15話:休日
さて、土曜日は何事もなく久々にいつも通り、時間が過ぎ去る日常というのを過ごしたわけだが、当たり前が逆に違和感に感じてしまうあたり、俺は大概毒されているのだと感じる。前回はなぜか光が俺の家を使っていて、まあ、当時は俺の持ち部屋やベッドがなかったので、親父のものを借りて、そこで寝てしまった……かは定かではないが、戻ってきていた。
何かしらの行動がリンクすると戻るという可能性もある。無論、光が触れたから戻ってきたというのが大前提なのだけど。
さて、日曜にでもあいつは課題をやらないと次の補習に間に合わないはずだから、今度こそ俺1人で調査を開始しよう。
「お兄ちゃん、遊びに行こう」
そう思ってた矢先、妹が朝っぱらから現れた。
「今度はなんだ妹。俺はこれから出かける予定なんだ」
「なら、ちょうどいいや。私も一緒に行く」
「あのさあ……」
「迷惑?」
「…………」
ぶっちゃけ知られたくもない用事ということでもないし、逆に1人で行って怪しまれるぐらいなら、証人がてら連れて行ったほうが得策な気がする。
しかし、揃いも揃ってなんで俺についてくる。凪は友達がいないとか悲しいこと言ってたが、夢芽はいるだろうに。
「夢芽、お前は友達いるのか」
「え?いるよ。でも、偶にはお兄ちゃんに付き合うぐらいの甲斐性のある妹を演じておかないと」
演じるって言ったぞ。甲斐性つったって、どう考えても俺がATMになること必至だろ。どこが甲斐性なのか。誰かこいつに問いただしてくれ。俺が問いただしたところで、揚げ足取りされるだげだからな。とんだ妹である。
「でもね、みんなだって休日に誰かと付き合ってどこかに行きたいと思うほどまだ仲良くはないんだよ。もっとそういうのは放課後とかにするものなのです。お兄ちゃんは経験なさそうだけど」
勝手に決めつけるのはやめてもらいたい。ないけども。なんかこっちもシャクだし、少し牽制しておくか。
「お前がこうして俺につき合ってる間に、他の子は仲良くしてるのかもな」
「それはそれでいいことなのです。交友の輪は広く浅く。顔が広いとそれだけでコミュ力の塊で社会的にとても役に立つのです」
全員がロクな奴であるといいけどな。顔が広すぎると、絶対1人や2人ぐらいは道を踏み外してる奴がいる気がしてならない。こいつの交友関係は中学時代は大して問題なさそうだった、というか世渡り上手なんだよな。取り入るのがうまい。よほど、変な奴に絡まれなければいいんだが。
というより、俺の返しに対してもこんな感じだし、言うほど友達に固執しないのだろう。変にドロドロに巻き込まれるぐらいならそれぐらいのほうが兄としてもあまり心配しないでいいのだが。これで、お兄ちゃんと結婚したいです、とか言い始めたらグーパンチである。兄妹仲がいいですで留めておいてください。
「ところでどこに行くの?」
「友達のところだが」
「お兄ちゃん、凪ちゃん以外に友達いたの?」
友達いるって言ったよね?こいつの耳と記憶力はどうなってる。常に俺が可哀想な奴だと認識したいのか。可哀想なお兄ちゃんに付き合ってあげる私、優しい可愛いをしたいのか。いくらアピールしようが、計算高い常に打算的に生きてるやつだと紹介するぞ。世の中ではそれを性格の悪いやつだという。でも、見た目は悪くないからな。これがなんか腹立つ。いや、確かに身内が可愛いって言われるのはそれはそれでいい話ではあるんだが。
「ん〜?お兄ちゃん、その友達に私が取られることを心配してるのかな?」
「こんな妹をつかまされるやつが一番可哀想だと思う」
「たぶん、私尽くすタイプだよ」
「自分で言うやつが一番地雷だと思うんだよ。お前は手料理の一つでもできるのか?」
「まあ、簡単にクッキーとか焼けるよ。結構作ったりしてるし」
「え?俺もらったことないんだけど」
「友達に渡すのになんでお兄ちゃんに渡さなきゃいけないの。お兄ちゃんは凪ちゃんが作ってくれるでしょ」
「…………」
いやさ?確かに友達に渡すんだから俺に渡す必要はないっていう理論は分かりますよ?でも、余った分を味見してってくれる優しさはないの?俺、そういうのが兄に対する気遣いだと思うんだよ。
きっと、今から俺に付き合うことは絶対に何かしらの妨害を企んでるに違いない。
ことさら警戒していくか。
俺は妹に反論できないまま、遊の家へ向かうことにした。
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「で?妹が付いてきたと?」
「ダメだったか?」
