3-2 食堂の一等星
食堂へやってくると今日は新入生以外あまり人がいないようで案外空いていた。
数えきれない程のテーブルと椅子が並べられた食堂内は広場と見間違えるほどの大きさを誇っていた。
その中で異色を表すオレンジ色の長い髪をした見覚えるある女性が机いっぱいに料理を並べている後ろ姿があった。
「なぁ、ジルグ、アレって…」
「はい…見覚えしかないですね。」
まわりの人もあの大食いぶりを引いているのかまわりに人は寄り付かなかったのですぐにあれが誰だかわかった。
「ルキナ…。お前、初日からこんな食ってるのか?」
2人は彼女の席まで来てそう話しかけると彼女は咀嚼していたパスタを飲み込んで目を輝かせた。
「ラウル!ジルグ!ようやく会えましたね!」
「全く、1人で心細かったんですよ?」
知らねぇよとその場で返したかったがそれを言う前に彼女はさらに話を続けた
「2人はなに食べるんです?ここのご飯凄く美味しいんですよ?」
「だからってこの量…。」
いつものことだが彼女の食事はとても多い。それを注意するのももう何回になるのかももう俺は数えきれない。
「いいじゃないですか。無料なんですし。」
「はは…食堂の人が泣きますよ…」
苦笑いしながらそう言うジルグだったがルキナが指差した食堂の注文口にいる人たちを見ると、あの人たちは泣いてはいなかった
「ルキナさん…もののたとえですよ」
「そうだったんですね。それより2人とも料理頼まなくていいんですか?」
「そうだな…。ジルグ行くか。」
「そうですね。」
ルキナに促されて注文の列に並び、2人の番はすぐにやってきた。
「ステーキセット1つ。」
「僕は…この和食、御膳?を1つ。」
「あいよ!すぐに作るからそっちの列で待ってな!」
陽気なおばちゃんに言われた通り今度は受け取り待ちの列に並ぶとラウルはジルグに聞きたいことがあったようですぐに話しかけた
「ジルグ、お前珍しいもの頼むんだな。和食って確か大陸の南東の方で有名なやつだよな?」
「はい。どうせなら食べたことのないものを食べようと思いまして。それに、サンプルで展示されている物を見る限り安全そうなものだったので。」
「確かに麺とか揚げ物とか色々あったが…お前見てなかったのか?生の魚の切り身が入ってたぞ?」
魚を生で食べるなんて信じられなかった、腹を壊す予感しかしない。しかしそんな俺の常識はすぐに覆されることになった。
「和食の生の魚は刺身と言われるようなのですが、それは生で食べても大丈夫だと聞いたことがあります。それに…どうやら絶品らしいですよ?」
「そうなのか…?まあ気をつけて食べろよ?」
にわかには信じられなかったがそんな調理法もあるのだと、そう割り切ることにした。
「おまちどおさま」
話してる間に2人の番になり、料理を受け取ってルキナが陣取っていた席に戻った。
「ようやく戻りましたか。もう半分は食べちゃいましたよ?」
行って帰ってくるまでたったの数分。その間に10皿程の料理がからになって積み重ねられていた。
「……」
俺は何度見てもこの光景には慣れないなという感じだったがジルグはまだ見る機会があまり無かったせいか絶句のような反応になっていた。
「おや?ジルグは和食ですか?良いところ突きますねー。」
「もちろん私も頼みましたよ。もうお腹の中ですけど。」
「お前も食ったのか…」
そう言いながら席に着いて3人は食事を始めた
「これは…なかなか美味しいですね。」
刺身を食べたジルグは最初は覚悟を決めた面持ちで食べていたがすぐにその緊張はほぐれて食事を楽しんでいた
【そんなに言うなら今度頼んでみるか…】
ステーキをカットして食べながらそう考えていると段々と人が食堂内に入ってきてどんどん賑やかになってきた。
「混み始めてきましたね。」
「そうだな。そういえば食べ終わったらルキナはどうするんだ?俺たちは授業の一覧表を見に行こうと思ってるんだけど。」
「ああ、そうですね、授業、の表…はい…」
「?どうかしましたか?」
食べている手を止めてうつむき始めた彼女の様子を見てジルグは心配そうにそう言ったが、それは不要な心配だった。
「いいんだジルグ。多分コイツいよいよ本格的な勉強しなくちゃいけないって知って現実見たくなくなってるだけだから。」
俺が教えているのはあくまで基礎。その基礎すらあやふやだが始めの時に比べれば幾分かはマシになった。これもご褒美作戦の成果だろう。
だが苦手は相手をより強大に見せる。ルキナはもうレベル的にはまだ同年代には劣るが天と地の差というわけではない。
今、彼女に必要なのは自信なのだ。
「そんなに焦んなよ。大丈夫だから。」
だが自信はそのうち自然とつく。だから焦らない、焦らせない。
「そうですか…?」
「基礎は出来つつあるんだから心配はいらねぇよ」
「こうしてみると本当に家庭教師みたいですね。」
「まぁ伊達に約2ヶ月やってねぇよ。」
「なんだかちょっと羨ましいです。2人はそんなに仲良くなって…。」
少し寂しそうにそう言ったジルグだが、すぐに「いえ、やっぱなんでもないです。」と訂正したがルキナとラウルはお互いに目を合わせて何かを感じ取り、ジルグの両隣に座って肩を組んだ
「なに言ってるんですか?ジルグもこっち側ですよ!」
「そうだぞ。仲間外れになんかするかよ。」
「2人とも…」
「ちょっと恥ずかしいので…もう…」
気がつけばまわりに注目されており、ジルグは顔を真っ赤にしていた。
はやく外に出ようということで3人はすぐに片付けを始めた
「ちょっとこのお皿運ぶの手伝ってくれません?」
「はぁ…それくらい自分でやれ。」
「3皿くらいならいいですよ。」
「ジルグ。あんまり甘やかすなよー」
「まぁまぁ、これくらいなら。」
先程のことのおかげか、ルキナはジルグを懐柔していた。手伝ってくれた彼を見てルキナはラウルにしたり顔をした。
それは「あなたとは違うんですよ、この人は」とでも言いたそうにしていた。




