3-11 勧誘の理由
学園派閥ヴァナヘルム・ギャング。
その拠点である学園の地下施設。
迷路のような作りにも思えるその中心部に彼らの集会所はあった。
石レンガの通路の奥からタルヴァスという男は賑やかな集会所に入場する。
彼が入ってきた途端、その場の全員が静まり返り、1人の男の合図で敬礼が始まる。
「お帰りなさいませ!BOSS!」
それに続いてその他全員が姿勢を整えてその言葉を復唱する。
タルヴァスは演説の壇上に上がり、大声で叫んだ。
「これより定期集会を始める!!」
彼の力強い言葉に続いてその場にいる全員が「YES!MY!BOSS!」と壁が揺れる程の声量で返事をする。
「本日話すのは4日後に行われるfirst grade fightについてだ!」
「一回生の生徒だけで行われるこの行事で俺たちは見込みのある生徒を見出して集める!」
「そしてこの派閥をさらに強化して派閥大戦に臨む!」
「前回の派閥大戦では血の皇帝。ブラッディカイザリン率いる派閥、ヴァンパイアギャザリングにしてやられたが、次回の派閥大戦では必ずや勝利を収める!」
彼が高く拳を突き上げてそう宣言する。
すると周りもそれに同調するように拳を高く伸ばし、喝采を送った。
集会が終わり、地下通路を歩いて外へ出ようとしていると、1人の部下が話寄ってきた。
「ボスボスー!」
元気溌剌で礼儀のなっていない銀髪の少女。
「結局あの子に振られちゃったみたいだね?」
彼女、クオン・バーミリンが話しているのは俺が勧誘をかけた男。ラウルーレンス・アスランについてだ。
「私も'見てた'けどなんで断られちゃったんだろうね?」
見てた。とは彼女の魔術。"千里眼"のことを言っている。彼女の千里眼はこの街全体くらいならどんな所でも見ることが出来るというものだ。
もちろん無闇に使っていい代物ではない。異常事態やリーダーである俺の許可があって初めて使うことが許される。
そんな規制がある理由はいくつかあるが、一番大きな原因は人の秘密を垣間見る可能性があるからだ。
そんなことで他の人と軋轢を生んだりして派閥の評判が下がらせるようなことはあってはいけない。
ラウルーレンス・アスラン。彼を千里眼で見させたのには理由があった。
あの日。俺はよく行く喫茶店に赴いていた。
そこは路地裏の先にある小さな店なのでそこにアネモネ学園の生徒がくるなんてことはそうそうなかった。
いつものように店内でコーヒーを飲んでいたら珍しいことにウチの制服を来た奴が来たんだ。
それも見たことのない顔。新入生なんだろうということはすぐに思い至った。
珍しいこともあるもんだと感じながらコーヒーを嗜んでいるとその誰かと話していた生徒はすぐに席を立った。
彼がその場から立ち去る時。俺もコーヒーを飲み終わったので時間的にも寮に戻ろうかと店を出ると。屋根の上に彼を追いかける人影を見つけた。
何事かと思ってその影の後を追いかけようとしたら買い出しに行っていたクオンが偶然通りかかって「ボスー!」なんて大声で駆け寄ってくるもんだからその人影を見失ってしまった。
かといって学園の生徒が危険な目に遭うかもしれない可能性を拭きれなかったので駆け寄ってきたクオンを制止させて事情を説明し、彼女の魔術を用いて2人の居場所と様子を監視しながらその後を追いかけた。
監視を続けていると追われている男が尾行に気がついていながらも下水道へと入っていく姿を見た。
「クオン。ひとまずはここで待機だ。」
下水道の入り口まで来た所で待ったをかけて2人の様子を彼女の千里眼で観察した。
彼女の千里眼は実際に目で見るのではなく、不透明な盤にその景色を映し出すものだ。
なので共有も可能。こんな優秀な魔術を会得していながら俺が彼女に一目を置かない訳がある。
「えー…ここまで来たんだから行こうよー。」
それはこの言葉遣い。俺は一応この女より1つ年上だ。たった一歳。されど一歳。必要最低限の礼儀は持つべきだ。
ゴツ!
「いいから!少し観察するぞ。」
「いったぁ!ボス!頭割れるぅ!」
生意気な彼女の頭に軽い拳骨をやったつもりだったが、彼女的には少し痛かったらしい。
でも今はそんなことで言い争いをしている場合ではない。
盤の中ではもうあの生徒とその刺客があい見えたのだから。
すぐに戦闘が始まった。最初のうちは生徒が不利なように見えた。
「ヤバいよボス!助けないと、!」
俺の肩を揺さぶってそう叫ぶクオンだったが、俺は盤に映る彼の顔が気になった。
暗くて良く見えなかったが、その顔は笑っていた。まるで戦闘を楽しむかのように。
俺はその目をよく知っていた。
派閥に所属する者は大体、擬似戦争を体験している。そんなものに自主的に助っ人として参加する者がいる。
ただ戦いだけを求める戦闘狂と呼ばれる者が偶にいるのだ。
彼があの時していたあの目は闘いを愉しむ者のソレだ。
彼は見事、刺客を打ち倒し、後処理は石塔の錬金術師が駆けつけてやったようだ。
「ふぅー…一次はどうなるかとおもったけど大丈夫だったみたいだねボス。」
「あぁ…そうだな。」
俺には気になることがあった。盤が爆発の光で埋め尽くされた後、その間は数秒となかっただろう。その間にあの男は勝負を決めた。
俺はそこに希望を感じていた。
コイツが派閥に入れば…。
他力本願をするわけではない。血の皇帝は自分自身の手で必ず倒す。
それでもこの男を見ていると一騎当千とでも言おうか、血の皇帝に手が届くようになるかもしれないと思ってしまったんだ。
「ボス?大丈夫?」
「ああ。悪い。大丈夫だ。」
「あんまり落ち込まないでよボス。まだチャンスはあるさ!」
そういうことではないと言いたかったが俺の心の中にはあの時から1つの疑問が残っていた。
なぜあの男は俺の誘いを断ったのか…。
擬似戦争に参加することの多い大派閥からの勧誘。彼にとってこれ以上嬉しい話はないはずなのにラウルーレンス・アスランはその誘いを蹴った。
あの男は戦闘に快楽を求めているというのに。




