お猿の駕籠屋が乗車拒否!?(500文字)
四つ辻の角でお猿の駕籠屋が二挺、客待ちをしていた。そこへ三匹の太った雌兎が通りかかり、先頭の駕籠かきに尋ねた。
「祇園の石段下まで行っておくれでないかい」
「石段下?」
猿が吐き捨てるように答えた。
「そんな近場、銭になりゃしねえ。こちとら長いこと張ってんだ。伏見稲荷くらいは行ってもらわねえと」
二挺目の駕籠かきが加勢した。
「お姉さんがた。石段下はすぐそこだよ。歩いたってしれてるよ。よそから来たんだね。ここいらでそんな近場で乗せてくれる駕籠なんてありゃしねえよ」
兎たちはすっかり気を悪くして、
「何だい、この雲助!」
と言い捨てて、東へ向かった。
そこへ河原町通りを北行してきた駕籠屋が出合い頭にぶつかり、兎たちが吹っ飛ばされた。
往来に倒れた兎たちのうちの一匹が、頭から血を流しながらおめいた。
「駕籠に乗ろうとすりゃ断られ、歩こうとすりゃ駕籠に轢かれる。まったく、なんて所なんだろうね。この京という町は」
この顚末を見て、さっきのお猿の駕籠屋は、
「京の都は一見さんお断りなんだ。こんど来るときゃ銭こしこたま持ってきな」
と、にべもない。
そんな憎まれ口を叩いている駕籠屋のほうも、言葉尻からして京の産ではないと思うが。
この作品には一部差別的な表現が含まれますが、作者自身が件の被差別業界に十年以上も身を置き(ケッ)、抑圧に耐えてきた事実に鑑み(ほんとひでぇ目にあったよ)、原文のままとします(何も知らん人間にとやかく言われる筋合いはねぇよ。人間を動物に置き換えてるだけで殆ど実話なんだぞ)。