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The world of rights 【わるらい】  作者: SAKURA
第二章 超越の再演編
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3-14 狂化の獅子

カリナがカナリアに敗れ、あとはラウルだけとなった。


壁には目を覚まさずに気絶している彼女がいる。


「お前はどうする?まだアタシとやるか?」


勝機なんてない。これはあの子に対しての義理か偽善か、勝てないとわかっていても俺は戦わなくてはいけない…。


「お前…なぜ笑ってられるんだ?」


彼女に怪訝そうにそう問いた。自分でも自らの手で口元を触るまで意識していなかった。


俺は笑っていた。こんな状況なのに。決して狂ったとかじゃない。理由なんてわからない。


ただ…この感情は恐怖じゃない。これは愉悦だ。


心臓が高まる。息が苦しくなる。それでも怖くない。むしろ謎の幸福感すら感じる。


こんなの俺じゃない。こんなの知らない。こんなことで幸せなんて感じない。こんな感情…。


頭ではそう思っていても身体は正直だった。


ラウルーレンスは静かに一歩一歩、歩き出して段々と加速していく。向かう先はカナリア、まるで自我を失ったかのように頭は空っぽだった。


「来るか…。まぁ、それでもいい。」


それでも1つの言葉だけが頭に段々とよぎってきた。


"我が権利に超越を…"


この人の声は遠い昔に聞いたことがある。あれはまさにカラスト街の事件の真っ最中。

夢の中、無数の星々が輝くあの真っ暗な場所で聞いたあの声だ。


しかし声色が少し違う。頭に流れる声はより冷徹で残酷で温かみを感じない冷たい声だ。


理解はしても身体は止まらない。頭の中に流れる声が強くなるほど意識が、視界が、自分の意志と違うように働く。


もう身体は限界だ。これ以上あの力を使ってしまえば体が壊れてしまう。


それでも…自分でつけたリミッターを解除されてしまった。


"身体超越(トランサ・ダ・コール)"


身体がこれまでに経験したことのないほどの悲鳴をあげる。こちらの状態などお構いなしかのようにソレは明確な意志を持って再びあの領域へと踏み込んだ。


観戦者が瞬きをした瞬間、テレポートでもしたかのようにカナリアの真後ろを取り、横薙ぎの一閃を繰り出した。


しかしカナリアはそれに反応している。木剣でガードしながらもう片方の手でラウルの首を掴みに掛かる。


「お前…大丈夫か?」


首を鷲掴みにしながら彼の顔見てそう問いかける。彼の様子は異常だ。これまでの冷静な姿は何処にもなく、狂ったように襲いかかる。


「ア゛ア゛ァ゛!!!」


雄叫びをあげながら力を振り絞り、持っていた剣で彼女を振り払う。


「ゲホッ、」


首が解放され、咳をした。それでも彼の目は変わらない。そこからは互いにコンマ数秒を争う激闘へと入った。


違いが繰り出す一撃一撃はとてつもない速さを持ちながらも振るたびに風を帯び、ぶつかると同時に空気が揺れる。


要所要所でカナリアは搦手を使ってくるが、ラウルも同じように空いている手や足でそれらを打ち落とした。


【そろそろ止めるか…。】


カナリアは初めから顔色一つ変えていなかった。それは余裕があるからである。自分は強い。


そう、それは彼にも例外ではなかった。


「アタシの方が…強い。」


彼女はそう呟くと木剣で彼の剣を狙い、木の剣が鋼の剣を砕いた。


「、!」


剣が砕けた光景に動揺した彼の一瞬の隙を彼女は見逃さず、その頭を鷲掴みにして後頭部から地面に叩きつけた。


床にヒビが入るほどのそれは意識を奪うには十分な一撃だった。


「死んだんじゃ…」


観戦者の中からそういう不安そうな声が聞こえたがすぐに彼女は説明した。


「大丈夫だ!手加減はしたし、魔法陣も効いている!ただ気絶させただけだ!」


そう言うと彼女はラウルの首の襟元を持って彼を引きずり、壁際で横たわっていたカリナを担いで部屋の隅に運んで壁に寄りかからせた。


「よし!次は組んだペア同士でやってもらうぞー!初めは木製の武具から使うように!」


彼女に指示には誰1人返事をしなかった、これまで目の前で起きていた光景を見て、それだけでも処理が追いついていないのに次は自分たちだと言われたのだから。


しかしそれは間違いだった。少なくとも彼女の目の前では…。


「返事をしないってことは、お前たち全員、アタシと手合わせしたいってことか…?」


意地悪そうにそう言う彼女だったがその言葉を聞いたその場にいた生徒は全員、自分の実力に自信があった者であってすぐに「始めます!!」と返事をした。


「よーし。じゃあまずはそこのペアから!好きな武器を取れ!」


そうして残りの模擬戦は始まった。全員の頭の中には先程の激闘が残っていたが、いざ自らの番だとなるとそれぞれ集中して自らの力を彼女に見せていった。


そして壁にもたれかかって気絶している2人は全ての試合が終わって講義が終わるまで、ずっと揃って気絶していた。


講義が終わり、生徒が続々と武道館から出ていく中、2人は未だ目を覚まさなかった。


「……。」


カナリアは2人のまだ起きない様子を見て苛立ちを覚え、冷水の入ったバケツを用意し始めた。


それを彼女は両手で構え、思い切りその中身を2人の顔に向かってぶちまけた。


「うわぁ!!!」


冷水の冷たさにカリナは慌てて目を覚まして飛び起きた。


「え…?」


状況が読み込めず、困惑した彼女はパチパチと瞬きをして周りを見渡してびしょ濡れになった自分とさっきまで一緒に彼女に挑んでいた青年、そして不機嫌そうに眉間にシワをよせながら腕を組んで見下している先生の姿を確認した。


「講義は終わりだ。いい加減起きてさっさと出ていけ。」

「そっちのほうはまだ起きないのかぁ?」


冷水をかけられても起きないラウルを見て目尻を立てていく彼女だったが、カリナは自分の体を確認し始めた。


【あれ?確か…最後の時に、内臓が爆発でもしたかと思うくらいには痛かったのに…】


この床の下に描かれた武道館を覆い尽くすほどの大きな魔法陣。それは凄まじい治癒効果を持つ代物だった。傷の具合にもよるが軽い傷ほどゆっくりと治療され、胴体が真っ二つにわかれるような即死級の怪我には目にも止まらぬ速さで胴体が繋がり、即座に蘇生される。


【これが学園に設置された特別な治癒魔法陣の力ってことか…。】


自分が大丈夫だと確信を得ると、次は彼の状態が気になりはじめた。


横を見ると仰向けに寝させられた彼が自分と同じようにびしょ濡れになった上で目覚めていなかったからか、先生が近くに寄って顔の近くで屈みながら頬をペチペチと叩きはじめた。


「おい、いい加減起きろ!アタシだって忙しいんだ!さっさと起きろー!おーい!」


「あの…そのくらいにした方が…」

「そこまでして起きないのはちょっと変ですよ。」


叩かれ続けている頬が赤くなってきており、流石に可哀想だと思い彼女にやめるように促した。


「回復はとっくに終わってるはずなんだがなぁ…」


思い当たる節は一つしかない。それは彼の身体強化魔術。模擬戦の中で一度使って息が切れて倒れるほどの疲労度、それを短時間で2度も使えばどうなるだろうか…。

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