23話:たどり着く先は
幸いなことに写真のデータは残ってるようだ。と言っても、今時のデータ保存というのはかなり有能でいつ写真を撮ったのかまで記録されているのだ。
ということは、今週の月曜に移動したはずなので、その日付通りに行くのなら、記録上は一番最後にくるはずだ。が、記録は逆に最初に来ている。日付はなぜかエラーをはいていた。
おかしいな。一応最新機種のはずで結構古いデータもネットに上げられた日付で保存されたりするんだが。
これで、俺しか見えない現象だとしたらそれはとても悲しいことである。
「そーーーーちゃーーーんーーー!!!」
「あ?ぐぶおっ!」
突然突撃をかましてきたやつの頭がみぞおちに思いっきり入ってなんか声にもなってないような声が出てきた。
「て、てめえ。こんな朝っぱらから何をしてきやがる……」
「こっちのセリフだよ!戻ってきたなら連絡してよ!そして私を置いて学校に行こうとするとはどういう了見なの⁉︎」
「…………そこまで元気なら俺が見てる必要もないな。これからも頑張ってくれたまえ」
「幼馴染置いてくなー!」
「朝っぱらからうるせえ!こっちは2時間前に戻ってきてメシ食って出てきてんだよ!ロクに寝てねえからちょっと静かにしろ!」
「ふーん、朝帰りねぇ。いいご身分ですこと」
「時間の流れがわからねえんだよ。戻って来たらほぼ日の出だったんだ」
「なにか収穫あった?」
「また放課後話してやるから、今日はそれまで静かにしててくれ」
「およよ。本当にお疲れのようで」
「これを機に誰か友達作ってくれ」
「いるよ?」
「誰だよ」
「神楽くん」
あれは友達というカテゴリーなのか。
あいつも大概放課は情報収集とかいって、校内歩き回ってるからな。エンカウントする確率は低い。この高校やたら広いのだ。まあ、地主が余ってた土地使って建てたとかそんなところだから、一つのところに行くだけでも一苦労なのだ。多分、全部探索しようものなら三年あっても足りないのかもしれない。
まあ、普通調べるなら無闇に探すよりはなんらかの目星をつけてそこを重点的に探る方が効率的にはいいのだろう。
もっともあいつに情報を渡さないと調べるに調べらない。どっちかといえば、そちらの方が癪である。あいつの手を借りざるとも調べられるのなら是非ともそうしてるところだが時間がかかりすぎてしまう。
そこへくると情報収集に長けてるやつの出番ということだ。
俺では元手を手に入れることしかできないからな。
ただ、あいつがそこまでの労力を使わずに俺の情報を得ているのだとしたら腹がたつ。
学校へ着いても教室へと入ったが、やつの姿はなかった。すでに眠気はピークへと達していたため、1限目が始まるまでと俺は机の上で顔を伏せて寝ることにした。
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「想。お前いつまで寝てんだ」
「あ?」
目覚めた。あまり嬉しくはない声だが。そもそもあまり起こされていい気分のやつはいないだろう。
「もう昼だぞ」
「あ?」
「まだ寝ぼけてんのか」
というか、昼ってなんだ。俺は1限が始まるまでの予定だったのだが。
誰も起こさなかったのか、起こした上で俺が死んだかのように寝ていたのでもうそのまま放置されたのか。
しかし、チャイムすら聞こえないとは。
「移動教室すらお前いねえんだもんよ」
「マジかよ。授業中寝てるだけならともかく、欠席扱いじゃねえか」
「教室にはいると言っておいた」
それがなんの気休めになるのか。しかし、こいつは普通にそういうやつだが、凪すら声をかけないとは。
