3-7 超越再び…。
相手のクナイは相変わらず暗闇から空気を割いて現れる。
だから相手の方向はわかっている。
空間の外側を沿って行動している。
そして準備は整った。
ラウルは突然走り出して空間の中央へ走り出した。
それを彼女は見逃さず、空間の外から相手を視認するたまに空間の内側へ入り込んでくる。
そして柱と柱の間を通り抜けようとした瞬間。
彼女の足に何か細いものが引っかかった。
「引っかかったな!」
その時、ラウルの手に握られたワイヤーに伝わる感触が相手の位置を教えてくれた。
【このワイヤーはあそこの間!】
"氷の矢"
鋭い氷の弾幕が一斉に彼女が引っかかった罠に向かって放たれる。
相手はすぐに回避行動を取る。しかしそれは完全に後手に回っていた。
暗闇の中の透明な氷の矢は一つだけなら回避できるかもしれない。
しかしそれが無数にあるとなれば全てを避けることは実力者でも困難なものだ。
いくつもの矢が全身を切り裂く、しかし致命傷に至るものはなかった。
彼女は致命傷だけを避け、多少の傷は割り切っていた。
それでも最後の一矢。それは彼女の太腿に突き刺さった。
「く、っ、」
彼女は痛みに耐えながらも撤退のためにその空間の出口まで退避する。
そして彼女は懐に手を入れて幾つかの小さな玉を取り出した。
それに火花が付いたと同時、彼女はラウルに向かってそれらを投げつけた。
【なんだ、?まさか…爆弾、!?】
そう思い至った時にはもう遅かった。もう小さな玉は手の届く距離まできており、今にも中から光が漏れ出していた。
「あ…死…」
頭はそう結論を出しても身体はまだ生きていた。
だから奥底に眠っていた'あの力'を無意識のうちにまた使えたのだろう。
頭は停止、それでも身体は燃えたぎっていた。
"身体超越"
瞬き一瞬でラウルの身体は後方へ逃げようとしていた後ろではなく、前進。
前に出ていた。彼女もなにが起きたのかわからない様子。
元々ラウルがいた所は赤い炎が爆音と共に煙を立ち上げていた。
お互い目を見開いてその場で起きた出来事に理解が追いついていなかった。
しかし、彼女はそれが何なのか知っていたのだろう。
すぐに持ち直して眼前に現れたラウルに忍者刀を振り上げた。
「やっぱりお前だったんだな…!」
そう叫びながら振り下ろされた刃は彼を切り裂くこうとした。
そこでラウルも我に返った。
【まだ、生きてる!】
いつもより遥かに身体が軽く、思考のスピードも桁違いに速い。
圧倒的な全能感。これはあの時と同じ。
最後のあの時以来、もう2度とは使うことができなかった、あの力。
あの時は無闇矢鱈だったが、今ならわかる。使いこなせる。身体に、脳に染み付いていく。
目の前に落ちる刃が枯葉が落ちておくかのように遅く感じる。
そして身体はそんな感覚の中でも速い。
ラウルは落ちて来た斬撃をかわし、持っていたナイフを彼女の両肩に瞬く間に連続で刺し、彼女の後ろに回り込んだ。
これで彼女の腕はもう上がらない。
力無く刀を落とした彼女は見失ったラウルを見つけるために後ろを振り返る。
しかし彼は既に懐に入り込んでいて今度は両脚の膝を突き刺した。
彼女はもう腕も上がらず、足で立つことも出来なくなった。
「ふぅ…これで…後は…衛兵の詰所を探して…突き出せば…」
「…せ…殺せ…」
身動きが取れなくなった彼女はただ戦意を失い、絶望した顔でそう呟き続けていた。
戦闘が終わり、安心したのも束の間。
今度は先程の爆発の影響か、パラパラと天井から砂埃が落ち始めた。
「これは…ちょっとマズいか…?」
幸い大きな揺れはない。頭上からの落石も心配はしなくても良さそうだ。
しかし、俺たち2人が来た道とは違う通路から軽い足音がゆっくり聞こえて来た。
「随分と派手にやってくれたねー。」
声の主はランタンを持っているようでそれが誰なのかはすぐにわかった。
「どうしてラフィが…?」
「呼び捨て?」
キリッとした視線がラウルに向けられる。
それはこれまでの彼女とは違う、それは'石塔の錬金術師'の目だった。
「まぁいいや。その人は僕が預かる。」
「君はパッ見、怪我もないようだし帰ってもいいよ。」
「後のことは僕がやっておくから。」
これまでの彼女の雰囲気と一転したラフィの毅然とした態度に少し気圧されていた。
「いや、だってここで起きたこととか説明が…」
「必要ない。だって'見てた'から」
見ていた。確かに彼女はそう言った。
何を言ってるんだという顔をしていると彼女はため息を吐きながら近くの壁にランタンを照らした。
「この街には僕の'目'が無数にある。」
「この町で起きることは常に僕は把握できるから君の先の戦闘だって見てた。」
そう言いながら彼女は俺に壁に隠されていた魔法陣を見せて来た。
「だから君は大人しく家に帰りな。」
「なんで襲われたのかはまた今度聞きに行くから…。」
そう言いながら彼女はポケットからネックレスを取り出した。
「これ。直しておいたから返すよ。」
「じゃあまた今度。」
'仕事モード'というべきか、彼女の姿は確かに大人に見えた。
俺はネックレスを受け取り、下水道の中から地上へ出た。
太陽の日差しが傾き、空が赤色に染まっていた。
陽光が目を突き刺して反射的に手で目に影を作った。
その時、視界の端に袖の裾が切れているのが映った。
「これくらいなら縫えばなんとかなるか…。」
彼女の知らない姿を見たラウルはどこか上の空で家に帰った。




