プロローグ2 ようこそ。異世界へ
「うぅ……」
意識がある。
それは、とても意外なことに思えた。
今、意識があり、声が出せているということはつまり、一命を取り留めた、ということになる。
ならば、目を開ければ、そこは病院の病室というところであろう。
もう少し、寝ていても申し分ないだろう。どうせ起きても病院だし。
俺がそう思って、そのまま目を閉じていると、雑音が鼓膜を揺るがせる。
おかしい。病室ならば、こんなに騒音がするわけがない。あえていうなれば、点滴の音や機械音が聞こえるぐらいであろう。
だが、明らかにこれは違う。自然環境音だ。
ならば、一体どういうことだ。もしや、俺は本当に死んでしまい、三途の川のそばで寝そべってでもいるのであろうか。
そんな一物の思考を巡らせながら、ゆっくりと重い瞼を広げる。
「な、なんなんだこれは……!?」
俺が声を荒らげたのも無理はない。
突然、目の前に『ようこそ。異世界へ』と書かれたコマンドが表示されたのだ。
コマンド――。
ゲームならばよく見るものであるが、それは画面上のものであり、画面も見ていない目の前に現れるなんてことは通常、ありえないことである。
ゲームの世界ならば……?
俺はその思考を元に、あたりをキョロキョロと見回す。
すると、視界の右上に新たなコマンドを発見した。
そこには、レベル・技種・名前が記されていた。
レベル:1
技種:剣士
ネーム:渡月 向日
何度もその表示を見返すが、実際にその場に表示されているようだ。
なんだ? 誰かが俺をからかおうとして仕掛けたドッキリなのか?
ならば、今すぐ出て来い。
土下座して、謝るから。許して!
だが、全くもって世界というのは俺に次から次へと試練を与えるようだ。
事態が変わることはなかった。
つまり、俺は本当に異世界に転生してしまったようなのだ。