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第04話 ようこそ村へ!

 やる気も出たところでひとまず食べ物のありそうなところを目指すことにした。

 何をするにしてもまずは(メシ)からだ! とマモルも言っているしね。

 川はあるけど魚を捕る手段も焼く道具もないし、魔物も居そうな森の中を歩き回って木の実を探すなんてリスクが高すぎる。

 そもそも都会育ちの現代っ子な僕に、そんなサバイバル技術があるはずもない。


『その辺も覚えていかなくっちゃな!』

「うっ、うん」

 また突然森の中に一人投げ出されることがないとも限らないしね。

 

 幸い今は人里のある場所がすぐに分かった。

 夜の間は暗くて気付かなかったけど、川下に垣根のようなものが見えるのだ。何本か煙が上がっているのも見えるから村か何かに違いない。

 このまま川沿いに進めば行き着けるはずだ。


 川の水を飲んで喉を潤し、顔を洗って気合いを入れる。

 生水を飲んで腹を壊さないか心配だったけど、マモルが魔法で浄化してくれた。そのまま浄化(ピュリフィケーション)という魔法らしい。

 少し濁っていた水が見る間に透明になっていく様には驚かされた。

 たとえ川がなかったとしても魔力さえあれば水を作り出すことも出来るらしい。

 魔法って便利だね。


 干涸らびる心配もなくなったところで村へ向かって歩きだす。

 十メートルくらいありそうな川の向こう側にはまだ森が広がっていて、ここは緩衝地帯のように草地になっている。

 森が近いのでまだ木々の匂いが濃い。

 深呼吸をすると森林浴をしている気分になり、こんな状況だけど少しだけ気分が良くなる。


 景色を見ながらのんびりと一時間ほど掛けて村へと辿り着いた。

 柵の入口には誰も立っていなかったので、小声で「おじゃましまーす」と言いながら中に入っていく。



「誰もいないのかな?」

『煮炊きか何かの煙が出ていたから、何処かにいるとは思うが……何だか様子がおかしい。少し注意しておくんだ』

「そうだねぇ……」


 キョロキョロと見回したものの、あまり広くなさそうな村内には人が見当たらなかった。

 掘っ立て小屋とも呼べないような、扉も付いていない粗末な建物がいくつも点在している。

 まるで廃墟のようにも見えるけど生活感はあるし、彼が言うように人が住んでいるのは間違いなさそうだ。


 誰か出てこないかなとその場で待ってみるものの、時間を無駄にしただけだった。

 それに黙って立っているだけでも顔をしかめてしまう。何だかすごく臭いのだ。獣のような、すえたような独特の匂いが漂っている。

 あまりの臭さに我慢ならず、近くの小屋に近づいて中を窺ってみる。


「すいませー……ん?」

「ウガ?」


 大きな危機を乗り切ったことで油断しすぎていた。マモルも注意を促してくれていたのに。

 不用意に声を掛けてしまったことを、中にいたガッシリとした体型の人物|(?)が振り返った瞬間、強く後悔した。

 人間と豚を混ぜたような醜悪すぎる緑色がかった顔。白目と黒目が逆転している禍々しい眼。

 明らかに人間ではなかった。


「オークだぁっ!?」

「ウガァアァァァァッ!?」


 ここは人間の住む村ではなく、ファンタジーでは定番ともいえる人型の魔物、オークの集落だ!

 エルフやドワーフのようにオークが亜人として味方になるゲームをやったこともあるけど、この目の前のこいつは明らかにそういう類のものではないだろう。

 濁った瞳は僕を見た瞬間、敵意に染まったのだから。


『不味いな、今の叫び声で他のオークも気付いたようだ!』


 言われて目線を横に向けると、周りの建物から次々に緑色の怪物達が出てくるのが見えた。

 目の前のヤツものっそりと立ち上がり、脇に置いてあった棍棒のようなものを拾い上げる。

 害意もバッチリのようだ。本格的にヤバい!


「どっ、どうしよう!?」

『逃げるぞ! 全力でブーストする!』


 マモルの声とともに身体がポワンと光り、手足に力がみなぎってくる。

 補助魔法の全能力強化(リインフォース)を掛けてくれたのだ。

 おかげで硬直していた身体が動くようになった。


『右側が手薄だ、走れ!』

「うわっ、うわぁあぁぁぁっ!」


 目の端に緑色が映り込むことに戦々恐々としながらも、言われるままにダッシュで広場を突っ切る。

 そのとき横合いから出てきた緑色の何かに肩がぶつかった。


 ドガンッ!


「ひぃっ!? なっ、何っ!?」

『大したことじゃない、足を止めるな!』

「はひぃっ!」


 遅れて何かが激突するような音がしてビクンと身が竦む。

 しかし痛みは感じなかったので、叱咤(しった)するマモルの声に従って手足を動かし続けた。


『真っ直ぐ駆け抜けるんだ!』

「うひぃぃっ!」


 小屋の間を通り抜けても足を止めずに走り続ける。

 野太い奇声が耳に届く度にビクリと背筋が震える。


 狭い村の中を加速して走っていればすぐに端へと行き着いた。

 拓けた視界の先にオークはいないけど、代わりに村を囲む一メートル程の柵が目に飛び込んできた。


『ジャンプで飛び越えろ!』

「えぇえぇぇっ!?」


 ドスドスと重い足音が迫ってくる。僕を追っているのだ!

