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トワイライトシーカー  作者: otsk
10/45

10話:境界線

 やはり探し物というのは見つかってほしいと願う程見つかりにくいものなのかもしれない。

 だけど、それでは光が言ってたこととは全く正反対だ。あいつは探し物をしてるときに出会えると言っていた。

 まあ、確かに探し物としては特殊すぎる部類になるし、別に無くし物というわけでもないので見つかるというよりは見つけるが正しい表現だ。

 しかし、こうしてる間にも刻一刻と時間は過ぎるし、日も沈んで……というより一番星見つけただよ。ここ、時計ないし、頼みの綱の遊の携帯は電源切れてるとかいう無能極まりない状態だし。どう打開するんだこの状況。


「想ちゃ~ん。何かあった?」


「何もない。月が昇ってきた」


 今日は会えないんだろうか。


「諦めちゃダメだよ!こういう時間帯こそ何が起こるかわからないんだから!」


 不測の事態こそ起きてほしくはないんだが。


「遊は?」


「給水塔調べてる」


 俺が言ったこと真に受けてんのか?あいつも異世界に行ってしまうんだろうか。ちゃんと帰って来れるか心配だ。まず行ってすらいないけど。


「で、お前は何するんだ?」


「疲れたから寝る。想ちゃん膝枕して~」


「立場的には普通逆じゃねえのか」


「想ちゃん私の脚に魅力を感じてるの?」


「ないとは言ってない」


「想ちゃん……」


「あるとも言ってないが」


「持ち上げて落とさないでよ!」


「仕方ねえな。ほら、適当に時間経ったら起こすからな」


「やったー」


 あまり行儀良くはないが、地面にあぐらかいてその上に凪は頭を乗っけた。

 しかし、寝ずに俺の方ばかり見ている。


「凪さん?寝るんじゃないの?」


「こうしてると想ちゃん独り占めしてる感じー」


「寝ないと転がすぞ」


「ちゃ、ちゃんと寝る!」


 寝るのって勢い込んで寝るもんだったか?寝ると言ったものの、すげえ瞼閉じようとして力んでるのが一目瞭然だし。

 まあ、あんま意地悪ばっか言っててもこいつに悪いか。ただ、こうしてると幼馴染とかいうより兄妹だな。まあ、甘えてくれる妹は……いたような、いなかったような。

 妹よ。兄がいないことを察知して迎えに来てくれ給え。さすがに屋上にいるとは思わないだろうけど。

 ちゃんと紹介してなかったが、うちの妹は2個下でうちの高校一年生です。


「ん?」


「すぅーすぅー」


「寝たか」


 おとなしくしてれば良いんだけどな。こいつは何でもかんでも尻尾振って付いてくるから。まあ、噛みつかないけど。じゃれてるだけ。

 近くに遊もいるから、あんまり下手なことは出来んな。

 ……俺も少し寝るか。やることないし。夢の中で会えるかもしれない。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……ん?くわぁ~」


 なんかすげえ寝てた気がする。せめて、家のベッドで目覚めたかったものだ。凪を乗せて、そのまま俺も寝てしまったところまで覚えている。ということは、まだ寝てるのだろうか。夢の中か?

 が、痛みはリアルだ。凪を乗せていたのと、あぐらの姿勢をずっと続けていたので痺れが酷い。


「凪?」


 凪は俺の足元で俺が寝る前と変わらない顔で寝ていた。俺より先に寝て俺より長く寝てるとは幸せなやつだな。

 しかし、なんだか寝る直前より明るく感じる。寝すぎて朝が来たのか?しかし、朝というには光はどこか優しい。


「夕焼け?」


 いや、いくらなんでも寝すぎだろう。そうだ、遊のやつは……。


「……いるわけねえか」


 そもそも位置的に見えないのかもしれないが、まあ、根本的にいないのだろう。

 それにしてもこいつも十分寝たろうし起こすか。


「凪、起きろ」


「うーん……あと1時間……」


「家で寝ろ」


 そもそもこの世界で家に帰ったところでという話だが。帰っても人っ子ひとりいないという話だ。

 ……このまま足を引けば、頭打って良い感じにアホが直るんじゃないか?

 別に凪は重くないし、このまま普通に起き上がらせれば良いんだが。


「うーん。想ちゃん……今何時?」


「さあな」


「じゃあ……まだ寝れるね……」


「起きろ。こんなところで風邪引かれても困る」


 そもそも風邪の概念があるかどうかも謎だけど。人間の体内に関しては関係ないのか?


