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"禍の角"ワールドガイド

■前文


先日神戸―大阪間で行われた、数百の巨大人型兵器同士の戦闘、そしてその結果は全人類を震撼させた。

30~50mほどの大きさの人型機械がまるで、生身の生物のように滑らかに動いたことは勿論であるが、様々な観測結果から亜光速で移動しているとしか結論付けられない事が明らかになったから、だけではない。

それらも十分に驚異的であるが、真に恐るべきは、その戦闘に巻き込まれて壊滅した阪神間の都市全域が、戦闘直後に再生していく様子が、撮影されていたのである。

確認されている戦闘の犠牲者は0。人的被害も含め、まるで悪夢だったかのように、彼らは駆け抜けそして去って行った。

だが残された数々の記録から、その存在は明らかだ。

特徴的な1本角の個体から、誰からともなく彼らはこう呼ばれるようになった。

"リオコルノ"級、と。



■リオコルノ級の歴史

リオコルノ級の起源はそもそも、1万2千年前の大戦にまでさかのぼる。

宇宙最初の恒星間戦争である大戦初期、銀河諸種族連合の前身である神聖軍事同盟は、機械生命体の拠点を破壊するために小天体を投下する、という攻撃手段を用いた。

それを機械生命体が学習した結果、両陣営は壮絶な天体投下競争に陥ったのである。

これを防御する手段は工兵が小天体に取りつき、爆破するというものであったがお世辞にも効率的とは言えなかった。

そこで打開策として開発されたのがリオコルノ級の前身である工兵機械である。

12機(16機とも)建造されたこの工兵は、唯一の地球人である角田博人の発案の元、機械生命体をベースに当時の商業種族の援助を受けた学術種族が総力を挙げて開発した歩兵の極限ともいうべき存在だった。

この時建造された先行量産型に対する要求性能は

・物質透過を利用可能。

・核爆弾を装備可能。

・高い作業性

・高加速能力

・十分な生存性

・臨機応変に対応できる知能

を備えたものである。

これは、既に当時かなり進んでいた機械生命体の構造研究を流用した生物兵器としての側面を備えていた。

最新科学技術の粋を凝らしたこの兵器は人類・商業種族・学術種族連合のスタンダードとなり、その後さまざまな改良を経ながら、敵である機械生命体にも取り入れられて発展してきた。

そしてその集大成ともいえるのが、大戦序盤に出現した"禍の角"であり、リオコルノ級のスタンダードを築いたと言っていいだろう。


■リオコルノ級の運用

リオコルノ級は汎用性を重視しているため、近接格闘戦以外のジャンルでは他の専用兵器に劣る。しかし、そのなんにでも使える利便性、特に天体破壊を得意とする事から、戦後は天体のテラフォーミング事業などで重宝され(注1)、いまだに新型がロールアウトし続けている息の長い兵器である。

リオコルノ級はそれ自体が1個の完結した知的生命体であり、人間が操縦するという概念は存在しない(角田博人は好んでリオコルノ級"未来"に搭乗するがあくまでも移動手段である)


先に述べた三種族の連合は、大戦以降現在に至るまで蜜月の関係が続いており、リオコルノ級に依存した防衛体制を敷いている。

元々銀河系諸種族連合内では、相互に防衛戦力を供出する事が基本となっており、三種族はリオコルノ級による汎用性・即応性を己の役割と定義。専門兵器は他種族が運用し、代わりに彼らの苦手な分野をカバーし合えばよいと認識している。そのためリオコルノ級を配備している種族は基本的にこの3つだけである。

大戦期には、3種族は敵が次々と繰り出す新兵器に対して簡易改修を施したリオコルノ級で戦線を支え、他種族が特化した兵器を繰り出して逆転するという事例が多かった。

"禍の角"出現時にはなんと2か月で対抗手段である襲撃型ユニットを量産配備させている。


リオコルノ級は(比較的)安価に量産可能な兵器だが、高度な知的生命体であり1体1体に人権が付与されているため、使い捨てにできる戦力ではない。

またその汎用性の高さ故、インフラの維持管理を始めとしてあらゆる分野に用いられておりカバー範囲が広すぎるため、必要がない限り大戦力を一点集中する事はない。

なおリオコルノ級それ自体は維持コストを必要としないが、人権が付与されているため運用するなら給与を支払う必要がある。



注1:多数の可住惑星が破壊されていたため需要が大きかった。



代表的なリオコルノ級


■禍の角

リオコルノ級の由来となった個体"角禍"や、討伐艦隊を壊滅させかけた伝説の個体"シロミミ"など、リオコルノ級の顔ともいえる機種。長い歳月を経た自己改良により、個体差が激しい。

