3-13 戯れ…?
【私…なにやってるんだろう。】
【結局この人に任せるの?】
【迷惑かけて。助けてまで貰うの?】
【違うでしょ!なんのためにここに来たの!?】
【目的を果たして新しい私を見つけるためでしょ!こんな情けない姿…これが私のなりたい私になるために。こんな所で躓いてる場合なんかじゃない!】
その決意と共にカナリアとラウルの2人は一斉に床を踏み抜いて前へ出た。
ラウルの剣による連撃を彼女は落ち着いた様子でいとも容易く打ち落とし、その全てをいなし続けた。
「これほどとは…面白い!その強さに免じてアタシの本気を見せてやろう!」
ラウルの一撃を木剣で受け流すのではなく、まともに受け、彼の剣の勢いに勝るほどの力で再び2人は拮抗した。
力比べを始めると思ったその時、カナリアは重心を変え、バランスを崩したラウルの顔面に彼の剣の勢いを利用した回転蹴りを放った。
「お前もさっきの小娘と一緒で剣にばかり意識を向けすぎだ!」
蹴りの軌道は見えている。それでも全力で剣を押していた力で前のめりになり、回避も剣も間に合わない。
蹴りをくらうのを覚悟でそれをせめて額で受けようと頭を突き出して蹴りを出来るだけ相殺しようと試みた。
しかし額にはなんの痛みも感じない。
なぜならカリナがギリギリで間に入って左腕を盾にして守ってくれたからだ。
「まだ終わってない!」
彼女は雄叫びをあげながら剣を振り、彼女に間合いを取らせた。
「へぇ。戦いに圧倒されて観戦者にでもまわったかと思ったが意外と骨があるな。」
カナリアはまだ戦う意志のある2人を見て思わず笑みが溢れていた。
しかしラウルはもう違った。既に3分が過ぎ、あの力はもう使うことはできなかった。
忘れていた疲労が一気に押し寄せてきたが、まだ倒れるわけにはいかない。
それでも息が上がり、それをカナリアとカリナは見逃していなかった。
「ちょっと大丈夫!?」
先程まで見たことのないような戦いを繰り広げていた彼の変わりようにカリナは相手への警戒を緩めることなく驚いていた。
「その疲れ方はただ単に体力切れってわけじゃないな。お前の魔術の影響か?」
カナリアは楽しみながらもただ冷静に彼の様子を観察していた。
「悪いけど俺はこれからサポートにまわる…。」
「今の身体じゃあの人とまともに打ち合うことはできない。だけど君の剣速ならまだ戦える。」
「俺が隙を作るからそこに最速の一撃を叩き込んで欲しい。そうすれば勝てる。」
「……わかった。やってみる。」
その場で思いついた作戦を小声でカリナに伝えると彼女は少し悩みながらもすぐに了承してくれた。
「あの人の剣は想像以上に強い。それに一撃が重い搦手も使ってくる。」
「だから剣に意識を向けるんじゃなく全身に意識を向けるんだ。一挙手一投足を意識して剣を受けた後の搦手に気をつければなんとかなると思う。」
「そんな簡単に言ってるけど…言うことやるのとじゃ大違いだよ…。」
「まぁでも、やるしかないんでしょ?」
「だったら善処する。隙を作ってくれるまで耐えてみせるから…頼んだよ…。」
カリナは深く深呼吸をしてその水色の瞳で彼女の全身に注目する。
ラウルは隠してある残りのナイフの残数を確認して隙を作る方法をシュミレーションしながら2人の動きを見逃さないようにしている。
「なんだ?小細工の相談かー?来るならはやく来いよ。」
模擬戦を見ている他の生徒も息を呑みながら静寂の時間が流れていく。
カリナには自分の高まる心臓の鼓動とゆっくりとした自分の吐息だけが聞こえる。
少しでもタイミングを間違えればすぐに2撃目をもらって必ず負ける。