 迷っている暇はない、マモルが言うのだから出来るはずっ。

 意を決して足に力を込め、ハードル飛びの要領でジャンプする。


「ひぃいっ!?」


 地面を踏み切った瞬間、目の前にオークの顔が現れた。

 けれど想像以上のジャンプ力を発揮した僕の足の裏は、ちょうどヤツの顔を捕らえる。

 緑色の豚面を踏み台にしてさらに飛び上がる。


「おわぁあぁあぁあぁぁっ!?」


 踏みつけたオークをそのままに、あっさりと柵を飛び越えるどころか三メートルくらい身体が浮かんでいた。

 アクションゲームのキャラクターになったような、跳びっぷりに目を白黒する。

 後ろでまた何かが叩き付けられるような音がしたけれど、もう気にしていられない。


「補助魔法、すごすぎぃっ!」

『よし、そのまま川に飛び込めぇっ!』


 村を抜けると、目の前にはさっきまで脇を歩いていた川が迫っていた。

 普段なら躊躇してしまうところだけど、魔法の効果にテンションが上がっていた僕は言われるまま水の中へと身を投げるのだった。




「しかし、また川の中を流されることになるなんて思いもしなかったよ……」

『周りには何もいないようだし、もう大丈夫だ。いい走りっぷりだったぞ』

「うっ、うん。ありがとう……」


 十分ほども急流に流された後、再び現れた森の木々が途切れたところで川岸へと上がった。

 二度目でも慣れることはなかったけど、目を回す前に終わってよかった。

 保護魔法を掛けてもらっていたので服も身体も濡れていないのも幸いだった。


「うぅぅ……恐かったぁ」


 途中から無我夢中で忘れていた恐怖が今さらながらに蘇り、胸がドキドキと鼓動を刻む。

 近くで見たオークの迫力は凄まじかった。

 あんなのと戦うなんて想像したくもない。強くなるとは言ってみたものの、いきなり気力が萎えてしまった。


『まぁ、乗り切ったんだ。ひとまずオークのことは忘れておけ。いきなり強い魔物と戦う必要はないんだ、弱い奴から順々に戦っていけばいいさ』

「都合よく弱いのとなんて戦えるかなぁ?」

『大丈夫だ。勝てそうもないヤツからは、さっきみたいに逃げればいい』

「そっか、それもそうだよね」

『でもいつかリベンジを果たしてやろう!』

「ははは……いつか、ね」


 魔物の怖さに震えてしまったけど、補助魔法のすごさも実感した。

 あれだけの脚力があれば逃げられない敵も早々いないだろう。

 オークにまた遭ったって今回みたいにダッシュで逃走してやればいい。

 そう考えるとだいぶ気が楽になる。


「ふぅぅぅ……よしっ」


 息を吐いて顔を上げる。

 俯いていて気付かなかったけど、目の前には見渡すばかりの草原が広がっていた。

 朝の澄み渡った空気に、吹き渡る風が爽やかな草の匂いを運んでくる。

 日本の都会と違って排気ガスなんて存在すらしていない。

 美味しい空気を胸いっぱいに吸い込むとようやく落ち着き、生き返ったような気分になる。


 立ち上がって遠くまで視線を伸ばすと、何か大きなものがあるのが見える。


『あれは――今度こそ人間の町に違いないな!』

「そうだと……いいなぁ」


 さっき迷い込んでしまったオーク村とは規模の違う、巨大な城壁が川の下流に見えたのだ。

 柵程度は作れても、魔物があんな風に城壁を築けるとは思えない。

 とはいえ、一度失敗したのだからもう油断するまいと心に決めて歩き出す。



「あ、何かいる」


 歩き出してから数十分。

 晴れた空に浮かぶ太陽に目を細め、何処までも広がっていそうな平原を眺めながら歩いていると、遠くのほうに何か動くものを発見した。

 動物かなと目をこらして見ると――スライムだった。

 ゼリー状っぽい水色の塊がうごめいているのだ。

 通った跡の草地がところどころ溶けている。食事をしているのだろう。

 草食なのか雑食なのかは分からないけど、近づけば襲い掛かってくるかもしれない。どう見ても魔物だからね。


 オークはまだ人型をしていたので現実感が強かったけど、半透明の粘液が動いている姿は何とも言えないシュールさが漂っている。

 あぁ、ここってファンタジーなんだなぁと、あらためて認識した。

 見た目からして弱そうなので最初に戦うのにはちょうどよいのかもしれないけど……。

 いやぁ、無理でしょ。素手だしさ。


『無理ではないな。魔法でブーストすれば打撃だけでも十分に倒せる』

「えぇっ、ホントに?」

『あぁ。だが、もしもということもある。実戦は武器を手に入れるまで控えたほうがいいだろう』


 かなりイケイケな感じになっちゃったけど、慎重さは前のままみたいで安心した。

 幸い距離もあるし、こちらには気付いていないようなのでスルーする。


『それよりもまずは腹ごしらえだ!』

「そうだね、お腹すいたもんね」


 若干身を屈めて見つからないようにその場をやり過ごし、早足で城壁のほうに向かう。

 それからは変な生き物に出会うこともなく、一時間ほどで町へと到着した。


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