<第五刻:存在意義>
俺の名は八雲梗・・・。
この名には愛着が湧いてるし名に<八雲>を冠していることに誇りだって持ってる。
でも、思いだせないんだ・・・「俺の名」を。
不知火は弾幕を喰らった衝撃で勢いよく吹き飛ばされた。
そして、二人を包んだ光は徐々に弱くなり再び、真夜中のマヨヒガの景色が見えてきた。
「うぅ・・・あぐっ・・・げほっ、ゲホッ・・・。」
不知火はその痛みから咳き込み、胸元には先ほど吐きだした血が着いていた・・・。
両腕は内出血により青く滲みはれ上がっていた。
腕だけではない、俺から受けた攻撃によ全身が痣だらけといったかんじでボロボロだ。
「まったく困ったやつだ。」
そういって俺は不知火に近づく。
当然、不知火は俺に対して怯えの様子を隠せないでいる。
でも、そんなことは関係ない、今俺が最優先すべきことは・・・。
「こいつの応急処置だろうが、くそったれ・・・。」
俺は不知火の怪我を治療するために不知火の腕に手をかけようとするも
「く、来るな!。私に近づくな!。」
そういって、不知火は俺の手を払い、座ったまま後ろに引きさがる。
「・・・。」
不知火の言葉が、俺の心の中で何度も反響を繰り返す。
・・・・・・くるな・・・・・・くるな・・・ちかづくな・・・
わたしに・・・くるな・・・・・・わたしにちかづくな・・・
・・・コナイデ・・・・・・ワタシニサワラナイデ・・・・
サワルンジャネエヨ・・・キショクワリイィ・・・・・・
・・・オマエナンカジャマナンダヨ・・・
・・・・・・ドッカイケヨ・・・ウットウシイ・・・
・・・キショクワリイ・・・
・・・・・・・・・・・・オマエ・・・ダレダッケ・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・わ・・・・
・・・・た・・・・・・・し・・・・・・・
に・・・・・・・・・・・わたし・・に・
・・・・ちかづかないで・・・・・・・
(くそったれ・・・。)
「来るなっていってるだろ!。」
不知火の制止を耳元で反射し歩みを止めず、不知火に近づく・・・。
「いや・・・こないで・・・。」
・・・たしかに俺は、こいつを痛めつけた。
「お願いだから・・・。」
「故意ではない」なんて弁明は通用しない。
「来ないで・・・・・・。」
不知火の目に今の俺はどう映ってるんだろう?。鬼?悪魔?死神?。それとも別のなにか?。
それはどれでも構わない。
こいつに付けられた恐怖、心の傷は一生消えないだろう・・・。
「・・・私にさわらないで・・・。」
不知火は顔を真っ赤に染め、頬には目から雫が伝い、地へ落ちる。
そうだよ、俺がやったんだよ、ああ、俺が悪者なんだよ、いくらでも攻めってもらってかまわない。
「お願いだから・・・おねがいだから・・・おねがい・・・だから・・・・・・。」
でもよ・・・。
「来ないで!!!。」
「怪我をして泣いてる子供を見てほおっておけるほど屑じゃねえんだよ・・・。」
不知火の目の高さに腰を下ろす。まだ不知火は俺の事を警戒している様子だ。
優しい目で不知火の瞳を覗き込む。
俺の目なんかより全然綺麗な瞳・・・美しく鮮やかな明るい赤色だ。
涙で潤んだ瞳を覗き込む、不知火は警戒心を解く。
不知火の手をとり応急処置をほどこす。
「『精神の幻想』でのダメージはな普通なら心にしか入らないだよ、それが創造力が豊かすぎる子供は精神が見せる風景を現実と同様にとらえちまう。現実と夢の区別がつかない訳じゃない、夢を信じてるんだよ。だから夢の中と同等の痛みを現実でも受けちまう・・・。」
そういいながら治療を施す。
不知火は抵抗もせずただおとなしく俺の治療をうけていた。
そして治療が終了する。
「よし。」
「・・・。」
不知火は下を向いていて俺に目を合わせようとはしてくれない。
「じゃあな・・・。」
「うん・・・。」
「っま、これに懲りたらもう不審火なんて物騒なことはしないことだな。」