「ところで、凪は昼飯どうしてんだ?」
「女子連中がお前が寝てるからチャンスと見て拉致ってった」
凪のやつは俺を盾に交流を図ろうとしなかったのか?まあ、事実あいつは三年から突然編入してきたようなものだし、色々詮索したがるやつもいるだろう。そのくせして、俺にばっかつきまとってるからどういう関係なんだとなるわけだ。
いつもつるんでるから遊のやつだけは唯一真相を知ってるわけだが。
「しかし、あれだけ見た目はいいんだし、一途だし、性格も……まあ、お前にとっては行き過ぎかもしれんが、普通に明るくていい子なら引く手数多だろうに」
「あんなんただの世間知らずの箱入り娘だ。中学から高校に上がれば人なんていくらでも変わるやついるだろ」
「お前は中学から上がろうがあんま変わんなそうな性格だけどな」
遊のやつは俺を起こした後、前の席に誰に断るでもなく腰掛けて、俺と会話を始めた。
購買部で買ってきたのかパンを貪りながら。
「俺の分はねえの?」
「お前弁当だろ」
「俺が帰ってこないし、連絡もないからいらんと思った、という理由でオカンは作ってくれませんでした」
「お前、昨日何してたんだ?」
「話せば長くなるからそれは後でいいか?」
「まあ、お前の調査結果待ちみたいなところもあるから別に構わねえけどよ。しかし、なんだ、なんも持ってなかったのか。だが、今から行こうが惣菜パンは残ってないだろうな」
「くそう。菓子パンじゃ、飯食った気分にすらなれねえよ」
「しゃあない。友人のよしみだ。この焼きそばパンをやろう」
「せめて、新発売の期間限定パン欲しかったなあ。お前が今食ってるやつ」
「てめえ。これは、俺が顔効かせて、融通して買ったもんだぞ」
「誰が誰のために体力消耗してお前の欲しい情報集めてると思ってんだ?」
「く、この野郎、足元見やがるな。何が言いたい」
「明日買って来てくれ」
「確か今週いっぱいまでだったか……仕方ねえ。明日はなんとかして買ってきてやるよ」
たぶん、授業抜け出すんだろうなあ、と勝手な予想でもしながら約束を取り付けた。それが果たされるとは一言も言ってないが。
しかし、腹が減ってるのは確かなのでもらった焼きそばパンを頬張って、適当に押し込んでいく。だが、パン一つで腹が満たされると思ったら大間違いである。
「菓子パンぐらいなら、まだ残ってるよな……」
「買いに行くか?付き合うぜ」
「ったく、四限も寝ちまうとはな」
「昨日の睡眠時間は?」
「10分」
「それ、寝てるって言わねえだろ……」
「ああ、寝たら確実に遅刻するってわかってたから、夢芽の部屋の机で伏せて寝た」
「そして、堂々と妹の部屋で寝るとか、こいつ変態か」
「無遅刻無欠席を目指してるからな」
「今日破綻したけどな」
「しまったーー……」
どうにかなんねえかな?まあ、別にどうでもいいが。
「てかよ、お前、年頃の妹にそんなことしてたら普通煙たがられねえか?」
「自慢ではないが、うちの妹はとても献身的なやつでな。緊急事態は助けてくれる」
「俺にもそんな健気な妹が欲しかったよ」
「お前は一人っ子だったか?」
「将来的には家を継がんといかんのかねえ?俺は自由にやりたいんだが」
「家業があると大変だな」
「そういうお前も長男だろ。親父さんの仕事を継ぐとかねえの?」
「そもそも親父が何してるのかすらよく分からねえし。なんかの大学の研究員だったか、そんなんだぞ」
「またざっくりとした認識だな」
本当に何してんだろうか。俺が中学卒業してからというものの一度も見てないような気がする。勝手に蒸発したとか?