簡易変形機能を備え、その特徴的な角は鞭のようにしならせることも可能。


■四機神

史上最古のリオコルノ級。その生き残りの4体。

大戦最初期より改修を加えられながら生き延びた最後の4機で、超絶的な戦闘能力を持つ。銀河系諸種族連合の英雄である。



■"朝凪"

時間制御用試験個体。いまだ実験段階の最新鋭機で、超光速機関に不調が見られるが限定的な未来予知能力を持つ。





■ワールドセクション


21世紀初頭。我々の住まう星地球で、全ての始まりとなる事件は起こった。

1万2千年前、銀河中の種族を巻き込んで繰り広げられた大戦争"大戦"。

その戦いに勝利した陣営、銀河諸種族連合を打ち立てた英雄"角田博人"は実は、現代―――21世紀に生まれ、過去に飛ばされたタイムトラベラーであった。

大戦で敗れた機械生命体群(注2)が、未来に生まれるはずの角田博人を暗殺しようと待ち構えていたのである。

長きにわたり地球に潜伏していた機械生命体群がまだ少年と言える年齢だった角田博人を暗殺しようとしたその時、彼らの中から1体の突撃型指揮個体が離反。角田博人を守り通してタイムトラベルさせることに成功した。

彼女こそ、リオコルノ級の語源となった個体"禍の角の角禍"であった。

その姿は少年の脳裏に深く刻まれ、のちに(注3)銀河諸種族連合がリオコルノ級を建造する契機となった。


注2:のちに地球人からリオコルノ級と呼称される事となった個体群。

注3:と言っても1万2千年前の時代だが。


■大戦

銀河諸種族連合と機械生命体群。

リオコルノ級を語るのにこの2つの勢力は避けては通れない。

機械生命体群は、自種族の生存を脅かしかねない脅威としてすべての恒星間航行能力を備えた知的生命体を根絶することを決意。

その手始めとして、商業種族(注4)への攻撃を開始した。

辺境の開拓惑星での遭遇戦で多くの商業種族が死亡したが、その場に居合わせた角田博人(注5)が奇跡的に撃破。

彼は生き残りと共に、商業種族の上層部へその脅威を伝え、そして対機械生命群へ、商業種族初の軍隊を創設する事となった。

当初は改造した宇宙商船数隻しか存在しなかったこの軍も、学術種族(注6)の協力を得て、急速に強化が進んだ。

当時、両軍は超光速技術こそ持っていたものの、銀河系において戦争が得意な種族は存在しておらず(注7)その戦いは技術レベルから見ても稚拙なものだったが、商業種族軍が敵攻撃に、天体投下という手段をとってから激化。

双方が互いの惑星に、ワープさせた天体を投下し合うという地獄絵図が始まった。

銀河諸種族連合はこのころ、機械生命体群と戦う各種族が集結し、商業種族軍を中心として誕生(注8)

リオコルノ級の原型はこの時期生まれた。投下されようという天体の内部に物質透過で侵入。内部に核爆弾を設置してから脱出、破砕するために設計されたのである。

この防御法は功を奏し、天体攻撃による被害は激減した。

転機は特異点砲の発明だった。

投射したマイクロブラックホールの蒸発により大破壊力を得るこの武器によって、小天体の投下によらず敵惑星を壊滅させることが可能となったのである(注9)

この脅威に対して回答を導き出したのは学術種族であった。

至近距離―――少なくとも特異点砲の射程よりはかなり長い―――への超光速航法を阻止する超空間ジャマーを開発したのである。

その後は特異点砲による艦隊戦が主流となった。

役目を終えたかに見えたリオコルノ級原型兵器であったが、多数の個体が大型センサーと特異点砲を追加装備されて駆り出された(注10) 汎用性の高さが生かされた形である。

そしてリオコルノ級にとって第三の転機が訪れる。

初の突撃型、"禍の角"の出現―――すなわち亜光速で近接戦闘が可能なリオコルノ級の完成系の出現であった(注11)

