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その式八雲

プロローグです。


※9月21日(土)リメイク

…………………あら……………………ここは………………………………

………………どこかしら………………………ふふ………………………

…………………あらあら………………なにかしら………………………

………ん………………………ひかり……………………………………………

………………う~~~ん………………………ああ………………………

………………………おもいだした………おもいだした………………

………太陽ね………………………あれって………………………………

……………どのくらい………………お昼寝してたかしら………………

………………………………え~と………………わたしは…………………

………だれかしら……………………名前…………なまえ………………

……………あ~らら………………思い出した………………………

………名前と………………中身と………………………存在意義……………

………………私の………名前は………………………………………………






「藍様、そちらはどうですか?」


「ん?ああ、さっぱりだ。何の手掛かりも掴めない」


「そうですか」


 ふたりが立っていたのは完全焼失した家屋の上だった。八雲藍とともにこの焼失した家屋の調査にしていた青年の背にも九本の尾が映えていた。藍より頭ひとつ背が高く整ったその顔立ちはさぞ世の女性を魅了するのだろう。



(きょう)、その様子だと、そっちも何も掴めなかったみたいだが」


「ええ、いつもどおり、火災原因は不明、放火や火遊び、火の不始末などの形跡も何一つありません」


 青年の名は「八雲梗(やくもきょう)」。名の示す通り彼も八雲に使える者だった。立場上は八雲の名を名乗っている以上「八雲紫」の式なのだろうが現在、梗は藍の式神として使役されている。といっても決して力が弱い訳ではない。紫の式として力不足だとしても実際その力は藍の手に余るものである。簡潔に説明すると藍より力は劣るが、藍が式と使役できるレベルを超えてるといった感じなのだろうか。




「それにしても、ここまで手掛かりが見当たらないとは………」


「ええ、(わたくし)や藍様が調査して何一つとしてわからない……」


「するとこれは……誰か………恐らく妖怪が故意的に起こした」


「異変……。ということですか」


「おそらくだがな……まあ、ここで考えても仕方がない、今日はもう帰るぞ」


「わかりました……」


 さて、今回、梗と藍が調査しているこの<異変>。簡単に言うとこれは原因不明の火災だ。火のもとになった物が見つからなければどこから火の手が上がったのかもわからない。炎が家を包みこみ焼け跡に残るのは黒焦げになった家屋だけ……。



(わからない……。何故、証拠が見当たらない………。そして、なぜこうも完璧な火災を無差別に起こす!? 理解不能……首謀者は無能か? いったいこんなことに何のメリットが………)


 そう、梗には首謀者の人間の里の家を無意味、無差別に燃やす思考回路が理解できなかった。異変としてレベルが低すぎる。そして、こんな異変を起こそうとする妖怪に対して全く心当たりが無かった。こんなことをくりかえすことに何の得が生じるというのだ? これは異変なのか? 誰かの自己満足じゃないのか? 梗にはわからなかった。


 その後、ふたり(主には梗)は異変という角度からこのことを調べたが進展はなかった。




 ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●




「梗~? な~に難しそうな顔してるの? らしいじゃない」


「紫様……。ええ、どうもあの異変にですね」


「進展がないのね」


「………はい」


「そんなに大事? 最近、仕事の合間を見ては調査してるみたいだけど」


「正直、三割ほど気まぐれが体をうごかしてるんですが、正直、里の生活を脅かす奴を放っておくわけにはいきません。人間と妖怪の共存……。それが紫様の夢であり、式である私たちの悲願でもありますから」


「ふ~ん、なるほどね……」



 どうも、梗が硬い……。普段ならその気さくな性格で主である紫や藍とも楽しい会話を繰り広げる。そんな梗の表情がいつになく硬い。まるであの時のよう………。



「梗……」


 決して大きくはないが、よく耳に届く声で紫が語りかける。紫と話を聞きながらもその異変の意識が強く、そちらに気が行きかけた梗は、はっと我に返り、紫の瞳に焦点を合わせた。


「異変の解決に精をだすのは結構だけど、その常識にとらわれた視点で考えてるうちは解決は無理じゃないかしら。視点を変えれば異変が自分から解決の種を出してくれることだってあると思うの、そうでなくとも最近のあなたは硬い、見ていてつまらないわ、少し気分転換でもしてきなさい」


「はあ……」


 視点の固定、これは非常によくない。人に限らず、妖怪やその他の知識を持った生物も物事を多角的にとらえる事が出来る。ある一点からは表面しか見えない図形も視点を変えれば内面を捉える事が出来るかもしれない………。



 異変は特に複雑特異な形をした立体だ。ひとつひとつの面の大きさが違うのは当然で、時には次々に形を変えてしまう。そうくるならこちらもテンポよく視点を変える必要がある。


「それでは行ってきます」


 そういって出ていく梗の背を見ながら紫は言った。


「三割とは随分な建前じゃない。あなたは常に何事にも十割の力を注ぐでしょうに………」


 梗がこの異変を見る角度を変えたのは放火魔の悪戯から誰かが起こした異変と考えをかえた一度きり、特異な形をした異変は光を当てる角度によっても見え方が変わる。自分の間違いに紫の助言によって気付かされた梗は自分の未熟さを自覚しながら、気晴らしにと阿求のもとを訪れた。