「えっと……ここ、どこだっけ?」


「学校の屋上だ」


「……寝過ぎた?」


「いや、その可能性はよほど低い。また来ちまったみたいだな」


「どこに?」


「俺が言った俺たちがいる場所とは異なる世界だよ」


「…………」


 無言で頬を引っ張るな。しかも俺の。俺が痛いだけだろうが。自分の引っ張れ。

 凪が自分のやつを引っ張るわけでもないので、俺が引っ張ってやった。


「……しょ、証拠は!」


「実証のしようはねえな。とりあえず学校から出るか」


「開いてるの?神楽君は立て付けが悪くなってるって」


「あいつの力が貧弱なだけだと信じたい。そして、それはここで関係ないとも信じたい」


 遊のやつが言ってたように立て付けが悪くて扉の開閉が出来ないということはなく、普通に開いた。どこまでが同じなんだろうか。

 俺がこの町しかよく知らないからそのあたりだけで構成されているのかもしれない。

 そうすると、光は俺だけの脳内少女とかなってしまうが、そんな悲しい現実を突きつけないでほしい。そのあたりは凪が見ることができれば解決することだろう。

 そもそも光に会わなければ、帰ることもできないんだが。

 階段を下って行ったが、学校内は特に目立って変わってる点はなく、そのまま通り過ぎて行った。


「あ、荷物」


「……ないと思うが一応行ってみるか」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ミステリー研究部……あれ?ないよ。想ちゃん」


「あ?この辺だったろ」


 特に内装工事をしたという話は聞かない。配置などは変更になってることはないはずだ。


「想ちゃん。うちの学校もこの町の七不思議の一つになっててね」


「なんだ急に」


「もう解決したことだけど開かずの間があったのですよ」


「……それで?」


「そんなあからさまに興味ないようなトーンで返事しないでよー」


「聞いてやるから話してみろ」


「昔ね。今ここ美術室になってるでしょ?」


「そうだな」


「図面的にはもう一つ部屋がないとおかしいのに入り口がない部屋があったんだって」


「……オチ的には何かしらでそこへ行くための扉が隠れてて、廊下側には扉は作ってなかったんだろ。おそらく、美術部の作品を保管しておくための部屋だったってところか。もしくは見られちゃマズイものを隠しておくためとか」