ある星域で大敗を喫した銀河諸種族連合は、その持てるすべての力を注ぎ込み、わずか2か月で襲撃型ユニット―――リオコルノ級襲撃型を開発。

多数の機体を新造し、あるいは旧来の個体を襲撃型に改造。また、仮装戦艦も突撃型の反応速度に対応できるよう神経系を強化されるとともに、近接戦闘能力を増強された。

その後400年にわたる戦いを経て、銀河諸種族連合は勝利。機械生命群は散り散りになった。

この巨大な軍事同盟は戦後もうまく機能し、母星を失った種族へ新たな故郷を提供すべくテラフォーミング事業に乗り出すなどして雇用と経済を維持する事に成功。1万2千年を経た現在まで至る平和への道を作り出した。


注4:擬人化したカワウソのような姿をしている。経済観念は発達しているが戦闘力皆無。地球人とほぼ同じ生命構造を持つため食べ物や医療を共用可能。

注5:当時商業種族のある家族の元で下働きをしていた。

注6:2mほどの蟲とも龍ともつかない姿。蜜を好み議論と知的探求を愛する。

注7:同族同士で争い、核エネルギーを手にしていながら滅亡していないのは地球人だけと言われている。

注8:その経緯から地球人は加盟種族として、理事権を持つ。

注9:元来小天体迎撃用に開発された経緯を考えれば皮肉としか言いようがない。

注10:仮装戦艦と呼ばれる。

注11:その経緯は、「とある新兵器についてのレポート」に詳しい




■ニコイチ

とはいえ銀河諸種族連合が戦後たどった道のりは、平坦だったわけではない。

機械生命体群の残党は跋扈していたし、平和になった事で各種族間のゆがみも顕在化した

中でも銀河規模で巨大な犯罪組織がいくつも横行したことは特筆すべきであろう。

彼らは大戦で破壊された兵器を違法に回収。残骸を組み合わせる事で再建し、軍隊ですら迂闊には手を出せない重武装を成し遂げた。

これらの兵器群は、複数の機体から使えるパーツを組み立てて建造された事から"ニコイチ"と呼ばれ、まっとうな銀河諸種族連合市民からは忌み嫌われた。



■社会におけるリオコルノ級

商業種族軍(注12)におけるリオコルノ級は、機械生命体群をベースに設計された高度な人工生命体である。一方機械生命群も、高度な個体はそれら人工生命体とほぼ区別がつかない。

機械生命体群のかなりの数が戦後、銀河諸種族連合に降り、この両者の区別は現在では曖昧である。

商業種族軍で現在生産されているリオコルノ級は命名規則(注13)があるが、機械生命体群系の個体はめいめいに好き勝手に名乗っている。

彼らには人権があり、給与を受け取る事で雇用される関係が成り立っている。(注14)

なお、リオコルノ級の公用言語は機械生命体語(注15)商業種族語・学術種族語の他、日本語もあるため日本語は通じる(注16)



注12:法的には保険会社である。会長は角田博人。

注13:1号機には時間に関係する日本語の二字がつけられる。(発案者の権利である)

以後同じ意味の言葉がつくが、2号機と3号機は商業種族、学術種族の言葉+機体番号となる。この2番3番は毎回交互に入れ替わる。(両者は対等であるという顕れである)

4号機以降は銀河諸種族連合内でその時重視されている種族順に言葉が採用される。

通常呼称する場合は「自分の種族の対応する言葉+機体番号」で構わない。

例えば「流転(瞑目種族語)38」へ、もふもふ族が朝の挨拶をする時は、「流転(もふもふ族語)38さん、おはようございます」と声をかければよい。

注14:高給が必要なので商業種族や学術種族以外に雇用されている例は少ない。

注15:16進数を用いる。

注16:ただし角田博人由来の物であり、彼が過去に飛ばされた時は9歳だったためにかなり変形している。




■偉大なる意志グレート・オーダー

この謎めいた超知性体は、銀河中心に座するブラックホール内に住まうと伝えられている。

時間と空間を超越した存在であり、角田博人を過去世界に送り込んだ張本人である。

彼の目的は宇宙において知的種族が繁栄するその様を眺める事であり、そのために多様性を失わせようとする機械生命群への対抗手段として、角田博人を送り込んだとされる。

彼自身が語ったとされる数少ない言葉によれば、彼が知的種族に対して向ける視線は研究者のそれに近いらしく、可能な限り自らが観測対象に影響を与える事を忌避した結果、少年一人を送り込む事にしたらしい。

その正体は謎に包まれているが、最新の研究では、特異点であるブラックホールそれ自体が何らかの理由で時間を超越したコンピュータとして機能し出した存在ではないか?という可能性が浮上している。

彼は銀河諸種族連合にとっては敵ではないが味方でもない。謎めいた存在だ。

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