第九話 中止
「あー、マジダリィ…」
武音が自分の廊下に向かって歩いている。
やはりみんな胸が膨らんでいた。
そして混乱からか、話す声が後を絶たない程に、学校はおかしくなっていた。
「こんなんで本当におっぱいチャンピオン決定戦参加出来るのか?」
武音がそう言いながら、教室に入ろうとした瞬間
「今から放送を始めます。落ち着いて聞いてください。」
校長の声が聞こえた。相変わらずウザい声だ。
「今回のおっぱいチャンピオン決定戦は、皆さん知っている通りトラブルが発生いたしました。とても開始できるような状況ではございません。よって、今日のおっぱいチャンピオン決定戦は中止とさせていただき、後日、落ち着いたら行いたいと思います。」
「……………はぁ?」
周りからも「今日中止かよー」「なんで中止なんだよ」「おっぱいどぅえけぇええ!!ヒャッハー!」という声が聞こえてくる。
「一体今、日本で何が起こっているんだ…」
武音がそう言いながら机に座る。
「やっぱ武音も大きくなってんのかー。やばいな。みんな混乱してるぞ。」
武音の前の席のやつはなぜだか楽しそうだった。
「確かになー…中止はムカつくけどな。」
「それは言えてるけど。」
「そういえば今日乙杯来てないじゃん?どうしたんだあいつ?」
「さぁ?相当混乱してるんじゃない?」
「それもそうだな。突然だし仕方ないよな。」
「そうそう。あいつのことだから今頃鼻血ぶっぱなして倒れてんじゃないの?」
と武音の前の席の奴が言った瞬間
「はい、席につけー」
だらしない教師の声が聞こえてきた。いつも通りだらしない顔と体格で、変わっているのは胸の大きさだけだった。
「さっき放送でもあったとーり、おっぱいチャンピオン決定戦、今日は中止だからなー だから今日は…解散!!」
「…え?」
「いや、まさかこんなことが起こるとは誰も想像しなくて、授業なんかとても出来る状況じゃないわけよ。ってか話したいからさ、正直お前らには早く帰ってほしいわけよ。帰れー」
むちゃくちゃだな…と思いつつも武音が荷物を手に取ろうとしたとき、
「ハァハァ… すいませン!遅れましタ!」
「おいおいやっとかよクソメガネ。髪ボッサだけど大丈夫?あ、その前に顔が大丈夫じゃなかったか」
「おい武音。お前こそなんだよその胸。ボールでも突っ込んでんじゃないノ」
「え…」
みんな気づかなかったが、乙杯の胸は膨らんでいなかった。
ウィルスを作った張本人が乙杯で、効かなくしてあるので当然の事なのだが、みんなはその事を知らない。
「おいおいまじかよ…お前には効かなかったのか。珍しいな」
「まあネー。それよりなんでみんな帰ろうとしてるノ」
「今日は学校解散ってなったんだよ。だからだ。」
「解散?やっぱおっぱいチャンピオン決定戦は中止カ。」
「それどころじゃないらしいからな。それよりなんでお前遅れたんだ。」
「まあ色々あっテ…家庭の事情ってやつヨ」
「ふーん、まあいい、帰るか」
「うん」
「大変です!乙杯君!!」
そこに学校一の熱血教師が現れた。
「なになになんですかなんなんですカー!」
「お前の父さんが…マンションの前で倒れてたんだよ!!」
「え………………えッ、そうなんすカ!?それハ、まああの大変っすネ、やばいっすネー」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!早く病院言って父さんの」
「いヤ、大丈夫」
「何がだ!」
「……本当に大丈夫だかラ」