21話:日付変更線(2)
とりあえずは、俺はこの街のことを知っていることを話し、俺の家へと行こうとしたが、何度トライしてもたどり着けなかったところに光が来たところまで伝えた。
「ところで君の家というのはどこだい?」
「……お前がアジトだと称して使ってる家だ」
「君にボクが使ってる家を教えたのかな?」
「教えたんだよ。お前が覚えてなくともな」
だが、改変されてしまってるのであれば、光が使ってる家が俺の家ではないのかもしれない。改変というよりはある一定のところに戻されてる感じの方が近いのだろうか。
そもそも、俺が自分の家へたどり着けない理由もよくわからない。なんらかのプロセスが必要なのかもしれない。
これで辿りけるようであれば、光と会うというのがこの場合必要なプロセスだということだ。なんでそれが必要かはわからないが。
光がいない状態で、俺が家の中に入ることがまずいのか?
いよいよなんだかゲームじみてきたな。クリア条件を提示してもらいたいぐらいだ。
ゲームのようなものだとして、どうやって俺をこの世界へと送り込んでるのか。
なんとなく、ゲームだというのなら多少なりとも納得できるところはあるが、そうなると俺は電子世界へと入っていることになる。
妄想が肥大化したもんで、夢の延長線にあるものだと信じたいぐらい話だけど。仮説としてはしっくりくる。
「どうしたんだい?」
「いや、どうにもゲームっぽい話だなって思ってた」
「ゲーム?ピコピコの話かい?」
「また古めかしい表現を……まあ、おっしゃる通りテレビゲームとかそういうのでやるもののゲームのことだよ。少なくともボードゲームの話ではないな」
「そうかい。時に想はチェスはできるかな?」
ボードゲームの話でそっちをほじくってくるのか。
「いや、将棋ですら危ういぐらいだ。せいぜいオセロが関の山だぞ」
「見た目に反してだね」
「人を見た目で判断するんじゃない。やるやつがいなかったら別に覚えなかったんだよ」
「麻雀とかはやってそうだ」
こんなナリの子なのにどうにもギャンブル性の高そうなものの単語ばかり出てくるな。
俺が麻雀をやったことがあるかって?まあ、確かに遊と他に交えてやったことはあるが、そんなに強くない。そもそも運の要素が強すぎて嫌なんだアレは。
「カードゲームはやるかい?」
「TCGか?」
「TCG?」
「知らんか。トレーディングカードゲームの略だよ」
「それは知らないけど、トランプの話だよ」
「……それはポーカーとかブラックジャックとかやるか?って話か?」
「自慢ではないけど得意なんだ」
光の新たな情報が手に入った。どうやらトランプのゲームが得意みたく、さらにポーカー、ブラックジャックといった運要素の強いものが得意のようだ。ブラックジャックはともかく、ポーカーはその名前から取られたようにポーカーフェイスが得意なやつが上手く勝っていく……負けるときも大きくは負けないんだろうな。勝ち方や負け方を知ってるというか。確かに得意そうだ。うちのすぐ顔に出る子と戦わせてやりたい。
「せっかくだから家に着いたらやらないかい?」
「そうだな。何度か来れはしたが遊ぶってことはしなかったし、それもいいかもな」
ただ、女の子に合わせて遊ぶ遊びがポーカーだとかブラックジャックなのはどうなのだろう。トランプがあれば出来る遊びだと言えばそうだけども。
「ただゲームするだけじゃつまらんな」
「とは言ってもここではお金なんて意味はなさないよ?ま、まさか……」
「何を考えてる。負けた方は自分が知りたいことを相手に聞くんだ。それぐらいの情報提供ならいいだろ?」
「な、なんだ……。てっきり脱げとかそういうこと言われるかと」
俺、そんなことするようなやつに見えてるのか。悲しい現実だな。やっぱり、信用は積み重ねるものだね。いきなり提案とかするもんではないな。
だけど、積み上げるための時間は多くはないからな。短期決戦となってくる。少し性急になるのは致し方ない。
10分も歩くと目的地が見えてきた。どうやら、本当に光に会わないと辿り着けないようだな。
「ほら、ここの表札……」
「残念ながら名前は掠れてるね」
辛うじてそう書いてあったか?程度の文字の痕跡である。なんでここで少しぼかしてくるんだよ。個人情報の特定を防ぐためか。本人だから問題ないだろ。
「これでよし、と」
「自分で書き足していくのか」
「文句は言わせない。まあ、文句を言う奴もいないだろうが」
「ボクが言うよ。なんでボクの名前にしないんだい」
