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ぼっち、異世界へ行く。  作者: 藍 うらら
第1章 彼と彼女たちの歯車は動き出す
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第二十三話 勝利、そしてーー


 音を立てずに敵の背後から突進する。

 そう、まるで空気のように。存在感的な意味で。

 剣を振って相手に渾身の一撃を叩き込む。


「うお――!」


 同時に、それに気付いたゴルバたちが一斉に驚愕の表情を浮かべてこちらを見やる。

 もう、ホントに驚いてた。なんだ、お前いたのかよ! お前誰だよ! みたいな表情でな。

 かくして、俺の大活躍によりこの戦いは終止符を打ち、少女は無事に助かったのだった。つまり、俺最強。



 ◆◇◆



 そして、その場にへこたれて倒れていたゴルバたちを縄で縛った後のことである。

 ゴルバたちを生け捕りにしたのは、人道的に罪を償わせるためである。実に、スズカらしい。

 ようやく安全が確保されたことで、皆の表情が安堵に包まれる。


「なんとか、助かったようで何よりだ」


 俺が沈黙を破り、呟く。

 すると、スズカがこともあろうに驚愕の表情を見せ、


「アンタ、いつの間にいたの!?」


 さも突如現れたかの如く叫んだ。

 いや、嘘……だろ?

 まさか、誰も俺の存在に気づいていなかっただと!?

 もう、今にも泣きそうです。いや、もう泣いてる。

 俺が悲しみにくれていると、シルバが急に吹き出した。


「ど、どうしたの」


 スズカが怪訝な表情でシルバを睨む。


「いえ、なんでもありません。ただ、副リーダーも素直ではないなと思ったまでです」


 そういうと、すぐにスズカの睨みに反応して、これは失礼致しました、と悪びれもなしに詫びた。

 スズカはそれを直ぐに見送ると、開き直ったかのように、


「ま、まあ、この戦いのMVPはアタシで決定ね! 例え、アンタがいなくても勝てたわ」


 いや、俺が倒したから、俺がMVPなはずなんだがな。

 俺が不平を口にした途端、スズカは捲したてるようにして、


「確かに、アンタがゴルバたちに斬りかかったわ。でもね、アンタのヘボ攻撃じゃ、全く当たっただけで倒せてなかったじゃない。その後、倒したのはアタシ! つまり、MVP!」


「だが、俺の攻撃が相手に隙をつくらせたから、勝てたんだろう?」


「そんなこと、知らないわ。空気過ぎて見えなかったわね!」


 なんてこった。

 これほど厄介な奴が正義主義者だとは世も末である。いっそのこと、俺がなった方がいいような気もする。俺ならば、俺ならば……そうだな、面倒くさいしやめておこう。



 安堵のおかげか、自然に皆に笑顔があふれる。

 なのに、なんだろうな、この心の中にある感情は。

 俺がふとそう考えた直後である。

 それまで俺に妄言を吐き、憎たらしいことをほざいていた自称正義主義者であるスズカに異変が起きた。

 ふらりと、足から力が抜けたようにして、崩れ落ちたのだ。

 そして、その場に倒れた。

 果たして、どうしたことだろう。一体全体何が起きたのだというのだろうか。

 ただ、倒れたスズカに驚愕の表情で見やるシルバの顔つきには、一瞬、別の悲しみが垣間見えた。



 その後やってきたギルドメンバーにより、ゴルバたちは連行され、束縛され苦しんでいた人々は自由の身となった。

 そう、正義が勝ったのである。

 俺は依然、正義が自己満足であるという概念を捨てたわけではない。

 だが、今回はこれで良かったのかもしれない、俺はふとそう思った。

 ――正義によって、皆が幸せになる。実に、いいことである。

 これに反するものがいようなら、そいつは間違っていると言われてもおかしくない。

 確かにそうだ。そのことには、俺も反論しない。

 だが、俺が言いたいのはそういうことではないのだ。

 正義が勝利し、皆が幸せになるのならそれでいい。

 だが、正義は決して必ず勝つわけではないのだ。

 そして、正義で皆が幸せに本当になるのだろうか。

 もし、その正義においての幸せが、誰か一部の犠牲によってなされているのなら――


 ――俺は、それを認めない。




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