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ぼっち、異世界へ行く。  作者: 藍 うらら
第1章 彼と彼女たちの歯車は動き出す
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第二十話 ブラック企業ならぬ、ブラックギルド

「ちょっと、失礼」


 お化けも怖がる世にも恐ろしい睨み合い対決に終止符を打ったのは、シルバの一言だった。

 平生のニヤケづらに真面目さを隠し味程度にふりかけたような表情で登場する。

 いやー、これは俺も出ていく流れなのかね? というように敏感な空気読みスキルを発動した俺もそそくさと隠れ身を解く。中学の時に「空気マスター」と囁かれた俺の名は伊達じゃない!


「なんだ、もうひとりお偉いさん登場じゃねえか。結構なこった」


 シルバの登場で男は、さらに睨みを効かせる。

 あと補充しておくと、俺も居るんだけどね。出てきたよ? ねえ? 見えてるのかな、気づいてるよね?

 俺の悲痛の叫びは当然の如く流され、シルバが口を開ける。


「おや、これはお会い出来て光栄です。『GF』ギルドのリーダー、ゴルバさん」


「ほう、俺らのこと知ってるんかい。俺らも有名になったもんだ」


「ええ、存じ上げております。近年できた新興ギルドでありながら過去に類を見ない驚異の速さで巨大化し、今や五大ギルドに次ぐ中規模ギルドのリーダー的立場にまで急成長を遂げたギルドですから」


 ふっ、と満足げになるゴルバなる男たち。

 しかし、シルバは「ですが、」と付け加える。


「有名なのはそれだけではありません。人権を無視したいびつな体制をしており、しばしばトラブルを起こす、この世界の平和を乱す厄介な存在――そんな感じでしょうか」


「ほう……何が言いたい?」


 先程までの表情からガラリと変わり、再び睨みを効かせるゴルバたちに思わず一歩後ずさりしてしまった俺を誰が責められよう。


「実は、ここに来るまでにずっと疑問に抱いていたことがあったんです。しかし、先程あなた方を一目見た途端に全て疑問は解決されました。第1フロアではモンスター数が少なかったのが、何故かこのフロアに上がってからはそれがない。つまり、第2フロア攻略は上手くいっていなかったということでしょうね」


 そこまで聞いたところで俺も合点がいった。

 第1フロアでモンスター数が極端に少なかったのは、先に攻略がきちんと出来ていたからだ。

 そして、疑問点であった第2フロアではモンスター出現数が通常通りだということ。

 それは、モンスターを狩りきれていなかったからだったのだ。


 そりゃそうだろうな、あんだけ疲れ果てるまで人々を戦わせていれば戦闘能力は落ちるし、集中力も持たないだろう。

 くたばる奴が出てきても意外でない。

 もはやそれは今流行りのブラック企業だな。休みなしで働かせられて、疲労の挙句過労死とか。

 どちらにもいえることは、人が人として正当に扱われてはいないということだ。

 休みなしで働け? 冗談じゃないね。俺にはそんなこと無理だ。いや、誰にでも不可能であろう。そんなのは身が持たないし、精神も持たない。

 ――あんまりだ。酷いとしか言いようがない。

 早く言う通りにしろ、というように睨む俺たちをゴルバ率いる『GF』の男どもは全く悪びれた様子もなく、逆に大口を開けて笑い始めた。


「全く面白いこと言う奴らだ。実に面白い。確かに、このフロアで苦戦していたのは事実だし、お前さんの言うことはその通りだろうよ。だからどうしたって言うんだ? 規律違反だからどうするって?」


「規律違反は許されることではないわ!」


 ピシャリと正したのはいわずもがなスズカだ。

 だが、正論が相手に通用はしないようで、ゴルバはニヤリと舌を出して笑みを浮かべると、


「こっちはビジネスなんだよ。そっちの都合をいちいち言われるのは困るなあ。それに、お宅との関係も良好にいきましょうや。お前さんの立場もあるんじゃねえの? それでもまだいうか」


 ええ、とスズカ。

 その言葉にゴルバは面白くないような顔になり、腰に手をかけ、それに続くようにして残りの連中も同じ体勢をとる。

 そして、「そんじゃあ仕方ねえ」と告げ、


「お前さんたちにはここで消えてもらおうか」


 腰にあった剣をこちらに差し向けてきた。



 一瞬にしてその場が緊張感で凍りついた。

 俺なんか恐怖の余り、腰が抜けそうになっちゃったぜ。

 さあ、どうするのさ。このまま戦うのかよ。相手は見るからに高レベルだ。確かに、こちらも高レベル2人がいるにせよ、人数が人数だ。

 相手は一目数えて5人。対するこちら側は、高レベル2人、そして俺。

 特に俺は除外して考えるとしても、こちらの装備は比較的軽い。対人戦用ではなく、モンスター戦で数をこなすためのものだ。

 そのため、こちらが圧倒的不利である。命が惜しいので是非とも俺は不参加願いたいものだ。まあ、一度死んでる身なんだがな。それでも、再度授かったこの尊い命を簡単に投げ出したくはないものである。これは、当然ことだろう? 小心者とかじゃないかんな。


 しかし、そんなことは許可されるはずもなく、「行くわよ」というスズカの一声で俺たちも剣を抜くことと相成った。

 かくして、普通に考えれば戦力では圧倒的不利であり常人から見れば命が惜しければ是非とも不参加願いたい、スズカ率いる人民救助戦闘が俺の参加意思なしに開始されたのである。


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