第02話 脳内人格
僕には友達が居ない。
友達は欲しいのだけれど、僕は……コミュ障なのだ。
コミュニケーション能力に難があり、人と上手く話す事が出来ない。
いわゆるボッチ、お一人様というヤツだった。
こうなってしまった一因には僕の名前がある。
伊東 明日虎。
なんか昔のヒーローの名前から取ったらしい。キラキラしている上にとても大層な名前。
そして実情にあまりにも合っていない。完全な名前負け。
僕は体格も運動神経も頭も普通で気も弱いほうなのだから。
虎という強そうな字が付いているのに弱すぎるとか、いつ虎になるんだ? 明日は永遠にこないのかと少し哲学的なイジメを受けたり。
トラなんてお前にはもったいない、コで十分だと言われてアスコ、明日子なんてあだ名を付けられたりもした。
無理に友達のような存在を作ったこともあったけれど、弄られたり使いっ走りにされたれたり、今はもう思い出したくないようなことを散々された。
それ以来、友達を作る事自体が恐くなった。
僕の事を嘲笑ったり、見下したり、利用したりしない友達が欲しい。
僕の側に立って考えてくれて、客観的な助言もしてくれる。僕が間違っている時には優しく諭してもくれる。不利な状況でも僕の味方になってくれる。
少し暑苦しいくらいに励まして前向きにしてくれる。
そんな友達が欲しい。
まぁ、そんな都合の良い人間なんて現実には存在しないんだけどね。
人とまともに話すことが出来なくて、一人で内に籠もって心を病んでしまいそうになっていた。
そんな時にネットで調べていて見つけたのが――『人工精霊』だった。
自分の頭の中に作り上げた架空の人物。妄想を一段進めた存在だ。
最初は妄想会話を自分で考えて自分で答えることしか出来なかったけど、訓練を重ねることで相手から答えが返ってくるようになり、最終的には自然に会話することが出来るようになった。
似たものにチベット密教のタルパというものもあるらしいけど、あちらは人工精霊よりも超常現象寄りという話だ。
違いは僕には良く分からなかった。
もしかしたら僕の『人工精霊』はタルパなのかもしれないけど、それを判別する手段はない。
名称にトラウマのある僕は『人工精霊』では少し仰々しいので『脳内人格』と呼称しているけどね。
いわゆる二重人格とは違って人格が入れ替わるような心配はない。
あくまでも僕という人格はそのままに、すぐ隣に友達がいるかのように会話をすることが出来る。
そう。言ってしまえば頭の中にお友達を作ってしまうという、人から見ると非常に痛々しい行為。
仕方ないじゃない……リアルな友達が出来ないんだもの。
だけど熟練すると脳内だけで声を出さずに会話出来るようになったので、会話を人に見られてもおかしな人と思われる心配はない。ちょっと無口な人に見えるだけ。
脳内人格である彼には普通でいて相応しい名前を付けてあげた。
僕を助け、守ってくれるからマモル。
とても前向きで優しくて、嫌な事など決して言わずにいつでも僕を助けてくれる男だ。
彼の一人称は差別化を図るために『俺』とした。そのほうが僕を守ってくれるお兄さんのようになってくれるような気がして。
僕が家族以外で唯一まともに話せる親友。
自分の中に居る自分と同一の存在なんだから家族みたいなものだろうと言われそうだけど、あくまでも友達とカウントする。
僕は現実には独りぼっちかもしれないけど、頭の中では独りぼっちではないのだ!
マモルを作り出してからは多少前向きになれてきたと思うけど、相変わらず明日虎という名前が邪魔をしてリアルな友達を作ることは出来なかった。
高校も卒業し、一人暮らしの大学生活が始まって心機一転。
今度こそリアル友達を作ってやろうと決意していたのに。
大学の帰り道、歩いていると唐突に激しい耳鳴りが起きた。
平衡感覚がおかしくなり、立っていられなくなる。持っていた鞄を投げ出して地面にうずくまった。
目の前の景色がグニャリと歪み、次いで電気を消したように視界が真っ暗になった。
そして気付いたらあの場所にいた。