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第1話 激闘! VSひったくり犯

全5話の短いお話です。明日続きを投稿します。

『10月生まれのあなたは今日、最悪の運勢でしょう。でもご安心を。ラッキーアイテムはぬいぐるみ! これであなたもラッキーマンORウーマン! では、良い一日をお過ごし下さい。わたくしマリマリがお送りしましたー』

「うげっ。運勢最悪って私のことじゃないか」


 起きたばかりの寝ぼけ眼で食パンをかじりながらテレビを見ていると、やけにテンションの高い占い師マリマリが務める朝の占いコーナーがやっていた。ぼんやりとパンをもぐもぐごっくんしていると不吉な言葉が耳に入ってくる。

 そう、私は10月生まれ。今日は運勢最悪らしい。


あい! 早く出ないと学校遅れるわよ。というよりもう間に合わないんじゃない?」


 私の名前を呼ぶお母さんの言葉にハッとして時計を見ると始業開始まであと15分を切っていた。私が通う高校まで歩いてちょうど15分。今から出てギリギリ。走ればなんとかといったところか。どちらにしても慌ただしい朝になりそうな予感。


「最悪だ~」

「自業自得でしょ」


 ごもっともで。

 食べかけの朝食を口に詰め込む。喉に詰まりそうになるのを牛乳で流し込んで食事終了だ。自室に戻るとパジャマを脱いでパパっと制服に腕を通す。長いストレートの髪は簡単に手で梳くと後ろをヘアゴムで結んでポニーテールにする。

 女子としてこのテキトーな身だしなみはどうかと思うが時間がないのでしょうがないと自分に言い訳をする。

 さっさと部屋を出ようとする際、不意にベッドにちょこんと座っているくまのぬいぐるみが視界に入った。つぶらな黒曜の瞳と目が合ってしまう。

 そういえば、テレビの占いでラッキーアイテムはぬいぐるみって言ってたっけ。これを学校に……って、いやいやいや、くまのぬいぐるみ抱いて歩く高校生ってどんだけ痛い子だよ!


「これで我慢しよう」


 机の上にあったちっこい犬のぬいぐるみを持っていく。ポケットに入る大きさだ。それを上着のポケットへとぞんざいに突っ込むと、急いで家を出た。


「いっそげーいっそげー」


 いくら私でも街中の全力で疾走するのは恥ずかしいので、口だけ急いでいる風を装って早足で歩く。通学と言っても閑静な住宅街を突っ切って行くだけだ。途中で信号があるわけでもなし、踏切を渡るわけでもない。学校に向かう上で不確定要素はほとんどない。いざとなれば走ればいいだろう。

 歩けども歩けども塀に囲まれた道を進む。時々右に曲がったり左に曲がったり、出会い頭の車には注意して歩いて行く。

 このペースなら余裕で間に合うんじゃないかな。

 そんな甘い考えを天に見透かされたのだろうか。


「ひったくりよー! 誰かその男捕まえてー!」


 ……まぁ、そううまくいかないよね。さすが運勢最悪。

 叫び声のした方向から駆けてくるのは、サングラスにニット帽を被った全身黒ずくめのいかにもといった具合の輩。脇に何かを抱えて駆けてくる。あれがひったくった戦利品だろう。サングラスで表情が読めないせいでこちらに気付いているのかいないのかはわからない。一本道なので私も男も他に逃げる場所はなく、近くに頼れる大人もいない。

 男はどんどんと私の方に迫ってくる。あと数秒ですれ違うだろう。

 私は「よし!」と気合を入れ、右腕を横に伸ばし――思い切り振りぬく!


「ぶびゃっ!」


 変な声を上げたひったくり犯はもんどり打って仰向けに倒れた。

 横に広げた腕は物の見事に相手の顎へとクリーンヒットした。俗に言うラリアットというやつだ。

 見様見真似でやったんだけど、あの犯人一回転したぞ?! 

 大丈夫かな……死にはしないと思うけど。ていうか腕が痛い。これ自分にもダメージくるわぁ。


「くはっ……くぅ、こ、こほぉ、こ、小娘がぁ!」


 上手く息出来なくて辛いなら喋らなきゃいいのに。

 わざわざ威圧しながら起き上がろうとするひったくり犯。サングラスで目は見えないけど、きっとそのサングラスの奥では私への憎悪に目をギラギラさせているんだろうな。起き上がってこられたら厄介なことになるのは火を見るよりも明らかだ。

 こうなったら容赦する必要ないよねっ!


