第八話 自分
乙杯隆の母は、アメリカ人だった。
金髪の髪と、大きな胸が特徴のとても綺麗な女性で、乙杯の憧れの女性だ。
しかし、乙杯が小学5年生の頃、母は病気で亡くなった。
乙杯は残った父や母の姉に励ませながら、自分の心の傷を癒しているつもりだった。
だが、母が死んだ時間に伴って、乙杯の母に対する気持ちも大きくなる。
どうすれば気持ちを抑えられるのか。いったいどうすれば…
そこで辿りついた答えは、一つしかなかった。それは、
『母をよみがえられる』
しかしそれは現実では無理だ。そこまで甘くはできていない。
乙杯は考えた。どうすれば母を「再現」することが出来るのか、どうすれば自分の「欲望」を抑えられることが出来るのか――
そして、父と共に結論を出した。
「母の大きな胸をよみがえらせる」だ。
乙杯の母の大きなポイントは、大きな胸だった。
よく参観会のときに。クラスメイトに「乙杯君のお母さんのおっぱいって大きいね」と言われていた乙杯は、もはやそれが自分の自慢となっていた。
だからそれをよみがえらせる。そうすれば母に対する自分の思いも、きっと抑えられるはずだ。
再現でいい。なぜなら母はもう死んでいるから。
だがいったいどうすれば…そう思い父に相談した。
父も母がなくなってから少し性格が変わった。
前はふざけていたのに、冷静で真面目な人になった。
だからこそ、乙杯の気持ちがわかり、日本全国の人の胸を大きくする「おっぱいウィルス」を自分の頭を最大限使って開発した。知り合いにも頼んだ。
総勢50人だろうか。それほどの手を集めてついに、「おっぱいウィルス」が完成した。
作成に協力したらウィルスには感染しない、という条件付きで。
これらが、乙杯達が数年をかけて積み重ねてきた計画だった。
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「やっぱり僕のやったことは正しかっタ…そうだよネ。お母さン。」
「・・・なあ隆」
「なんだイ?父さん」
「やっぱりこのウィルスはもうやめよう!」
「ハ……… なんデ!一緒に考えた案じゃないカ!母さんの」
「もうやめよう!こんなこと!よく考えたら犯罪じゃないか!母さんもこんなこと望んじゃない!」
「……今更何言ってんのあんた?前から思ってたけど頼りないカスだね。」
乙杯の口調が変わった。
「もういい。お前なんか父さんじゃない。」
「本当にやめよう隆…今ならまだ間に合う!父さんはウィルスの消し方を知っている!消せばもう!元通りなんだ!もちろん何もかも全てとはいわない、でもまだ間に合う!だから」
「うるせぇよ」
パァン!という音と共に乙杯の父が乙杯に殴られた。
「あ…あ、ああ…」
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「捕まりたくない捕まりたくない捕まりたくないいいいいい!!」
乙杯の父が、自分のマンションから、逃げるように飛び降りようとする。
「嫌だ嫌だいやああいあやいいいいい!!」
そしてベランダから飛び降りた。
乙杯の住んでいるマンションは高級なため天井が高く、乙杯の住んでいる2階も相当高いところにあった。
そして。
「あ」
乙杯の父が。
「あああああああああああああああああああああああああん!!」
無残にも地面へ落ちていった。
「ざまあみろだぜあのクソジジイ 母さんは俺の物だ。俺だけの物だ。」
「…ア、もうそろそろ学校行かないト」
乙杯は死んだ父のことなどどうでもよかったらしい。