これだけ伝えれば十分だ、あいつのことは忘れよう。
「・・・・・・。」
「・・・じゃあな。」
そういって立ちあがり不知火に背を向けて歩き出す。
「・・・・・ッ・・・ッ。」
これでいい、俺の目的は不審火異変の解決。その目的は果たした。
・・・帰ろう・・・。一件落着だ。
もうすぐ日が昇る、新しい今日が始まる・・・・・・。
「う゛ぁぁぁ゛ぁぁ゛ぁぁぁぁん゛!!!!!。」
「!!!!????。」
突然、不知火が座ったまま泣きだす。それも物凄い勢いで。
何故!?どういう事!?理解不可能!!?。
「おいおいおい!なんだよ!?いきなり号泣しやがって!?。」
不知火の方を向く。
不知火は着物を体を引きずりながらも、地に這いつくばりながら俺の方に近づく。
顔は涙で真っ赤、目元も赤い、鼻水も交ざりグチャグチャになっていた。
「お前・・・。」
その場に立ち尽くす。
「行かないで、私から離れないで・・・ひとりぼっちはもう・・・嫌なの・・・。」
不知火は悲しさに耐えきれず地に顔をつけ泣きじゃくる。
とてもない悲しさを不知火から感じる、いったいあいつの過去に何が・・・?。
(・・・。)
「お前の過去に何があったんだ、構わないなら俺に打ち明けてくれ。」
訊いてどうするつもりだ?こいつの力になれるのか?半人前の俺が?できるものか?。
自分のことで常に精一杯でいつも紫様や藍様に心配されている俺が?。
無理だろ・・・こいつの過去を訊いたところで俺じゃこいつの過去を変えるどころか干渉することすらできない。
それでも・・・こいつのための何かに俺がなれるなら、少なくともこいつの未来の片隅にいてやれるなら。
「聞かせてくれ。」
「・・・ッ・・・・ヒクッ・・・・・ヒック・・・。」
不知火は呼吸を整えながら泣きながらも声を絞り出した。
「私は・・・不知火になんか生まれたくなかった・・・。いっそこの世に生なんて授かりたくなかったんだ・・・物心がついたときから妖怪と呼ばれた「龍神の灯火」なんても呼ばれた。その瞬間は楽しかった。でもいずれ気付いたんだ・・・<だえれも私に近づいてなんてくれない>ってことに。時代が進んだって同じだった私が何をしたって人間達は来てくれなかった。人間はやれ蜃気楼だの、怪奇現象だといって私の存在を否定するんだ!。何時の時代だって!。私は!ひとりぼっちだったんだ!・・・ううっ。」
「・・・・・・。」
「できるなら、人の目になんかつかない妖怪になりたかった・・・。誰もいない所でただ無意味に暮らし・・・何の形ものこせないまま死に、朽ち果てればよかったんだ・・・。」
「・・・・・・。」
「人間とか、仲間だとか、友達なんて言葉。知りたくなかった。そうすれば自分がひとりぼっちだってことは分からないままだったし。友達がいる人間を恨めしくは思わなかったはずなんだ・・・。」
「・・・・・・。」
「でも知ってしまったのだから・・・グスッ。せめて・・・私にもひとりぐらい・・・友達が・・・・・・グスッ・・・友達が・・・欲しかった・・・ほしかったんだよ・・・。」
不知火は力を失い俺の方に倒れ込む。様子は酷く弱くなっていた。
声は酷く枯れた声で、それでも今まで我慢していたものを全て吐きだそうと必死に声を絞り出した。
「友達じゃなくても・・・傍に・・・傍にいてくれるだけで・・・・・・私の傍にいてくれるだけでもよかったんだ・・・もう・・・・・・ひとりはいやだよ・・・。」
「・・・・・・。」
ふと、不知火の頬に一粒の大きな雫がこぼれおちる・・・上から。
「!?。」
「・・・・・・。」
「なんで、なんでお前が泣いてるんだよ!?。」
その雫は俺の瞳から滴っていた。俺の頬を雫が伝い頬には雫が通った跡がくっきりと残っていた。
「・・・つらかったんだな・・・お前・・・本当に・・・。」
俺の声も震えている。俺なんかよりこいつのほうがずっと辛い過去を歩んできたんだな。
