2-13 私は食べられない!
ラウルは真っ赤な跡が残った左頬を優しくさすり、肩とテンションを落としながらルキナとジルグの2人に付いて行ってローベル衣料雑貨店を目指していた
「なんで俺たったの数十分でこんなに殴られたり蹴られたりしてるんだろ…」
「そんなのラウルの口が原因に決まってるじゃないですか。」
「ラウルさんはもう少し発言に気をつけた方が良いかと…」
2人からの慰めの言葉もなかったが、自身は思い当たる節しかなかったのでこれまでのように軽口を叩くこともなかった
「それよりほら!着きましたよ!ローベル衣料雑貨店!」
店の看板を指差しウキウキした様子でルキナは颯爽と扉をチリーンというベルの音とともに開けて広い店内へと入って行った
2人も顔を見合わせてルキナに続いて入店した
寄り道をしすぎたせいか店内にはラウルたちの3人以外は居ないように見えた
「はいはい。合格者の人達だね?」
店の奥から立派な白い髭を携えたドワーフの老人が扉についているベルの音を聞いてやって来た
「はいそうです。」
ラウルはドワーフのお爺さんとラフィの身長がそう変わらない、か?と心の中で思いながら返事をした
「そうかそうか。それじゃあ制服と鞄、それと靴が対象じゃから向こうの試着室でサイズの合うものを確かめてきておくれ。」
店内の奥にある試着室へサイズが少し違う制服と靴を3着ずつ持っていき、それぞれの仕切りで着替え始めた
【俺はここか】
カーテンをシャーと閉めて服を脱ぎ始めると足の脛に青いアザができていることに気がついた
【あのロリ先輩!アザになってるじゃねぇか!】
【入学したらあの塔に行って慰謝料の代わりになにか奢ってもらおう。】
1番良いサイズを見つけてそれを着て外に出るとジルグがもう外で2人のことを待っていた
「どうだ?似合うだろ?」
制服の上着を羽織ってバッバッ!としたり顔でポーズを取ってジルグに見せつけてみた
「そうですね。まず上着はちゃんと着なさい」
「気にすんなよー。別に着こなし方は人それぞれなんだからっ!」
キラッと星が現れるようなキメ顔を決めてさらにラウルはポーズを取った
「ラウルって顔だけは良いですよねー。」
シャー!と勢いよく開けられたカーテンの先には制服を来たルキナがラウルのように同じく似合ってるでしょう?というようなしたり顔で立っていた
「どうですか?私の可愛さに溺れました?」
確かに可愛い見た目ではあるが2人はその中身が暴食の獣だと知っていたため素直に言葉に出なかった
「まぁ…お前にしてはだな」
「可愛いという部類には入るとは思いますよ」
「あなたたちって人のこと素直に可愛いって言えないんですか?」
ルキナが2人の反応に呆れていると彼女はレジの方に1人の女性の人影があることに気がついた
「あれ?あの人…さっきまで居ましたっけ?」
ルキナの言葉に2人が彼女の目線の先に目をやるとそこには制服と鞄と靴を貰っている白毛で長い髪と長いフワフワした耳を頭に、そして白くて長い尻尾を持った獣族の女性が立っていた
「それじゃあ学園生活楽しむんじゃぞ」
「ありがとうローベルさん」
「必要なものができたらまた来ます」
「・・・そんなに見てなにか用?」
おじいさんに別れの挨拶をすると彼女は自らに向けられた視線に耐えられなくなったのかラウルたちに応対した
「え?悪い悪い。俺たち以外に人が居ると思わなかったから」
「ごめん…私影薄いから。自分から話しかけないと相手に気づいて貰えないことがよくあるんだよね。」
「体質ですか?珍しいですね。」
ジルグのその言葉に彼女の顔が少し曇った
「体質ってわけじゃなくて…身体に染みついた技術ってところかな。」
「それよりよく私のこと見つけられたね。こんなこと滅多にないよ。」
「それは…」
「はいはい!私です!私が気づいたんです!」
ラウルが経緯を説明しようとしたがその必要はすぐになくなった、なぜなら当の本人のルキナが自慢げに名乗り出たからだった
「えっとそういえば名前聞いてなかったな」
「私の名前はシロフキンシエ。よろしく」
「じゃあシロですね。よろしく」
「こっちの紹介をすると、この金髪のがラウルでこの黒髪にメガネの方がジルグ。そしてこの超絶美少女のルキナです!」
シロとあだ名をつけられ、彼女は小恥ずかしく感じたがそれもいいかと割り切っている様子だった
「そう、ルキナよかったらどうやって私に気付いたのか教えてくれない?」
「匂いです。」
ルキナの回答に一同は耳を疑った
「え、?私臭い?」
シロは自分の身体中の匂いを急いで嗅ぎまわった
「そういう匂いではなくて。なんというか美味しそうないい匂い?」
「私は食べられないぞ!?」
彼女は本能的にルキナから距離をとった
平然とした顔のルキナの発言にラウルとジルグはドン引きした様子で彼女を見ていた
