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ぼっち、異世界へ行く。  作者: 藍 うらら
第2章 彼ら彼女らの戦いが始まる
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第二十九話 リアル

「まさか……」


 俺の脳裏から口腔を通過し排出された一言に、シルバは言葉を失う。

 そして、平生の微笑に驚愕のアレンジを加えた表情のまま、捲し立てるように続ける。


「ですが、そんなことをしてゴードンに一体何の利があるというのでしょう。ゴードンは我がギルドの同志です。如何に相手方から不審なる態度を取られたからと言って同志を疑うのはちょっと……」


 シルバの表情は、先ほどの通り平生に少し驚愕を振りかけたようなものである。だが、表情では隠し通せていても、人間目は素直である。シルバの目には驚きと不安、そして失望が映し出されていた。

 そうなのである。彼彼女らは根っからの善人なのである。シルバの失望が誰に向けられているものなのかは、俺には解らない。

かつて、彼は言った。俺が人間的に興味深い、と。普通の人間とは少し違っているとも語った。それがどういった類の興味かはいざ知れず、もしかしたら俺の残酷、醜さに失望し、その興味も失ったかもしれない。

 確かに、普通仲間を疑ったりはしないだろう。かつての俺もそうであった。だが、今の俺は違うのだ。人間の下劣さ、醜さ、残酷さを知っている。人は自分のためなら他人を蹴落とすことを厭わない。それが身内、仲間であったとしても。

 だが、これが現実である。彼彼女は現実を知らねばならない。

 人は誰しもGFのような行為をしでかす。それが人間だから。

 だから――、だから俺は続ける。


「じゃあ、他にあてがあるというのか? あるのなら教えてくれ」


「それは……」


 シルバは言葉に詰まる。無論、これを見越しての発言である。


「ないのだろう? では、疑ってしかるべきだろう。もし疑わないのであれば、先の会議でのゴードンのあの表情をどう説明するつもりだ」


 どうも答えようがないところまで追い込む。

 しかし、シルバは反論を続ける。


「ですが……ですが……」


 その反論は論を得ていない。ただの駄々にすぎない。

 はっとシルバの目を見る。その目を見るに、彼は本当のところ理解している。今のところ、ゴードンしか疑いようがないということが。

 だが、それは残酷なことであった。それは無論彼にとってでもあり、それ以上に彼女にとっても。


「閣下にどうお伝えすればいいんですか……」


 シルバは顔を落とし、言葉を振り絞るようにしてそう呟いた。



◇◆◇



 シルバはこの部屋から立ち去る際、俺にひとつの条件を託して行った。

 もし、本当にゴードンが圧力の犯人であるのだとすれば、少しでもいいから証拠を明らかにしてほしい、と。

 これはシルバなりの譲歩なのであろう。彼彼女はどこまでも正義を貫く。と同時に、優しい人間である。

 どこまでもまっすぐなスズカが、もし仲間に裏切り者がいることを知ればどうだろう。シルバ以上に現実の残酷な仕打ちにこの世を悲観し絶望してしまうことだろう。

 だが、やるしかないのだ。例えそれがどんな結果を生むとしても。



 こうして、俺は平生の如く、ひとり動き出したわけであるが、直に真実にたどり着く当てがあるはずもなく、ギルド本部内をいくばくかの間彷徨っていた。


「それにしても、広いものだな」


 そういえば、ここに連行されて来た時も同じような感想を抱いたものである。その時は、ガタいのでかい男どもに無理やり意味も分からないままに連れてこられたわけであるが。

 気づけば、最初に連行されて来た広大なエントランスへと足を運んでいた。そこで、ふと顔を上げてみる。

 すると、高くそびえたつ一筋のネジ、いや螺旋階段が目に入った。そういや、ここをひたすら登らされたっけな。高所恐怖症かつ運動不足の俺には堪えたぜ。

 確か、ここを幾らか登れば最初にシルバやスズカと出会った――正確には尋問されたというべきか――大きな部屋があったはずだ。

 どのご時世でも権力者は高い場所を好むものである。例えば、高層マンションでも最上階は破格の値段がついていることが多い。また、富裕層の別荘は街を見下ろせる適度な山の上にあり、そこから下界を見渡すのである。

 例えば、かつてビジネスで成功した経営者たちはこぞってヒルズの高層階を事務所あるいは居住地とした。所謂、「ヒルズ族」である。その結末や広く知られることであるが、それはさておき、先述の通り一度権力・財力を手にした人間は高いところを好むのである。

 とまあ、少々俺のバイアスがかかった社会豆知識によると、権力者は高みを目指すものである。これは権力、つまり社会構造を織りなす三角ピラミッド然り、居住地然りである。

 つまるところ、如何にも権力欲の強そうな(偏見)ゴードン財務長様は自室もその外見宜しく高みを目指した位置にあるのではなかろうかという寸法である。

 俺は重い足取りで、長々と続く螺旋階段の一段目へとゆっくりと足をのばした。ああ、全く忌々しい階段である。

 

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