「お前なんかに比べたら俺は幸せ者だ。そんなつらい過去をもってるなら俺みたいに過去を持ってない奴のほうがずっと平和だ・・・。」
俺には式になる前の記憶が無い。
俺にどんな名があってどんな生い立ちがあるかなんてわからない。
かすかに時に思い出すおぼろげな記憶には俺に浴びせられる罵声しか出てこない。
そんなつらい過去を持ってるのだから記憶が無い俺は幸せ者だ。
そして仮に過去を持っていてもこいつの歩んできた道のほうが辛く険しい。
「ギュッ」
「きゃあ!?。」
不知火を両手で強く抱きしめる。下手糞に。
本当に下手だな、人を抱くなんてこと生まれてこの方やったことがない。
俺は子供ひとりまとにだいてやれない奴なんだよ。
「お前・・・?。」
不知火を放し肩を持ち、目線を合わせて瞳を覗き込んで話す。
「俺がお前の未来の傍にいてやる。」
「・・・え?。」
「この先、どんなことがあっても絶対にお前をひとりにさせない。お前の今まではすべて負にかたむいてる。だから、これからは俺がお前を何が何でも幸せにしてやる。どうだ?それとも・・・俺じゃ・・・役不足か・・・?。俺はお前に酷い事をした悪者だ。でも、お前に降りかかる不幸はあれが最後だ!。俺は・・・お前の・・・未来全てを・・・幸と福の文字で飾りたい。でも、やっぱり俺じゃあ・・・不服か?。」
「そんなことないよ・・・。」
不知火の目にはまた、涙が溢れそうだった。
「梗・・・に・・・傍にいて欲しい・・・こんなに・・・私と向き合ってくれたのは・・・・・・梗が初めてだ・・・私の傍に・・・いて・・・。」
不知火が俺の胸に飛び込む。
不器用ながらも、下手なりにそれを優しく抱きしめる。
「いいのか・・・こんな悪者で・・・?。」
「うん・・・だって・・・悪者は・・・<怪我をして泣いている子供を>助けたりしないだろ。」
「お前・・・。」
俺の懐から不知火が顔を出す。今まで見た事のない最高の笑顔だった。
「よし行くか!焔!。」
立ちあがり遠くを見据えそう言い放つ。
「ほむら・・・?なんだそれ?。」
不知火が俺の顔を下からのぞき込み訊く。
「ああ、不知火 焔。お前の名だ。これから永い付き合いになるんだ。名前ぐらいいるだろ?我ながら名づけのセンスがいいと思うんだがどうだ!?。」
笑顔で俺の腰ぐらいの高さにある不知火の顔をのぞきこむ。
「・・・いい・・・・・・。」
「ん?。」
「凄く・・・いい名前だ!。」
焔は笑いながら号泣しまた、俺に抱きつく。
「やっと・・・名前で呼んでもらえる・・・名前を名乗れるんだ・・・。」
「おいおい、いちいち泣くなよ・・・フッ。」
そう言いながら焔を見る表情が緩む。
「よし!。まずは寝泊まりできる所を探すか。」
「うん!。」
東の空に太陽が昇る。新しい今日と焔の不知火焔としての最初の今日が始まる!。
【第壱章:避け難き火種】 【完】
ふふ・・・思い出したの・・・私の名前・・・
・・・そして・・・存在価値を・・・
あら・・・いたの・・・ね・・・
あなたは・・・覚えてるかしら・・・
・・・自分の存在価値・・・いいえ・・・
・・・・・・存在理由ね・・・
はい!おつかれさまでしたっ!。
第壱章:避け難き火種、これにて終了です!。
いや~~~疲れた^^;。
初の4000文字突破回(普段は3000文字も書けないこの体たらく)
それにしても焔ちゃんの過去壮絶すぎるだろ・・・(汗)。
生まれてこの方ぼっちとか・・・梗「決めたのお前だろ・・・。」
なにはともあれ、第壱章を終わらせる事ができました~。
次回はこの章で初登場したキャラの紹介回にします。
ここで、みなさんにご意見をいただきたいのですが、今回オリ主の作品を書いてはいますが。
さすがに原作キャラがまったく登場しないのはどうかと思います。
そこで読者のみなさんに登場させてほしいキャラを募集したいと思います!!。
全てのご意見に沿えることはかなり難しいのですが。
できる範囲で頑張りますので、御意見をお願いします!(・∀・)。