遊のやつは割と良い家に住んでいて、旧家というやつだろうか、そこそこに厳格な決め事があったりするのだ。さすがに高3であるので、がんじがらめというわけでもないが、長男という立場もあるのであまり事前に伝えてないことを持ち込まないほうが良いのだ。俺の妹だしそこまで問題がないかと思ったが。
「……名前なんてったっけ?」
「夢芽です。夢に植物の芽って書いて夢芽っていいます」
「お前の親結構良いセンスしてるな」
「俺のは雑な気がするが」
「お前の名前からも連想できるから、お前も一役買ってんじゃねえか?」
「よくわかりましたね。私言われるまで気づかなかったのに」
「俺は逆に今気づいた」
「この兄、妹をなんだと思ってる」
「むしろこの妹が俺をなんだと思ってるか問いただしたいぐらいだが」
どっちもどっちだという結論で片付いた。この場合はどっちが悪いのかわからない。きっと親が悪いのだろう。二つ離れた妹と同レベルと言われたようでなんだか悲しいが。
たぶん、妹は俺が隠していることを知りたいだけだろうし、そのことは丁度調査過程を知らせるためにここに来ているので、妹に説明する手間も省ける。連れてきたのは正解だ。そういうことにしてくれ。
「お前の妹可愛いな」
「そう思うなら直接言ってやってくれ。すぐ有頂天になるから」
「い、いや直接言うと意識してるっつうか、誤解されそうじゃねえか。二つ下だろ?俺はもっと年上の包容力のある……」
男2人でこそこそ会話してると、先に上がっていた夢芽から声をかけられた。
「行かないんですか?」
「あ、ああ案内するよ」
ちょろそうだなこいつ。妹が計算高いのもあるが。そして、たぶん聞こえてるだろう。なんでわかるかって、足取り軽すぎるからな。軽くスキップしてる。態度に出やすいやっちゃ。表情は誤魔化しても全体的に隠しきれてない。
まあ、夢芽がスキップしていても遊のやつは案内するために前に出ているので後ろを振り向かない限り気づきようもないが。
「汚ねえ部屋ですまないけど……」
「いえいえお気遣いなく。お兄ちゃんも同じぐらいですから」
さりげに俺を引き合いに出すな。しかも、遊も俺が来るときそんなこと気にしたことねえだろ。
「変な本はないよな」
「お前が考えるようなものは俺の部屋にはない」
「あっても気にしませんよ?」
「お前はお前で気にしてくれ」
確かに興味あります!って見られても困惑するだけだが。男は女の子に夢見がちなものなんだよ。俺の場合は妹と幼馴染によって破壊されているが。いや、この2人は一般世間から外れてる気もしなくもないが。
常識ってなんだろうな?
「で、想の方は用意してきたんだろうな?」
「上からの発言と取り、用意してきたが、このまま何も報告せずに帰る。また来週」
「待て待て待て。どんだけひねくれてんだお前は。妹の手前だろう」
「自分が不快だと感じたら断る勇気を見せることだって必要だぜ。それを実践してる」
「お前が俺を下に見ていることはよくわかった」
「そもそも下に出る立場だよなぁ。お前ができないから俺がやっているという前提を忘れてないか?」
「くっ……この屁理屈野郎め」
「至極まっとうな正論を述べてるだけだ。まあ、お前がどんな理屈をこねようがお前のほうが屁理屈扱いだろうな」
「……夢芽ちゃん。こんな兄をどう思う?」
「昔っからこんな感じですので。今更どうこうというか私から言うことは特にないです」
よく訓練された妹です。なんというか、自分の立ち位置をしっかり把握して発言するやつだからな。あ、だから計算できてるのか。納得。
「まあ、でもお前の言う通り確かに妹の手前だし、少しでも有能な俺というのを見せる必要はある」
「不確定要素満載の話だけどな」
「そもそもお兄ちゃんが有能だった話が一つや二つでもあったんでしょうか?」
妹。せめて少しはあげてやろうという気はないのか?兄から君への好感度は徐々に下がりつつあるぞ。根本がクソ高いから、下がったところでリカバリーは即可能。クッキーとかくれたらそれでいいです。そんなことは一切ないからこの場で戻ることはないけど。
「とりあえず、ここ一週間で調べたことだ。まだまだ謎が多いし、そもそも調べたというよりは俺の実体験に基づくものだから胡散臭いことも多いかもしれが、それには目をつむって聞いてくれ」
俺の頭の中に残ってる記憶を頼りに書き出したデータを印刷してきたのだ。
まあ、たいして情報も集まってないし、そもそも俺が見落としてること自体も多々あるかもしれない。第三者の目から分からないところを言ってもらって、さらに情報を精査していこうということだ。
進展があるといいんだが……。