「お前…流石に食いしん坊娘にも程があるぞ…獣族だといっても食べられないからな?」
「はっきりいって病院行ったほうがいいかと…」
「2人とも失礼過ぎません!?」
3人の会話を聞いていたシロはルキナに対してひと時は抱いていた警戒心を緩めた。その証拠に彼女は笑みをこぼしていた
「ふふっ笑」
「食べ物扱いされたのは心外だったけど君たち面白いね」
「私が馬鹿にされてるだけですけど!?」
「私のことを食べ物だと認識したからでしょ?」
「シロもそういうこと言います?」
「私の味方は1人も居ないんですか!?」
「はいはい。そんなこといいから俺たちも早く会計済ませるぞ」
ラウルは持っていた制服、鞄、靴をカウンターの上に置き証明書を出した
「はい。確認した。持っていっていいぞ」
「それでは私も」
続いてジルグ、ルキナも会計を終わらせた
「3人とも学生生活楽しむんじゃぞ」
「入学式の後はすぐにファースト・グレード・ファイトの時期じゃから勉強も鍛練もしっかりするんじゃぞ」
「ファス…なんです?」
「ファースト・グレード・ファイト。入学式の1週間後に行われる自分の実力を知るためのテストってところかな」
テストと聞いた彼女は顔色がみるみる青ざめていった
「え…。テストあるんですか?」
「どうかしたのか?」
ルキナの怯える様子を不審に思ったラウルは彼女に問いかけた
「いや、その…。実は私、勉強全然できなくて…。」
「?いや、言ってもそう難しくはないと思うぞ?ほら、俺たち戦闘分野で合格したわけだから。」
ラウルがそう言うと、ルキナは自分が持ってきていた鞄から一本の鉛筆を取り出して3人に見せた
その鉛筆を見てラウル、ジルグ、シロの3人は驚愕した
なんと鉛筆の持ち手部分には1から順に数字が刻まれていたからだ
「それでも…本当にダメなんです…。」
「私、読解力とか物語とかは得意なんですけど数学や魔法学などはてんでダメで、それで、今回の試験で計算の問題あったでしょう?その…コレで…やりました。」
彼女の話を聞いても3人は理解が追いつかなかった
「あの…なにか言ってくれません?」
「いや…え?本当にコレでやったの?」
シロの質問にルキナはただ小さくコクリと頷いた
「お前…あんな問題で…」
「ま、まぁ…!いいじゃないですか!こうして合格できたのですから!」
唯一のジルグの励ましとも取れる前向きな甘い言葉にルキナは縋りまくった
「ジルグの言う通りですよ!合格できたらこっちのもんですよ!勉強はこれからでもラウルやジルグ、シロに教えてもらえばいいんですから!」
「ごめん…。実は私も勉強は苦手で…」
「できると言えばできますけど教えるとなると…」
その瞬間3人の視線が一斉にラウルに向かった
「いや…実は俺もできない方で…あはは…」
【コイツに教えるなんて絶対やりたくねぇ!】
彼の苦笑いをみてルキナは腕を組んで眉をひそめた
「嘘ですね」
「嘘じゃねぇよ。」
先程からルキナの目を見ないように視線を逸らし続ける様をみて彼女はラウルへ一歩二歩と詰め寄ると同じように彼も一歩二歩と引き下がった
「いいえウソです。私知ってるんですよ?ラウルが頭いい人だってこと。迷路の壁の上を進むなんて普通思いつきませんよ」
「勉強できるのと頭いいのとは別だぞ?」
「むー…。」
彼女が頬を膨らませて眉間にしわをよせているのを見ていると、えもいわれぬ罪悪感が湧いてきたがラウルにはやらなければならないことがあった
「そんな顔したってダメだ。俺この街に引っ越さなきゃならないから金稼ぐためになにかバイトもしなきゃならないから。」
「なんだ。そんなことなら大丈夫ですよ」
「お前なぁ…引っ越ししてその後ここに暮らすんだからどれだけ…」
彼女のわかっていない発言に呆れてしまったがその感情はたちまちに変わっていった
「家貸します。指導料払います。貸す部屋は学園まで徒歩10分です。」
「は?なに言って…」
「私、これでもそこそこお金持ちなんです。」
「この街にデンバラン団地という建物があるのは知ってますよね?」
すると彼女は自らの生徒手帳を取り出してみせた
そこには'ルキナ・デンバラン'としっかりと書かれていた
「私がお父さんに頼めば部屋の一つくらい貸してくれますよ」
ルキナの素性を知ったラウルの脳内は一瞬空っぽになったと同時にシャカシャカと働き始めた
【えーと、まずルキナの家はお金持ち、この仕事を受ければ部屋がタダで手に入る、そして指導料もある。受けなかったら自分で毎日バイトして働いて月々の家賃払って毎日バイト生活…】
「やっぱナシは無しだからな?」
「しませんよそんなこと…」
「うまくいかなくても追い出したりとかしないな?」
「だからしませんって!」
ラウルの多重チェックが終わったことでこの約束は確定した