「俺の家だからだ!お前も借りてるだけだろうが!」
「そうだね……借りてる、だ……本当の家なんて知りやしない」
「じゃあ、隣にお前の名前書いとくよ。それでいいだろ」
「なんか同居してるみたいで複雑な気分だよ」
「なら、書かなきゃいいだろ……しかも、書こうが書かなかろうが、誰に影響するって話なんだが」
「名前というのは、その人の所有物であるという一つの証明の印だよ。想だって、自分の家に帰るときは『ただいま』って、言うけど、他人の家に入るときは『お邪魔します』だろう?人のものだと認識してるから、その人に断ってるわけだ」
「この場合はどうしたらいいんだよ」
「ボクもただいまだけど、想もただいまでいいんじゃないかな。ボクの家……と言うと語弊があるかもしれないけど、現状はボクが使用してるわけだし、それで、君はここが君の家だと主張する。まあ、どちらのものだ、と主張し合うよりは共有するという形を取ろうじゃないか。そうすれば喧嘩もせず丸く収まる」
「まあ、別に親父がいるわけでもないし、俺だっていつ来るか分からないからお前が所有主でもいいんだけどな」
「立ち話もなんだから、中に行こうか」
勝手知りたるわ他人の家と前に言っていたが、別に中に入ったところでここは俺の家であるので特にキョロキョロするようなこともない。だけど、やはりどこか違和感は覚えるもので妙な浮遊感というものはあった。
玄関を入って奥にリビング。左手に和室。玄関付近には階段があってその上に俺の部屋や夢芽の部屋があるわけだが、多分、この時は俺の部屋としては使われてないだろう。じゃあ、この時は何の部屋だったんだ?って言われても、イマイチ思い出せない。特に用があったわけでもないから行かなかったし、おそらく親父の書斎とかそんなもんだろう。もしくはただの物置だったとか。
一階の方に両親の寝室があり、そこで前回は寝かされたわけだ。
だが、あの後光がどうしたのかは知らない。だけど、今聞こうとも光は何も覚えてはいないだろう。
はたして、現状の光は記憶が完全に消去されているのか、それとも記憶に蓋がされているだけの状態なのか。
脳の作りだか、はたらきなんて知りやしないけど、記憶を司るところがあるとするのなら、完全消去というとそこの機能を完全に破壊する必要があるだろうし、そうするとこうして立って歩いてることすらも不可能となるはず。ともすれば、後者の記憶に蓋をしていると考えるのが妥当なところか。
「それにしても、別に部屋を改造したりしてるわけじゃないんだな」
「借りてるのであってボクの所有物ではないことは重々承知してるからね。あくまで多少使いやすくしてるだけで、改築したりできるわけでもないし」
「とりあえずトランプするんだろ?どこにあるんだ?」
「あの……」
「なんだ?」
「いくら自分の家とはいえ、ボクが使ってるって言ったよね?」
「そうだな」
「それでタンスの中を漁るのは君の流儀かい?」
「そんな流儀はさらさらないが、お前は別に着替える必要もないというのを聞いたからな。着替えでも入ってたか?」
「それは今、君本人が分かってるはずだよ」
「……見なかったことにしよう。これで万事解決だな」
「謝るという選択肢を君は持ってないのかい」
「はっはっは。妹より年下の衣類に興味を持つ変態がどこに……ぐおっ!」
タンスから退いたというのに、枕が飛んできた。
俺の顔面へ直撃した後、ぽとりと床へと落ちていった。
「……うん。そうだな。何歳であろうと女の子だもんな。すまなかった」
「君にはデリカシーがない」
「よく言われる……ような気がする」
そもそもデリカシー云々の前に、幼馴染の行動がちょくちょく行きすぎるから俺が相対的に普通だと思っていたが、あくまでも相対評価であって、それが万人に対してデリカシーがあるやつかどうかというのは別問題なのだ。それがここで露呈しまったが、まあ、やったことは仕方ない。次から改善することにしよう。幸い下着類が入ってるところを開けたわけではなかったので。
ただ、ここは俺の両親の寝室のはずだ。ならば、このタンスには俺の両親の衣類が入ってるはずなのだが、光が撤去したのか?
撤去したとしてどこへ?
時間が動かないのなら、捨てられてもそのままのはずだ。
何から何まで同じということではないという裏付けになるだろうか。
いっぺんに聞いても光がすぐに答えられるとも限らない。一先ずは誤解というか、機嫌を直すためにトランプに付き合うとするか。




