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【東方】<八雲梗>【九尾伝】  作者: 甘味料
第壱章:避け難き火種
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<第二刻:接触不可能>

日は沈んだが月は昇らない・・・いや、正確には昇っているのだ・・・。

「新月」。もはや夜の世界を照らす明かりは存在しない・・・。

かつて地をはいつくばる事しかできなかった人間は私のことを・・・。

「龍神の灯火」と崇め・恐れ・そして・・・離れていった・・・。

「新月か・・・。」


俺は夜の人間の里を見回っていた。


・・・あの奇怪な出来事から約一週間。幻想郷は梅雨を迎えていた。


特に今年の雨は例年になく激しく、大通りもすっかり浸水してしまっていた。


早朝から夜中まで降り続く雨は人々の恐怖心を煽り「幻想郷が沈む。」なんて不安を漏らす人間いた。


「しっかしな・・・。」


五日ほどにわたり振り続けた雨も今日の昼間には止んでいた。


雲の隙間から久しぶりといった感じに太陽が顔を出していた。


人々は長らく差し込まなかった太陽の光に歓喜の声をあげていたが・・・。


「・・・暑い。」


長期間にわたって雨が降っていたため湿気が空気中にこもり非常に蒸し暑い、今年一番といった感じに暑い・・・。


「もうこんな夜中だぜ?。蒸し暑くて眠れねえっつうの。」


そんなわけでこんな夜中の里を俺が見回っているってことだ。


昼間は大勢の人だかりでごった返す大通りもこの時間は本当に静かだ。


聞こえてくるのは蛙達の鳴き声・・・だけではなかった。


「おい、なんの冗談だ?。」


大通りの先に見える一軒の民家から火の手が上がっていた。


炎はまだ小さく普通に考えれば大事に至らずに事を終えられる程度だった。


俺は民家へと急いだ。


民家の扉をぶち破り中へと入ると奥から人の声が聞こえた。


俺はこの火災が火種妖怪が起こしたものであると理解した。


辺りに火の素になったようなものは見当たらずこの民家が大通りに建っていたからだ。


俺は声のするほうへ向かうとそこには2人の子供とその母親とみられる女性がいた。


2人の子供と目があったが尻尾を術で隠していたため俺が妖獣であることは気付かれなかった。


2人の子供は泣きながら俺にすがりつくと。


「お母ちゃんがこの炎で足を火傷しちまって逃げられないんだ!。助けて!。」


「お願い!助けて!。」


母親の様子を確認するとかなり強く火傷を負っている様子で歩くどころか立つ事さえ困難な状況だった。


「わかったお前達の母親は俺が助ける、だからお前達は速くここから出るんだ。」


子供たちはうなずくと玄関のほうへと急いで走って行った。


「大丈夫ですか?。」


「火傷で足が・・・。」


女性はとても自力で立ち上がるのは不可能といった様子だった。俺が彼女に手をかけ持ち上げようとしたとき俺の脳裏を一言の言葉がよぎった。



「コレイジョウワタシノジャマヲスルナ・・・サモナイトチェントカイウオマエノトコノクロネコヲオソウゾ・・・。」


「・・・。」


「お母ちゃんを助けて!。」


「ケイコクダ・・・」


「お母ちゃんを・・・!。」


「コレイジョウワタシノジャマヲスルナ!!。」


「お願い!助けて!。」


「ああ、助けるさ!橙を!・・・この家族も!!。」


彼女を抱き上げると俺はせまりくる炎をかわしながら出口へと急いだ。


そして無事に家族3人を助け出す事が出来た。


「ありがとうございます。ありがとうございます。」 「ありがとう!。」


「いえ、当然のことをしたまでです。頭をあげて下さい。」


女性は「何かお礼を」といってきたが当然のことをしたまでなので断った。


その後、3人は近所の民家にしばらくの間住ませてもらうことになったらしい。


「一件落着てところだな。」











「警告はしたばずだ。」











「・・・・・・。」







今回の声は頭に直接響く声ではなく普通に耳に伝わる声だった。


声のする方へ振り向くとそこに立っていたのは想像よりはるかに幼い姿をした少女だった。


橙と同じくらい・・・いや、橙より小さいし幼い。こんなやつが・・・。


「火種妖怪・・・?。」


「そうだ。」


「思ってたより随分と幼いじゃないか。」


「警告はしたはずだ。」


「お話をする気はなしか。」


「橙を襲う・・・。」


「本気か?。」

「本気だ。」


「即答だな。でも、今から橙を襲うには俺を振りきらなきゃいけないんじゃないかっ!?。」


俺は拳を握るを火種妖怪の顔面を狙って振りぬいた。




しかし、攻撃は当たらず火種妖怪はさっきと同じ距離をとっていた。


「無駄だ私に攻撃は当たらない。これは<不知火>だからな!。」


「不知火!?。」


「そういうことだ私の本体は既にマヨヒガへ向かっている。流石のお前でも、もうおいつけない距離だ!。自分の過ちを悔いるんだな!お前のせいで橙が殺されるんだ!。お前のせいでな!。」


「・・・。」


そういうと、火種妖怪は姿を消した。






・・・・・・やられた・・・。俺があいつの邪魔をしたか否かはあいつが直接目で見ないとできないとおもっていた・・・。


それならマヨヒガへ通いなれている分相手がつくよりも先に橙のところに辿り着ける。


しかし、まさかあいつが<不知火>を使えたとは・・・。



不知火(しらぬい)


外の世界の九州というところに伝わるこんな伝説がある・・・。


旧暦の7月の風の弱い新月の夜に起こる怪奇現象。


海岸から離れた沖合に初め「親火」といわれるひとつの炎があらわれる。


その後、その親火は左右に分裂を繰り返し最終的には数百から数千の炎が並ぶ・・・。


かつては「龍神の灯火」ともいわれ海にすむ者達はその日の漁を禁じた。


しかし、時代が進むと不知火が蜃気楼の一種であるということが解明され、


干潟や急激な放射冷却、その海の渦潮などによる光の異常屈折。


明滅離合して漁火が目の錯覚も手伝い、怪火に見えるという。


現代では、干潟が埋め立てられたうえ、電灯の灯りで夜の闇が照らされるようになり、さらに海水が汚染されたことで、不知火を見ることは難しくなっている。







「もう外の世界で不知火を妖怪と捉えてるやつはいないだろうな・・・。」


おそらく、あの不知火は本体と意思の疎通が可能で本体は今頃マヨヒガへ向かっている。


「既にあいつに俺は追いつけないほど離されてしまった・・・。俺は・・・橙を守れないのか・・・・・・俺じゃあ・・・守れないのか・・・・・・・・・いや!。橙は絶対に俺が守る!こいつは確定事項だ!。」


待ってろよ、不知火妖怪!。絶対、橙に手出しはさせねえ!。









「もう少しか・・・。」


マヨヒガまでもう少し・・・。


悪いのはわたしじゃない・・・あいつだ。


誰にも邪魔はさせない!誰にも!・・・だれにも・・・。














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