あの剣は木剣であったも巨岩をも打ち砕くほどの威力を一度打ち合っただけでもひしひしと肌で感じた。
張り詰めた空気なんて感じているのは私たちだけかもしれない。あの人にとってはただの戯れなのかもしれない。
それでも私は負けず嫌いだから降参なんてしない。そしてそれは今隣で戦ってくれる彼も同じだと思う。私と彼にはどこか似通ってる部分があるともおもう。
相手はこちらが仕掛けるまで動くつもりはないのだろう。
だったらこちらからいかせてもらう。
「いくよ!!」
カリナと掛け声と同時に彼女は一直線にカナリアの方へ走り出し、ラウルはその後に続くように駆け出した。
初撃はカリナが横一閃に速さだけを意識して振りかざした。
ただの軽くて速い一撃。ではなかった。
彼女はカナリアの木剣に触れるとほぼ同時に打ち込みを変え、高速の連打を繰り出し、彼女に反撃の隙を与えない策を取った。
【軽い…が、速いな…。】
しかしそれでも有効打には至らない。
ラウルは2人の周りを走りながら様子を伺い、カナリアの隙を作るチャンスを見極めている。
【斬り合いの最中にあの人に向かってナイフを投げる。そしてナイフを防いだところにあの子がトドメを刺す。】
【今の俺じゃ剣であんな斬り合いはできない。だから今は…】
激しい剣の交じり合いが繰り出される中、ラウルは一瞬の斬り合いの綻びを見つけた。
カナリアがラウルから目を離した一瞬。斜め後方から3本のナイフをそれぞれ足、背中、頭に向けて放った。
【これぐらいしなきゃ隙なんて作れやしない!】
きっとあの人はこの全てを捌くことができるだろう。それでもきっとつけ入る隙はできる。
「投げるならこのタイミングだよな?」
「お前ならこの瞬間を見逃さないと信じてたぞ?」
そう言いながら彼女は胸に飛んできたナイフを木剣で弾き、足へのナイフはその側面を蹴って吹き飛ばし、頭を狙ったナイフは彼女が口を開き、歯で受け止めた。
カリナはカナリアがナイフへの対処を始めた初動で最高の一撃を繰り出した。
【ここしか…ない!!】
剣を振り抜こうとした瞬間…カナリアは首をこちらに向け、口に咥えたナイフを口から飛ばした。首を回した時に回転が加わり、自らに当たる部分が刃先か、柄の部分かわからない。
目を目掛けて放たれたナイフをどう対処すればいいのか、攻撃を止めずに防御もする。
その道を実現するにはこれしかなかった。
両手で持っていた剣を片手に持ち替えて空いた左手でそのナイフを防ぐ手立てを直感で考えついた。
「くっ、!」
ナイフは運良く柄の部分が手のひらに当たって怪我をすることはなかった。
ならば攻撃はどうか?
【手応えが…ない!?】
目線をナイフを防ぐための自らの手で覆ってしまったがための彼女の姿を捉えることはできなかった。
直前までの剣筋では確かにあの人を捉えていた。本気で切るつもりだった、そうでもしなければ勝てないとわかっていたから。
それでもあの人には届かない。風が吹いたように彼女は私の真横にすでに移動しており、脇腹にボツを叩きつけられた。
「確かにお前は速い。それでもアタシの方がさらに速い。」
「ゲホッ、!」
まるで汽車にでも突き飛ばされたかのような感覚。少なくともあの瞬間、私の内臓は破裂していたと思う。それほどの衝撃だった。
カナリアの一撃はカリナの身体を大きく吹き飛ばし壁に叩きつけた。建物が揺れるほどの衝撃は観戦者に冷や汗を垂らすほどの威力だった。
「お前はどうする?まだアタシとやるか?」
勝てない。あの力を使っても勝てるかどうか怪しい。あの力を使ったとしてもあの万能感に浸るなんてことはできないだろう。
この人は本物だ。




