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トワイライトシーカー  作者: otsk
20/45

20話:日付変更線

 4/13 月曜日。

 大多数の人間にとって、あまりその日に意味は持たないだろう。誕生日の人でさえ曜日まで気にする必要はないと思う。

 だけど、日付を記した。彼女に正確に会えた日を記憶だけじゃなくて、記録に残すために。

 だけど、この日は会うのが容易ではなかった。

 いつもならば、彼女がこちらへ出向いてくれていたのだが、来なかったためにこちらから探す羽目になっているのだ。

 いや、見つかるほうが稀だとも言ってたし、これが普通なのだろう。今も向こうも独自のレーダーを頼りに探し回っているはずだ。

 ならば、俺がむやみに歩いてるよりはどこかで待っていたほうが得策なのかもしれない。それで見つけてもらえるとも思わないが。根本的に探してない可能性だってある。やっぱりこちらから探すほうが効率的にはいいのだろうか。

 いや、いっそのこと光に見つかる前に少しばかりここを調べることにするか。俺の家にでも行けば、ここが何年前の世界なのか、それぐらいはわかるはず。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「な、なんで辿り付かねえんだ……」


 どう行っても、元の場所へ戻ってきてしまう。まさか自分の家までの道順がこんな近所でわからないわけでもないのに、どうなってるんだ。

 俺、このまま出られねえのか?


「……君は、何を探してるんだい?」


 唐突に後ろから聞こえた声に振り返った。

 何度も見たその姿に俺は安堵を覚えた。見知ってる姿を見るだけでここまで違うとは。


「お前を探してたんだ」


「……?ぼくを?ところで、君は誰だい?」


 ……こいつ、今なんて?

 俺が、誰だって?

 まだ、最後に会ってから2日しか経ってないだろ。いくら、時間の流れが違うとしても、忘れてしまうなんてことがあるのか?

 ……いや、こいつそう言えば、言ってたか。


『なるべく覚えてはいたいけど、よほどインパクトがないと忘れてしまう。だから、別れたらすぐ忘れてしまうようにしてる』


 それでも、遊が言っていた。人間は記憶を積み重ねることで古い記憶を忘れてるかもしれないが、それは記憶の奥底に行ってしまうだけで、すべてを忘れてるわけじゃないって。

 なら、顔を見たらなんとなく名前が出てこなくても、出会った記憶ぐらいは残ってるものではないのか?

 この反応を見る限り、光は本当に俺のことを覚えてないように見えるが。


「……俺のこと、本当に、覚えてないのか?」


「覚えてるも何も、君と会うのは初めてじゃ……」


 俺をおちょくってるわけでもなさそうだ。

 ……なんかのタイミングで出会った記憶を忘れてしまってるのか?確かにそれでは、今まで出会ったやつがいたとしても記憶に残ってはないだろう。


「……君は普段何してるんだ?」


「……探し物を探す手伝いだよ。君は何を探してるんだい?」


 もしかして、それだけのためにプログラムされてるのか?どうやってそんなことをしているのか。そもそも記憶の操作なんてことが可能なのか。

 細かいことはいいか。


「俺は、君を探してたんだ。渡したいものがあってさ」


 一冊のメモ帳をカバンから取り出した。どうやら、手元にあったものはそのまま持ってこれるようだ。


「これは?」


「これがあれば、今まであったこと記録しておけるだろ。あと、使えるかわかんねえけど」


 つけていた腕時計を外した。


「ありゃ、ちょっとデカイか」


 巻いてあげたものの、どうにも細腕の光の腕にはベルトが余りすぎてる。


「じゃ、これはポケットに入れとけ。これで時間が分かるだろ。ああ、メモ帳あっても書くものがなかったらしょうがねえな。じゃあ、俺のペン一本やるよ。インクがなくなったらまたやるから」


「ちょっ、ちょっと待って!なんで、君は……」


「君のためだ。余計なお世話だって言われてもいい。君は俺を覚えてないかもしれないけど、俺は君に前に会ってるんだ。まずは、自己紹介だな。俺の名前は隅吉想。メモ帳貸して。…………っと、こう書くんだ。あと、さ。君、名前ないだろ?前につけてあげたんだ。先に、字を……」


 光は、俺が持っていたメモ帳を閉じさせてた。俺は顔を上げた。


「その必要はないよ。ボクの名前は、夕陰光。……なんで、これを覚えてるんだろう」


 ……忘れてないからだよ。

 そう言おうと思ったけど、やめておいた。よかった。何もかも忘れてるわけじゃなかった。

 どういう仕組みかなんてわからない。

 忘れてしまったのなら、もう一度積み上げよう。

 それで、忘れてしまったならもう一度。

 何度でも。


「今日は4月13日の月曜日だ。ちゃんと書いとけ」


「……それなら、メモ帳じゃなくてスケジュール帳が欲しかったな」


 文句の多い中学生(推定)である。仕方ない、次持ってこよう。


「で、君は目的を達したようだけどこれからどうするんだい?」


「……そうだな。光。お前とこの街を探索したい。いつまでもかかってもいい。……時計だってあることだしな」


 そういえば、この辺りに備え付けの時計台みたいなのはなかっただろうか。それが動いてなければ、俺が渡した時計もあまり意味を成さないかもしれない。しかし、俺が渡した時計はこことは違う時を刻んでるかもしれない。まあ、動いてないなら動いてないでいい。

 今日は月曜日だ。仙石は何をして三日間も欠席したことになっていたのか定かではないが、どこかで誰かが時間を調整してるのかもしれない。それがなんの意味をなすのかもサッパリだが。

 そもそも、時間が進まないなんてことも物理的に考えて不自然な話なのだ。

 なんらかの外的作用があの街にはあるのかもしれない。

 ただ、探るなら外堀を埋めていくより、内側から打破する方が早いだろう。


「何をしてるんだい?探索をしようと言ったのは君だろう。ボクがどこに連れて行けるか分からないけど、行くなら早く行こう」


 今度こそはしっかり調べて、収穫を得てから別れることにしよう。

 ただ、ほとんど覚えてもいない相手なのに人見知りをしないんだな、こいつは。

 とりあえず、俺1人ではなぜか行くことのできなかった俺の家へと行くことにするか。




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