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ぼっち、異世界へ行く。  作者: 藍 うらら
第2章 彼ら彼女らの戦いが始まる
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第二十八話 疑念


 スズカが退出し、部屋は平穏を取り戻しつつあった。だが、どこか寒々しくもあった。

 シルバは暫し沈黙の後、ふっと息を勢いよく吸い込み、立ち上がった。

 顏には平生の微笑を浮かべて。


「では、僕は代案を遂行するべく、仕事に戻ります。あなたは、そうですね……」


「仕事をするつもりはない」


 即答する俺に、シルバは少々呆れながらも、「わかりました」とだけ呟く。

 いつもの通りである。そう、全てがいつもの通り。ただ一つの重大な懸念事項を除いて。

 だが、その刹那事態は変化する。

 平穏漂う空間に突如ドタドタと慌ただしく駆ける音が近づき、やがてその音はこの空間そのものに侵入する。


「大変です。参謀長!」


 その音の主は、これまた捲し立てるように慌てた様相で参謀長、もといシルバの元へ駆け寄る。どうやら、シルバの部下のようだ。そういえば、こいつ参謀長だしこのギルドの幹部だったな。部下の一人や二人いても不自然でない。


「何事ですか?」


 シルバは平生の如く落ち着いて見せるが、目を少し見開き何事かといった視線を送る。


「代案の件ですが、どうやら破談に終わった模様です」


「なんですって!? その件は、向こう側に前々から了承していただいていたはずだったのでは?」


「はい、そうだったはずなのですが……。どうやら、どこかから圧力がかかったようでして……」


 シルバ・部下双方ともに険しい表情を浮かべる。そして、シルバは暫し思案顔を浮かべつつ、部下に分かったとの合図を軽くした。

 部下が立ち去った後、またまた一人事態の急変から取り残された人物がシルバに声を掛ける。無論、俺だ。


「おい、一体全体どうしたって言うんだ? もしや、代案さえもおじゃんになったのか?」


「その通りです。最後の切り札であった代案も破談に終わり、僕に残された手段は消え失せてしまいました」


 そういうと、シルバは手をアメリカ人かの如く、大きく広げる。

 そして、何も言葉を発しない俺に語り掛けるように話を続ける。


「代案というのは実は、他の中堅ギルドとの提携だったんですよ。それも僕の古くから付き合いのある人が指揮するギルドとの提携でしてね。いささか自信があったのですよ」


「つまり、先日の事件によって破談となった『GF』との連携の代わりとして、そのギルドと組むというのが代案だったわけか」


「ええ、そういうことです。先ほど部下と話していた通り、向こう側の承諾も既に得ていました。まさに寝耳に水ですよ」


 なるほど。だからこそ、シルバは先の会議で堂々と言い放ったわけだ。そうでなければ、言えるはずがない。

 そして、先ほど聞いた会話の中で際立って引っかかる一言を再度思い返すように呟く。


「圧力が掛かった、か……」


 そもそも何故圧力が掛かったのだろうか。そのギルドとの連携は、このギルドにとって良い話である。決して悪い話ではないはずだ。

 寧ろ、あんな反社会的な行為さえしでかしていた「GF」よりも余程マシであるし、何より参謀長のシルバと昔から付き合いのあった人物が指揮を執るギルドであれば連携もしやすく、尚更良いことこの上ない。

 この条件から鑑みれば、この圧力は外部の人間のものであると考えるのが当然だろう。


「このギルドと敵対関係にあるギルドって、あるか?」


 この問いを予想していたのかシルバは、


「いいえ、それはありません」と即答した。


 そして、付け加えるように、こう述べた。


「我々はほぼ全てのギルドと良好な関係を維持しています。これは大きなギルド、つまり5大ギルド間であれば尚更です。この世界が現在の平和な状態を維持できているのは、我々5大ギルドが緊密な関係を保持し続けているからです。ですから、今回破談となったギルドに圧力をかけることができるほどの力を持った他の巨大ギルドの中で、我々と敵対関係にあるギルドは存在し得ません」


「『GF』ギルドは、どうだ? 先のいざこざで両ギルドの関係悪化はピークにきているだろう。この『GF』であれば、5大ギルドには及ばないだろうが、近年力をつけているのであれば、圧力を掛けることは可能なのではないか?」


 この問いにも、シルバは首を振らなかった。


「確かに、『GF』なら出来ないこともありません。ただ、如何せんあの体制ですからね。先の事件は、瞬く間にこの地域一帯に広まったようですし」


「つまり、考えにくいというわけだ」


「ええ、まぁ」


 なるほどねぇ……と思いつつ、俺の疑念は次第に確信へと近づきつつあった。

 外部の線は薄い。であれば、残るのは内部しかない。つまるところ、このギルド『聖赤騎士軍』内部の人間だということだ。

 そして、先ほどの会議でのあの何とも面白く無い表情が脳裏に浮かび上がる。


「……ゴードン」


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