてこないほうがいい。
ならば、俺が一人で調査を進めるのが妥当なところだろう。まあ、光を調べることだけは俺だけ済むとしても、あの世界を調べるということにおいてはもっと他の手が必要なんだが、もっと根本的にはあちらへ行けないことには何も調査は出来ないのだけど。
……なんだか、調査の本質がどこへ向かってるのかが若干ながらだが怪しくなってきた気がしないでもない。
元々、トワイライトシーカーと呼ばれる七不思議の解明というのが大きな枠組みで、なぜ、その現象が起きるのか、ここに焦点を当てていたはずだ。その現象が起きる原因として、さっきあげた光が関わってる。これはもう分かりきったことであるが、あくまで光は元の世界へと戻す役割をしているだけで、あちらへ連れて行くわけではないのだ。だから今は、どうやったら向こうの世界へ行くことが出来るのか。その原因を探ろうということだ。
簡略化してみればこんなことだが、それまでに調べることが多いのだ。だからこそ、光の記憶が頼りになるものだとばかり思っていたのだが、ことはそううまくは運ばないものである。
だが、光の記憶がうまいこと戻ることなんてこともないだろうし、そうすると俺たちが外と内から原因を探っていくしかない。
そもそも出口があるのなら入り口があるはずなのだ。因果関係が逆だが。
出口自体は光自身。ならば、入り口は?
不安定すぎて、ここだという確証がない。まあ、出口が人であるのならば、入り口も人であるのではないか?と考えることもできるが。
「やっぱり無駄なのかねえ」
「大抵の人はさ、一度行ったきりなんだよな」
「まあ、お前みたいに何度も行く奴は聞いたことはないな」
「行ったやつのリストアップって出来るか?」
「もうすでにしたし、下調べはした上でお前に持ちかけたんだ。ま、お前は大当たりだけどな」
「なんで、俺に持ちかけた?」
「さあ……お前なら役に立ってくれそうだと思っただけだ。あと、暇だろ?」
何度も言ってると思うが、目下受験生であるのだ。確かにどこ目指すとか特に断定してるわけではないが。部活動によっちゃ夏のギリギリまでやってるところもあるし、そう考えれば何もやってない俺は暇だという認識は間違ってはいない。現にこいつだって部活という名目で調査を行ってるわけだし。
「本当なら何も見つからずに俺に頼ったことは見当違いだと言いたいんだけどな」
「お前は期待以上のことをやってのけたということだ。正直この時点で大金星だし……」
「じゃあ、降りていいか?……ということにはならないんだろうな」
「もっとも、お前が降りる気なんてないだろ。なんだっけ……光ちゃんだったか?その写真の子」
「仮につけた名前で本名ですらないけどな。俺が行き来してるのなら、なんでその子だけはそこに居続けてるんだ?こっちに来れない通りがないだろ?」
「ま、それを解決するまで付き合ってくれるってこったな」
「……解決できんのかね」
「目処もないのにやる気か?よっぽどその子に惚れ込んだのか?」
「……縁もゆかりもないはずなんだけどな……そもそも、一回だけなら俺だって白昼夢ってことで済ませたかもしれない。だけど、こうして何度も行き来してる以上、俺に何かしろっていうメッセージかもしれないじゃねえか」
「ま、お前がやってくれるってんなら、俺が頼んだことだ。最後まで付き合うぜ」
「じゃ、引き続き行方不明の子の情報調べよろしく」
「それしか出来ないのがまた俺がどうしようもないやつな気もするんだが」
「そんな情報調べられるのはお前ぐらいだろ……さて、ゲートなんてもんはないようだし、凪でも回収してくるわ」
屋上へと侵入してゲート探しをしていたが、特に仙石先生に遭遇することもなく、ゲートなんてあるわけもなく、そうするとやることもなく、凪の回収という案を思いついた。
「どこにいるのかわかんのか?」
「あいつは俺が外を歩いてれば勝手に出てくるからな」
「モンスターか」
「対俺用センサーが備わってるらしい。一応、お目付役も担わされてるしな。あいつもああ見えて病み上がりだしな」
「なんか見てると、本当に入院してたのか?ってぐらいだけどな」
それこそ、退院したてってこともあって他のクラスの奴らは少し遠慮していたのかもしれない。しかし、あいつの様子を見てれば本当に病人だったのか?ってぐらいなのだ。それもあって、誘ってみたのだろう。
疑問なところは2年もの間ほとんど動けないような生活していて体力の方はどうなんだろうか。動き回ってどこかで倒れてたりしないだろうか。
「そんなところで突っ立ってないで早く行けよ。心配なら最初からそう言えば誰も止めないのに」
「……別に心配でもなんでもねえよ。義務だからやるんだ。じゃあ、また明日」
「おう、頼むぜ」
義務。誰に課せられた義務なんだろう。
俺が俺自身に課したものだろうか。なんで俺はそうまでして、凪の面倒を見てるんだろう。
別に入院してる間に何もしてやれなかったわけでもない。むしろ、尽くした方だ。
俺がやる必要ないだろ。親がやってやればいい。あいつにはちゃんと両親がいるんだから。
「あ、想ちゃーん!」
家に帰るまでの通学路。その一角で何人かの女生徒が立ち話をしていて、その中に凪がいた。
よかった。混ざれたみたいだな。
振り返って別のルートで帰ろうとしたが、幼馴染は目ざとく俺を見つけ、俺に手を振って呼んできた。
「お、彼氏のお迎え?いいな〜」
また、鳴海さんとは別の女生徒がのんきにそんなことを言ってる。
「ただの幼馴染だよ。……いっしょに帰るか?」
「うん!じゃあね!また明日!」
友達の輪から外れて俺の方へと駆け寄って、凪は俺の手を取った。
「今日は光ちゃんに会いに行かないの?」
「行けるかどうかもわからんのに」
「む、私を使おうと言うのか」
「お前がいると確定で行けるとでもなるわけじゃないし」
「物は試しだよ。じゃあ、今回行けたら私のおかげで行けたって認める?」
「ああ、認める。……そうだな、友達連れてくるって言ったんだ。凪も行けたらいいな」
「どうやったら行けるんだろ?」
「こっちが聞きたいわ……。なんなら、今の状態なら一緒に行けるんじゃないか?」
「なるほど!繋がってるってことが大事だね!よし、やってみよう!」
やってみようで出来ることなのかがかなり問題視されるが、どういった作用なのかはともかく、俺たちは光がいる世界へと行ったのだった。