「お、おい。何をする気だ」


 まずひったくり犯に駆け足で近づきます。

 そんで利き足を振りかぶります。

 そして無防備なその股間を力の限り蹴り抜ける!


「おいやめ……」


 ――その日、〇〇市〇〇町に獣とも人とも取れない奇妙な叫び声が聞こえたという。


「ふぅ……討伐完了。かわいい女子高校生に蹴られたんだからご褒美だと思いなさいよね!」


 なぜかツンデレ風になってしまった。そこで泡吹いて倒れているひったくり犯には聞こえてないと思うけど。


「はぁ、はぁ……あ、あの、ありがとうございます」

「ん?」


 息せき切って走って来たOLっぽい女の人が話しかけてくる。


「助けていただいてありがとうございます」

「いえいえ、当然のことをしたまでです」


 お礼を言うお姉さんはひったくられたであろうバッグを男の手から取り戻す。

 いやぁ、よかった、よかった。ってこんなことしてる場合じゃない! 学校遅れちゃうよぉ。


「是非お礼を」

「あ、ちょっと待って下さいね。ヘイ! そこのかっこいい人!」


 声を張り上げると道行く男性諸君が「え、俺?」といった感じで振り向く。みんな単純ですなぁ。普通に「そこの人~」って言っても誰も自分が呼びかけられてるとは思わなくて振り返らないからね。


「そうです、そこのあなたです。こいつひったくり犯なので暴れないように押さえていて下さい」

「ああ、わかった」


 声をかけた男の人はかっこいいと言われたせいか若干デレっとした様子で指示に従う。私の方はというと携帯電話を取り出して警察に連絡する。あと5分もすればパトカーが到着するだろうけど、それじゃ学校に間に合わないよなぁ。いち早くこの場から立ち去るため、被害を受けたお姉さんに一声かける。


「私は先を急ぐのでこれで失礼します」

「あ、せめてお名前だけでも」


 ふっ、こういう時のセリフは決まっているのだよ。


「あっしはしがない学徒の身……名乗るほどの者じゃございやせん。ひったくりには気を付けてくだせえ。それではさらばっ!」

「あっ……」


 追いすがろうとするお姉さんを振りきってダッと風のように走る。

 一度言ってみたかったんだよね、ああいうセリフ。良いことした後は気分いいわ~。

 私は一種の高揚感と共に疲れも忘れてポニーテールをなびかせながら街中を駆け抜けていった。


 静かな廊下をぺたぺた上履きで踏み鳴らしながら自分の教室まで行き、引き戸をそおっと開ける。


「よっしゃ、セーフ」

「セーフじゃないです。アウトです」

「えー、だってまだ先生来てないよ、委員長?」

「チャイムはもう鳴りました。何回遅刻すれば気が済むんですか! しかもいつもギリギリで」


 クラス委員長が遅刻常習犯の私にガミガミお小言を言ってくる。委員長の名前は……委員長のままでいいや、みんな委員長としか呼ばないし。三つ編みのおさげを二本前に垂らして眼鏡をかけている見た目はまさに誰もが想像する委員長といった感じだ。委員長が委員長たる所以だね。とにかくクラス内で委員長は私のお説教役と化している。

 いつもは寝坊するせいで遅刻するけど今日は違うんだなぁこれが。


「実はね、委員長。今さっき人助けをしてきたところなんだよ」

「人助け、ですか?」

「そう、なんと……ひったくり犯を捕まえたんだよ!」

「はいはい、すごいですね」


 委員長はジト目でこちらを見て、手にする名簿蘭の遅刻の箇所にチェックを入れようとする。それ対して私は慌てて手を振った。


「ちょ、ちょっと待って! 嘘じゃないってば。話すと長くなるんだけどね、今日の朝、寝坊して家を出ると……」

「やっぱり寝坊したんじゃないですかー!」


 無情にも遅刻にチェックを入れられてしまった。


「最悪だ~」

「自業自得です」


 納得いかぬ。

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