まあ、それだとうちの家系がどう回ってんだという話にもなるし、一定の振込はあるのだろう。
「卒業したらお前のところに居候していい?家事は全部やるぞ」
「間に合ってる」
「くそ、なんかお先真っ暗に感じてきたから安定職を求めたのに」
「お前に頼むぐらいなら早瀬に頼むわ。女子の方が目の保養にいい」
「呼んだ?」
「うおわっ⁉︎は、早瀬!」
どこから聞いてたのか凪のやつが後ろから出てきた。本当に神出鬼没だなこいつは。
「教室戻ろうと思って歩いてたら想ちゃん見つけたから来ました」
「お前は俺を見つけるレーダーでもついてんの?」
「お、噂の彼氏くん?」
「彼氏の想ちゃんです」
「ただの幼馴染です。恋人関係は一切合切ありません」
たぶん、凪を拉致ってったってやつの一人だろう。凪を抱きしめるように肩に腕を回してる一人の女子生徒がいた。
「はろー。同じクラスの鳴海木乃葉でーす」
「隅吉想です」
「……なんかすごく無愛想じゃない?なんで同じクラスなのにすごく初対面みたいな挨拶なの?」
「照れてるんだよ、想ちゃん照れ屋さんだから」
これ以上の詮索を逃れるのと、余計な絡みを回避するための最低限の挨拶のつもりなのだが、向こうには友好的に取られてないというのが感じられないらしい。
「こんな可愛い子置いといて甲斐性なしくんはどうしたもんか」
そして、凪は一体どこまで話したのだろうか。
そもそも甲斐性の話で言うのであれば俺はかなりある方だと思うのだが。
こいつが退院するまでの二年間、ほぼ毎日のように見舞いに通ってたし。
「……あーっと、鳴海さん?俺まだ昼飯途中なんだよ。そいつの世話頼むよ。放課後引き取りに行くから」
「あいよー。じゃ、凪ちゃんはこっち行こっか」
「ええー。想ちゃん来てくれないの?」
「想ちゃん言うなや。隅吉くんって通すんじゃなかったのか」
「面倒になりました」
「設定ブレブレだな。まあ、今言った通りまだ飯食い終わってないから後でな」
「むう」
少々凪さんはご立腹なようだが、マスコット扱いでも仲良くしてくれるやつがいるのならそれでいいだろう。いつまでも俺が関わってやる必要もない。
まあ、それでもあいつはついてくるんだろうが。いっそ、愛想でも尽かされた方がこちらとしても気が楽なのだが、そうもいかないようだ。
……きっと、そうなってしまったら、当たり前がなくなって、いたことに対する喪失感とか感じるようになるんだろうか。
「なんか、嵐のようなやつだな」
「それは言い得て妙だな」
爪痕を残してるかどうかは定かではないが、最大瞬間風速はあいつがいるとかなり速くなる。ある種、何かしらのキーパーソンにでもなるのだろうか。
ただ、場をかき乱すだけかき乱してから退場するのだけはご遠慮願いたい。
「そういやさ、早瀬のやつは一応二年入院してて三年になれたのも特別措置なんだよな」
「そうだな」
「……下手したら、今年ついてこれなくて留年なんてこともあり得るんじゃないか?」
「……テストが始まるまでにはお前の依頼を済ませたいところだ」
「済むといいんだがなあ」
「そうだ。 相変わらず名前は分からんままだが写真を撮ってきた。お前のところに送っとくわ」
「おう」
しかしながら、最新機種を使っているというのにあまり使う機会のない俺のスマホはどうなんだろうか。まあ、長持ちさせればいいだけの話なんだが。
そもそも俺もこれにする前はガラケーだったぐらいで、凪の退院祝いでお揃いで携帯欲しいとねだったために買い換えたのだ。まあ、使いこなせてない感は否めない。あいつは3日ぐらいでマスターしているような勢いだったが。さすがに女子か。というのも夢芽の教えの賜物だが。
主だった俺の使用方法なんて、凪か夢芽か遊への連絡しかないからな。なんて狭いんだ。まだ、連絡する相手がいるだけマシだと考えるべきなのか。
「おい、想。お前が送ってきたやつデータが壊れてて開けないんだが」
「あ?」
「ほれ」
遊のスマホの画面を見ると確かに俺が送ったメールは届いてるが添付データが開けないようだ。
しかし、これを見るともう一度送り直そうがなんとなく一緒な気がする。
「やはり、俺のスマホが特殊なのか」
「お前のやつはどうなってんだ」
「一般流通してるものと同じだが。まあ、俺のやつ自体もなんかデータがおかしいからな。たぶん共有とか出来ないのかもしれない」
「んだよ。それじゃ調べられねえじゃねえか」
「まあ、俺の方にはあるから見てくれ。それを脳内記憶するか、スケッチでもしろ」
「……まあ、なんにしろ、お前のその写真だけが頼りだということだな」
この言い回しで俺にはそんなことはできないという肯定に繋がるわけだ。まあ、できないことを強要しても突然覚醒するわけでもないし、ある情報を有効活用していくしかないか。
「しかし……本当に女の子だったとは」
「なんで散々聞いてて疑ってんだよ」
「正直なところ信じたくないと思ってる俺がいた」
「ったく」
キーンコーンカーンコーン
昼休みが終わる5分前のチャイムが鳴った。さすがに5限以降も寝てるわけにもいかないので、準備をするために買った菓子パンを押し込みながら教室へと戻って行った。
相変わらず、どうにもゴール地点が見えないんだが、こんな調子で俺が目標としてる期限までに終わるんだろうか。




