1話:夕暮れ時に
「なあ、最近聞いた噂なんだけど知ってるか?」
放課後。高校三年生にもなり、そろそろ本格的に本腰を入れて就職活動なり大学受験への準備を始めなければならないこんな時期に、俺に噂話を持ちかけてきたやつがいた。
俺の遊びの友達というか、友人に向かってこういうのもなんだが悪友である、神楽 遊。
「噂話の調査をだな、他にもお前含めて4人来る予定なんだ」
俺が行くことは決定事項なのかよ。まだ承諾してないぞ。しかも、まだ噂の概要も知らされていない。これでなんで俺が行くということが決定されてしまうのか。まあ、なんだろうが大抵は付き合うけども。
「そんな嫌そうな顔しないでくれよ〜。お前が一番頭がキレるんだから頼んでるんだよ。頼むよ、想〜」
頭がキレると言っても遊び仲間がとことんアホばかりなので相対的な評価でしかない。目の前のことに突っ走るやつしかいないのだ。俺が舵とりというか、状況判断をするだけである。
「誰も行かないなんて言ってないだろ。お前の言うことだからどうせなんの当てもない噂なんだろうけど」
「当てがあるからちゃんと誘ってんだぜ」
そう言って当てがあった試しは2割あればいいところなんだが。打率が低すぎる。守備専だとしても打線におけば自動アウト扱いだ。それでも入るということはきっとモチベーターなんだろう。そういうことにしておこう。ことの発端は大抵こいつだからな。情報をどこで拾ってくるかは知らない。
「なになに?隅吉来るの?」
「おうとも。俺の心の友だからな。以心伝心してる」
「した記憶はない」
「俺のコミュ力のおかげで女子も来るんだぞ。素直に頷いてくれ」
「いや、神楽が言うなら隅吉も自動的に来るかな〜って」
「俺がお釣りだったのかよ!ひでえな!」
「女子はしたたかなのだよ」
したたかな奴は自分でそういう評価下さないものだと思うんだけど、それは言わない約束ということでいいんだろうか。
途中から会話に加わわったこいつは俺の隣の席の早瀬凪。俺のことは学校では苗字で呼んでるが、幼馴染であり、一度学校から離れると想くん想くん呼んで子犬のように尻尾振って付いてくる妹みたいなやつである。いつまで付いてきてくれるんだろうか。
「……あと2人いるんだよな?」
「おう。他のクラスだからな」
「本当に来るのかよ……」
「俺が部長のミステリー研究会だぜ。今回はそのネタ集めだ」
「お前の面でミステリーとか鼻で笑うレベルだよな」
「顔で判断すんじゃねえよ!外面から考えられない趣味の一つや二つあってもいいだろ!」
「じゃあ、そのミステリー研究会の活動らしいから俺はパスするとしよう。凪帰るぞー」
「ちゃんと早瀬って呼ぶとよろし!」
「ちょ、ちょっと待ちたまえ君たち!不思議の探求に興味はないのか!」
「ない」
「冷たすぎるだろ!どうせお前は帰宅部なんだしやることないだろ!」
「ないが、お前に付き合うこともない」
「まあまあ、そこまで邪険にしなくても付き合ってあげようよ。暇潰しにはなると思うよ」
「さすが早瀬!話が分かるぜ!」
「私は君の良き友だよ!」
イェーイ!とハイタッチしてるがお前らだけで意気投合してるのなら俺は巻き込まなくてもいいと思う。でも、付き合わないとこいつらスネて明日以降機嫌直すのが面倒になるから付き合ってやるとするか。
しかし、部のネタ集めはいいが、こいつら自分たちが目下受験生の三年生であることは自覚しているんだろうか。
「よーっし!善は急げだ!行くぞ!」
「おー!」
「あ、おい……」
結局、まだ噂話の内容をちゃんと聞いてないんだが、あいつらは先に意気揚々と教室から出て行った。
4月。新しい学年に上がって少し浮き足立ってるこの時期に、舞い込んできた噂話は後に俺に影響してくるのかどうか、定かではない。
長引くようなことがなければいいんだが……。