「なんで全部当てるの!」


 合ってんのかよ。


「ことの顛末は?」


「残しておいても仕方ないから作品は全部撤去して、ただの空き教室にしたみたい」


「……ということはここは数年……もう少し前になるかもしれんが、今、俺たちが通ってる学校より前の校舎ってことになるな」


「わ、私たち過去にタイムスリップしてるの?」


「可能性の話だ。ま、現時点でここに俺たちの荷物はない。今はそれだけ」


「……あ、あの想ちゃん」


「今度は何だ」


「ト、トイレ行ってきていいかな」


「……この世界、生理現象が一切起きないって聞いたんだが……わかったわかった。付いてってやるから早く行こう」


 そもそもあくまでも俺たちは別のところから来てるはずなので、万人が万人にその法則が当てはまらないだけなのかもしれない。

 しかし、ここ、水とか流れるんだろうか。現に俺は別に喉が渇いたとか、お腹空いたとか眠いとか感じてはいない。さっきまで寝てたのだから当然と言えば当然だが。

 数分して凪はトイレから出てきた。普通にハンカチで手を拭いてるので水道のシステムは生きてるようだ。

 何もかも止まってるというわけではないのか。よく分からない世界だ。長く在住してるわけでもないので知った顔で歩けるわけでもないのだが。

 そうできるためにも早急に光を探す必要がある。

 次があるとも限らない。それは確かな話だ。ならば、今回ある程度時間を使ってでも大半を解明していきたいところだ。

 しかし、光に触れられると元の世界に戻るどういう原理だが、戻すという意思があってそれが行われるのか、光に触れられるというファクターで起きるものなのか。

 下手にスキンシップを試みようとして何も出来ずに帰ってしまうなんてのはゴメン被るぞ。


「あ、想ちゃん。そういうえば女の子って名前なんだっけ?」


「光だよ。夕陰光。俺がつけたからまあ、色々言いたいことはあるだろうが、光って呼んでやってくれ」


「よし、わかった」


 学校の校舎から出て、場所は校庭。誰もいないその場所へ凪は息を吸い込んで叫んだ。


「ひーかーりーちゃーん!あーそーぼー!」


 小学生か。どこを放浪してるかわからん奴を呼んだくらいで現れるか。

 出てきたら、その時は褒めてや……


「…………」


「…………」


 目が合った。校門の外に小さな少女。

 そもそも人がいること自体が稀なハズなのでそいつに違いない。

 向こうも視認したのか、こちらへと歩いてきた。


「よく、会うものだ」


「こっちのセリフだよ」


「えと……想ちゃん、その子は?」


「ああ。この子が光だよ。こっちは幼馴染の凪だ」


「……二人いっぺんに来るのは珍しいことだね。そもそもそんなことは起きないって言ったほうが正しいか。別に合流したわけでもないかな?」


「学校の屋上で寝て起きたらあら、不思議だ」


「君は何かに取り憑かれてるのかい?」


「幼馴染に取り憑かれてる」


「人を悪霊みたいに言うのを止めてよ!」


 相変わらずきゃんきゃん吠えられている。いつも通りなので適当に頭を撫でてやるとすぐ落ち着く。扱いやすい子です。


「冗談はさておき、そっちはなんで見つけられたんだ」


「まあ、第六感とでも言えばいいのかな?ここに来た人を感知できるようなものがボクには備わってるらしい。自分の感覚を頼りに歩いてたら、その子が叫ぶ声が聞こえたんだよ」


 その子はなんか新しいオモチャでも与えられた子供かのように目を輝かせて、何かを今か今かと堪えているようだ。

 光もそんな様子を察知したのか、俺を挟んで凪の死角に入った。

 そして、二人で俺を軸にしてぐるぐる動き始める。正直鬱陶しい。

 光の方をとっ捕まえるのはさすがに気が引けたので、凪の方を止めることにした。


「は、離すんだよ!想ちゃん!」


「行動が犯罪者だろうが」


「こんな可愛い子を愛でないで誰を愛でるというの⁉︎」


「お前の場合行き過ぎるから怖いんだよ」


 光はといえば、凪が止まったのを見計らって、俺たちと少し距離を置いた。なんだか寂しいな。俺は何もしてないというのに。

 しかし、光は言及はしてこなかったが、確かに可愛らしい。背が低いためこちらを見る時は確実に上目遣いなるし、肌も綺麗で、目はくりくりぱっちりである。ただ、髪だけはなんだか無造作に伸びてるような感じだけど。ロングヘアーと言ってやれば良いんだろうか。

 ただ、その子は今、とてもこちらを警戒してます。猫っぽい。


「正直、想のほうがこのようなことになるのではないかと懸念していたのですが、思わぬ伏兵ですね……」


 そんな風に思われていたことに軽くショックを受けています。いや、まあ確かにそうだよね。女よりは男の方に普通警戒心を持つよね。ちゃんと紳士的な態度と節操は守らないといけないよ。そうして信頼を積み上げていくんだ。ただ、なんとか積み上げてきたものを一気に崩されそうになってるけど。


「こんなことしてても何も始まらんだろう。ほら、仲良しの握手しろ」


「よろしくね!光ちゃん!」


「え……あ……う、うん」


 あまり慣れてないのか、差し出そうとする手はぎこちない。俺と握手したのはあくまでも帰らせるための儀式的なもので、誰かと触れ合うということがなかったんだろうか。

 ただ、一つ懸念していたことはこれで払拭された。


「凪は帰らないんだな」


「え?」


「……ボクの意思である程度融通が効くみたいだ。ただ、下手に何かするんならすぐに返却する」


 こちらも、好きで来たわけでもないんだが。

 しかし、交流を図るというのは悪くはないかもしれない。

 お互い疑ってギスギスしてもいけないしな。


「なあ、光。この辺り案内してくれないか?なんか新しい発見があるかもしれない」


「……ボクとしてはあまり長いことここに滞在しないほうが好ましいと思うんだけどね。どうするかは君ら次第でボクが干渉することではないか……ボクが案内できるところなんてたかが知れてるかもしれないけどそれでもいいなら付いてきて」


 どうやら前に怒らせたことは引きずってないらしい。そもそも俺たちの世界で1日経ったことがこちらでどれだけの時が流れているかそんなことは検証のしようはない。彼女は随分長いこと待ってるのかもしれない。

 ……だからこそ過干渉はせずに、仲良くなろうとも次に来るとも限らない。待てども待てども、来ない人を待ち続けるのなら誰とも触れ合わないほうが彼女にとっては幸せなのかもしれない。

 それでも、凪は来たばかりで何もわかってないため、光の手を取って歩き始めた。

 普段、彼女がどうしてるかなんて知りはしない。だけど、俺たちがこうしてここにいるのならば、まずはその意味から探っていくとしよう。


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