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愛してるの形

春の陽光が教室の窓をすり抜け、俺の心に静かな波紋を広げる。森川葵、17歳、高校2年。3年前、中学の卒業式。校庭の桜の木の下で、朝倉陽菜の笑顔を見た。彼女はただの同級生だった。放課後の教室で「これ、面白いよ」と漫画を貸してくれた時の柔らかい声、まっすぐな目。友達とも憧れとも違う、言葉にできない何かだった。陽菜が転校して消えた後、俺はその「何か」を「好き」と呼んでいいのかわからなかった。好きって何だ? 愛してるって、みんな言うけど、その定義は何だ? 考えるたび、心がモヤに閉ざされる。夜、ベッドで天井を見つめながら、陽菜の笑顔が頭に浮かぶ。あの笑顔に何を求めてる? 恋? ただの思い出? わからない。胸がざわつく。愛し方がわからない。「葵、ぼーっとすんなよ。ホームルームだぞ。」

親友の田中亮が肩を叩く。明るい声、気負わない笑顔。亮はいつもこんな感じで、俺の重い気分を軽くしてくれる。でも、陽菜のことを話すと、いつも「またその話?」と笑う。亮の笑顔を見ると、友達ってこういう安心感かと思う。でも、陽菜への気持ちは違う。もっと深い、もっと複雑な何かだ。亮には言えない。言ったら、笑いものか? いや、亮はそんな奴じゃない。でも、言えない。心が縮こまる。ホームルームで、担任の小林先生が疲れた声で言う。「転校生を紹介する。」

「朝倉陽菜、よろしくお願いします。」

心臓が止まる。陽菜だ。桜色の髪、柔らかな笑顔、3年前のままだ。陽菜が俺を見て、軽く微笑む。胸が締め付けられる。あの笑顔、間違いない。頭の中で、3年前の陽菜が重なる。あの時、話しかけられなかった。逃げた。後悔が今も尾を引く。

「森川、朝倉の隣な。」小林先生の声で我に返る。陽菜が席に着き、囁く。「ね、葵君。春って、なんかドキドキするよね。」

その声が、耳に甘く響く。陽菜の笑顔が、俺の心を掻き乱す。「…ああ。」かろうじて答える。陽菜、お前は俺をどう思ってる? ただのクラスメイト? それとも…いや、馬鹿か。俺は愛を知らない。愛してるって、何だよ。心がぐちゃぐちゃだ。放課後、図書室で陽菜と二人になる。本棚で同じ漫画を手に取った。

「これ、好きなんだ。私もよく読むよ。」陽菜が笑う。細い指が漫画の背をなぞる。陽菜の指の動き、髪が揺れる瞬間、全部がスローモーションのようだ。心臓がドキドキする。なんでこんなに気になる?

「…覚えてるのか?」声が震える。あの時、陽菜が貸してくれた漫画だ。

陽菜が首を振る。「え? 初めて会ったよね? でも、なんか懐かしい感じ。」

胸がズキッと痛む。覚えてない? でも、笑顔も声も、全部あの時のままだ。俺は何を期待してる? 陽菜の笑顔にドキッとするこの感覚、友達でいいのか? 恋? 愛? わからない。頭の中で、陽菜の笑顔がループする。夜、眠れない。ベッドでスマホを握りしめ、陽菜のSNSを覗く。笑顔の写真。胸が締め付けられる。愛したい。でも、愛し方がわからない。昼休み、亮と陽菜の幼馴染、佐藤美月が絡んでくる。「葵君、陽菜とめっちゃ話してるじゃん! 怪しい~!」美月の声は明るいけど、どこか鋭い。恋愛トークが得意な女子だ。「陽菜、葵君のこと好きでしょ?」

陽菜が顔を赤らめる。「もう、美月! からかうなよ!」陽菜の頬がピンクに染まる。髪を耳にかける仕草。心がドキッとする。なんでこんな小さなことで心が揺れる?

亮がニヤつく。「葵、陽菜のこと好きだろ? 告白しろよ、ヘタレ!」

「バカ、違う!」顔が熱くなる。好き? いや、でも…何だ、このモヤモヤ。陽菜は女だ。男なら女を好きになるのが普通? でも、普通って何だ? 陽菜の笑顔を見るたび、心がざわつく。友達なら、こんな気持ちにならないだろ? 恋なら、どうやって進むんだ? 愛してるって、どういう意味だ?

陽菜が俺を見る。「葵君、なんか悩んでる?」その目が、まっすぐで優しい。胸が締め付けられる。

「…別に。」目を逸らす。陽菜の声が、頭に響く。愛してるって、何だよ。コンビニでバイトの高橋さんが言う。「森川、恋愛なんて面倒だぞ。自分の時間で十分。」高橋さんは20代後半、恋愛に興味がないらしい。でも、いつもコンビニのカウンターで漫画を読んでる。その目には、静かな満足感がある。恋愛しないのが、愛の形なのか? 俺にはわからない。でも、高橋さんの自由な感じ、嫌いじゃない。

小林先生は職員室でぽつりと漏らす。「離婚して気づいた。自分を嫌いだと、人を愛せない。」疲れた声だけど、どこか温かい。小林先生の机には、家族の写真がない。なのに、俺たちをちゃんと見てくれる。先生の愛って、何だ?

クラスメイトの橋本彩花は、片思いの相手に手紙を書く。「報われなくても、好きって気持ちは自分を強くするよね?」彩花の笑顔は、切ないけどまっすぐだ。片思いって、愛なのか? 報われないのに、なぜ笑える?

亮は言う。「愛ってさ、恋愛だけじゃねえよ。友達を大事にするのだって愛だろ?」亮の笑顔は、いつも俺を引っ張る。

美月は笑う。「愛は自由だよ! ドキッとするなら、それが愛じゃん! 難しく考えすぎ!」美月の言葉は軽いけど、心に刺さる。 文化祭当日、美月が陽菜をからかう。「陽菜、葵君に告白しちゃえ! ロマンチックじゃん!」

陽菜が顔を赤らめる。「もう、美月! やめてよ!」陽菜の笑顔が、俺の心を揺さぶる。

放課後、陽菜が俺を校庭の桜の木の下に呼ぶ。「葵君、話したいことがある。」

心臓がバクバクする。3年前、何も言えなかったあの春が蘇る。胸が締め付けられる。あの時、逃げた。陽菜を失った。今、陽菜が目の前にいる。陽菜の笑顔が、俺の世界を揺らす。愛してるって、何だ? わからない。でも、この気持ちは本物だ。

「陽菜、俺…お前のことが、特別だ。」言葉がこぼれる。喉が詰まる。陽菜の目を見つめる。好き? 愛? 定義はわからない。でも、この瞬間、陽菜に伝えたい。

陽菜の目が潤む。「葵君、私も…君といると、心が落ち着く。愛してるって、こういうことかな。」

陽菜の言葉が、俺のモヤモヤを溶かす。愛してるの定義は、わからなくていい。陽菜がそばにいる。それが、俺の答えだ。陽菜の手が、俺の手をそっと握る。桜の花びらが、春の風に舞う。 [完]



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