3-8 魔法と魔術
2日後。俺は学園に講義を受けに行った。
先日の出来事がまだ現実味を帯びていなかったが、それでも時間が進む限り次にやることが続々と出て来た。
今日は魔術の授業。しかしこの学園で講義を受ける人数はとてつもない数だ、だから人数が多い授業は人数を分け、時間を分けて行うらしい。
あの2人も来ている。なんてことはそうそう無いと思っていたが、案の定、中列に座っていた俺の真後ろの空いていた席に2人はやって来た。
「速いですねー。」
その声に後ろを振り向くとルキナとジルグが後ろの席に着いた。
「どうかしましたか?どこか上の空ですが…」
「いや…なんでもないよ。」
ジルグにそう心配されたが、2人に心配はかけたくなかったのでとりあえずはぐらかした。
ガラガラ
「講義を始める。」
時刻はピッタリ。ルーブクと同じくらいの年齢であろう長い茶髪の男性の教師が教室に入って来た。
「私の名前はラッセル・ロックマイアー。」
「魔術の講義を担当する教師だ。」
「この講義では魔術の歴史。仕組み。実演などを行ってもらう。」
「詳しい説明は別途資料を講義終了後に配布するのでそちらを読んでくれ。」
軽い挨拶と説明を終えると彼は前の大きな黒板にチョークで文字を書き始めた。
それは魔術と魔法。
「まず君たちには'魔術'と'魔法'の違いを知ってもらう。」
「この2つは同じものとされることが多いが、それは違う。」
ヌルッとはじまり出した講義に聴いている人たちは彼の話に耳を傾けた。
「まず'魔法'。それは'魔術'の原型、源流とでも言えるものだ。」
「世の中に存在する、君たちが使うであろうものはその殆どが'魔術'だ。」
「'魔法'とはある個人が生み出したオリジナルの'奇跡'とも呼ばれ、それを扱う人を'魔法使い'と称される。」
「しかしもう'魔法'を生み出せるような人物は少ない。多くの魔術師は魔法使いに憧れるが、そこに至る者は数少ない。」
「君たちには魔術を知り、魔法へ至って貰いたいと思っている。」
「つまり私が言いたいことはこの講義を受けて'自分だけの魔法を作れ'ということだ。」
自分だけの魔法。
その言葉を聞いた瞬間、これこそが俺が求めていた'一人前'になるための条件だとわかった。
「それでは今日の講義では魔法と魔術の歴史を知ってもらう。」
「始まりの魔法とも呼ばれる……」
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「それでは本日の講義を終わりにする。」
「帰り際、そこのテーブルに置いてある資料を1人一部取っていけ。」
ロックマイアー先生の講義が終わり、彼が出ていくと次々と講義を受けた人が講義室の前に置かれた資料を手に取り、教室を去っていく。
「なんというか…改めてここに来たんだなと思い知らされますね。」
「私はもう頭がパンクしそうです…。」
「……。」
「どうしたんですか?ラウル。黙りしちゃって。」
現実を知った2人とは裏腹にラウルは1人沈黙していた。
決して寝ていたとかではない。むしろ講義は興味深かった。
興味深かった故にむしろ余韻に浸っていたのだ。
それともうひとつ。
講義の途中に気がついたことだった。
俺はずっとこちらの様子を伺っている彼女に目線を向けた
「シロフキンシエ。」
名前を呼ばれた彼女は真っ白な耳と尻尾をビクッとさせた。
「あはは…気づいてたんだ…。」
「ルキナにだってバレてなかったのに…。」
「私は気づいてましたよ?着いたらすぐに講義が始まったので話せませんでしたが…。」
シロはルキナから身を引かせて彼女に多少の恐怖を抱いた。
それは初対面の時の一種のトラウマが蘇ったのだろう。
「まさか、また…!」
もちろんルキナがいくら大食いだと言っても獣族まで食べるなんてことはしない。
しかしシロの本能が言っているのだ。
'危険'だと。
「そんなことしませんよ!」
「それはいいとしてなんでずっと黙ってたんだ?」
「俺が先に来てたからその後に来たんだろ?」
ルキナの言い分を跳ね除けてラウルは彼女に問いかける。
「最初は話しかけようとしたんだけど…」
「なんかずっと考え事してたみたいだから、邪魔するの悪いかなぁ、って思っちゃって…。」
そんなに俺、話しかけづらい雰囲気だったのかと気づかされ、一昨日の出来事が自分の中でずっと続いているような感覚をどうにか拭おうとしたがそれはできなかった。
「確かにそうですね。今日のラウルさんは何か変です。」
ジルグの一言に3人の視線が一斉にラウルに集まる
どうしたものかと頭を悩ませていると、教室内が突如ざわつき始めた。
何事かと4人は騒ぎの方に目をやると、そこには藤色の髪をしたサイドテールの少女が道を開けるように促してこちらに歩き寄って来た。
「さぁ。話を聞きに来たよ。つきて来て貰おうか。」
ラウル以外の3人は何事?という感じだったが彼だけは違った。
「わかったよ。」
「え?ちょ、!ラウル!?」
「石塔の錬金術師相手に何やらかしたの!?」
シロはラウルとラフィが面識を持っているとは知らなかったのでその焦り様は凄かった。
「何かやらかした前提なの?俺。」
「はぁ…あのさぁ…僕だって暇じゃないんだから速くしてくれる?」
3人との一悶着にラフィはため息を吐き、ラウルの手を無理矢理取って教室の外へと連れて行こうとした。
「ちょっと!?ラウル!?」
「じゃ、そういうことだからまたな、!」
ルキナが言葉で引き留めようとしたがここでラフィに抵抗しても意味がないのでラウルは別れの挨拶だけしてまわりに注目されながらも大人しく連行されて行った。
「そういうことってどういうことー!!?」
そして教室内にはルキナの叫喚だけが響いた。




