3-10 1人きりの食卓
学園での1日が終わり、俺はデンバラン邸宅に訪れていた。
なぜなら今日はルキナの家庭教師の日だからだ。
ルキナの家庭教師をする日はいつも彼女の部屋で勉強を教えている。
流石は金持ちの娘の部屋というべきか、天蓋が付いたベッドや観葉植物、豪華な机に椅子、棚や照明。
その全てが一般人を遥かに上回る生活を送っている事を物語っていた。
「えーと…魔法は魔術から生まれて…」
「違う、逆だ。魔術が魔法から生まれたんだ。」
今日は魔術の講義の復習を行なっていた。
正直これは自分自身の為にもなる。
なぜなら、人に教える事で知識としての定着率が上がるからだ。
ルキナが講義で説明された内容を紙に書かせる。
そして俺がそれを横から観察する。
間違っている所は指摘するが、それ以外は口を出さない。
そして彼女が何を覚えていて何を覚えられていないのかを把握し、それに合わせて俺が説明する。
もちろんこれをするには俺が完璧に講義の内容を理解し、記憶していなければならない。
だから俺は講義の内容を全てメモを取り、ロックマイアー先生の予備知識まで頭に入れておく。
こんなことをしているから脳の消費がとんでもないことになっている。
だが彼女の親からお金を貰っている以上妥協はできない。
なぜ妥協をしないか、それは俺が人の期待に応えたいと思うのに理由なんかいらないとおもっているからだ。
そう思えるのは誰かを助けたいという信念がそうしているのかもしれない。
「ほら。ページ一枚分書き終えたからクッキー1枚な。」
今日のご褒美はノートのページを一枚分埋めたらクッキー1枚。
正直、彼女は美味しいものを食べれるならという執念だけでこれをしている。
だから割に合わないだとかは言わない。
最初の方はもっとください!ケチ!とか言ってたが、努力の末に食べるご飯は美味しいと気づいてからはそう感じれる感動をこの先もずっと感じれるように沢山は食べないということに納得してくれた。
「ありがとうございます!んー!チョコレートのチップが乗ってて美味しいです!」
こんな感じの食レポを毎回聞かせてくるが、俺に分けるなんてことはしてこない。
彼女が言うには「私は頑張ったからコレを食べてるんです!ラウルと私とでは頑張り度合いが違うんです!」なんて言っていたが、この発言には正直ムカついた。
俺はお前でもわかるように覚え方を工夫したり、わからないことがないように沢山の知識を詰め込んだり、講義の内容だって一字一句重要な所を抑えて…
なんて思ったことはあるが、ルキナのお陰で俺は部屋を貰えたし、お金にも困ってないし、なんだかんだで毎日が楽しくなっていた。
だから許せる。コイツと居ると飽きることはない。過去から解き放たれてもいいんだとも思わせてくれる。
「そういえばなんでラウルはあの錬金術師の人に連れてかれたんですか?」
クッキーを食べ終えて紅茶を嗜んだ彼女はそう不思議そうに問いかけてきた。
「あー。それはな…。」
良い人だからこそ心配はかけさせたくない。
「履修登録の時に事務所の人に呼び止められてただろ?実はあれ石塔の錬金術師宛の荷物を運んで欲しいってことで届けたんだけどさ?」
「そのお礼に紅茶をご馳走してくれたんだよ。」
思いつく限りの言い訳をした。
もちろん、悪い気はするが、襲われたなんて言って心配かけたくない。
騙すようで悪いが、それがお互いにとっていいと思ってしまった。
「へぇー。確かに入学試験の時も一緒でしたもんね。石塔の錬金術師と仲良くなったなんてすごいですね!」
「まぁな…。」
「それよりほら!あと少しで書き終わるんだからはやくやろうぜ!」
純粋な彼女の笑顔を見ていると心にくるものがあったが、それを仕方がないと押し込めて授業の続きを始めた。
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今日の家庭教師は終わり、ラウルはデンバラン団地の自分の部屋に帰ってきた。
夕飯の支度をするために着替えていると、ジャケットの内ポケットからネックレスが床に落ちた。
「あ…そういえば、まだ事務所に届けてなかったな…。」
落ちたそれを拾い上げ、持ち主であろう彼女の姿を思い浮かべた。
「きっと探してるだろうなぁ…。」
「どうせなら自分で返しに行きたいが…」
俺はたぶん彼女のことが好きだ。
だからか、そんな非効率的な事もしようとしてしまう。
「どっちにしろ明日会えなかったらそのまま事務所に預けるか…。」
そう割り切ってラウルは着替えを終え、夕飯の支度に入った。
食事を作るのはこの数年で完全に慣れた。
家事全般は元々母親の手伝いをしていたのもあり、今ではそこら辺の主婦と大差ない程の家事スキルを手に入れた。
食事は食べる人の体となる重要なものだ。
それゆえ手を抜くなんてことはしない。
料理を作る時はいつも全力で作る。
これを教えてくれたのはルーブクだ、ただあの人は自分で作るなんてことは無かったが…。
そして身体の糧となる以上、偏食だったり、栄養不足なんてことを起こすわけにはいかない。
そういえばルキナにもこんな話をしたことがあった。
この話を聞いた彼女は「今度私にもラウルの料理を振る舞ってください!どんな腕前か気になります!」なんて言っていたが、俺は「そのうちな」なんておざなりな返事をしてそのままだった。
first grade fightが終わったら作ってやろう。
そう思いながらラウルは料理を完成させ、それを1人で食べた。
作るのも片付けるのも全て1人。
こんな生活はルーブクに出会う前からだったが、いつまで経っても寂しいものは寂しい。
本音では誰かと食卓を共にして他愛無い話をしながら一緒に片付けたりしてみたい。
これは俺の夢の1つなのかもしれない。
こんなくだらないと思うような願いでも俺にとってはこれ以上ない幸福なんだ。