「こんにちわ」


「あら、八雲のところの……。今日は藍さんから何のお使い?」


「いえ、本日は俺の個人的目的で尋ねました。<幻想郷縁起(んそうきょうえんぎ)>のほうは置いてありますか?」


「ええと………それなら……あったあった。ちょうど最後のひとつ、はい、どうぞ」


「ありがとうございます」


「それにしても珍しいのね、梗くん本人がうちに用なんて」


「ええ、それが紫様から………」




 ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●




 それから、阿求と梗は他愛のない会話を楽しんだ。ふたりは時間を忘れ話した。それほど親しいわけではないが、永年、幻想郷の歴史を記録してきた者と、八雲の名を背負った式。このまったく相反するふたりの話はお互いの知的好奇心を揺さぶり、話を弾ませた。


「たしかに梗くん。少し疲れて顔がやつれてきてるわ。最近寝てないでしょ?」


「そんなわけないですよ、少し時間を切り詰めてるだけで一刻(2時間)ぐらいは寝てます」


「え~。少ない~」


「もともと寝なくてもいい種族が生活の流れを整えるための睡眠です、それほど時間なんていらないでしょう、減らしたのもたった半刻(1時間)ですし」


「だ~め。せっかくの整った顔が台無し、彼女が泣くわよ~?」


「だからそんなのはいません。興味もないですし」


「え~勿体ない………。その気になれば彼女なんて、いくらでも作れるくせに~。作りたくても作れない人から妬まれるわよ~」


「ふ~ん………」


「それにしても本当に整った顔立ち・・・私もこんな身に生まれてなかったらな~」


 そういって阿求は手で梗の顎をもつと梗の顔をなめまわすように見た。


「あの~。さっき買ってきたお酒のせいだったらすいません。俺もう帰るんで、お邪魔しました~」


 そういって、梗は阿求の屋敷を出た。

 後日、改めて尋ねたが、案の定本人は覚えていなかった。




 ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●




 ところ変わって、八雲家、梗は暗い部屋にろうそくを灯して幻想郷縁起を読んでいた。幻想郷の設立から現在までをまとめた幻想郷縁起は今に至る幻想郷の歴史を余すことなく記録していた。


 読み進めると、梗は奇妙な物を見つける。


「おい、なんだこの絵は・・・」


 外の世界で忘れられた妖怪を残す役割も幻想郷縁起は兼ねている。その挿絵として描かれていたその妖怪の絵は………。




「動いてる………!?」


 動いていた。平面であるページから抜け出せる様子はなかったが、そこからどうにかして抜け出そうとむずがゆそうに体を動かしていた。


「なんだこれは………」


 その時、梗は阿求の台詞を思い出した………。「ええと………それなら……あったあった。ちょうど最後のひとつ、はい、どうぞ」。


 阿求は常に幻想郷の新たな歴史を記録しているため、過去に記した物を複製するような暇はない。その為、幻想郷縁起をはじめとする書物を観覧するには読者が稗田家に赴く必要があった。




 ところが最近、その稗田家が書物を貸し出すようになった。この事とそれが直接関係しているのか分からないがとりあえず阿求を訪ねる事にした。


 それから梗が阿求を訪ねたのは約3日後、数千ページに及ぶ、書物を数日で読み切るあたり、梗にはこのくらいの分厚い本が気晴らしには丁度いい事を痛感させられる。




 ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ●




「ああ、そのことなら多分、あの子かな……?」


「あの子…………?」


 梗が阿求の視線を追うとそこには書物の複製を高速で行う少女がいた。現代風に言うと身長は140後半~150前半ほど…………。この前訪ねた時にはいなかった。


「あの子のおかげで多くの書物が複製されて貸出が可能になったの」


「なるほど…………」


「でも、少し我が強くてね、仕事をするかしないかは彼女次第、それを差し引いても物凄い速さで書いてくれるからいいんだけど、時々、書物にそういう悪戯をするのよ、ごめんなさいね」


「あ、いえ、俺になにか問題があったわけではないんで」


 そういって梗はその女の子を見た。両手にもっていたのはどうやら万年筆のようなもので両手を器用に使って物凄い速さで書物を複製していた。あんな芸当は梗にもできない。


「ピタァ………………」


 ふと、筆を止めた彼女は梗を冷たい目で睨んだ。何か、かにさわったのかと思い梗はその場をたつことにした。


「では俺はこれで、またいつか、お世話になります」


「は~い」




















「やくも…………きょう………………」






















   少女は誰にも聞こえない小さな声で呟いた。




pixiv、ハーメルンに続きこちらにも投稿しまじめました。

今日から5日続けて投稿します(他の二つに既に上がっている・・・。)。

中三の趣味の一環ですが、文才を欲しがっているので、意見をお願いします。

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