2-11 石塔【託児所】の少女
ラウルは部屋を出てそのまま案内板のとおりに事務所に向かっていた。
そのはずだったのに……
【あれ?急に案内板が無くなってきたぞ?】
まわりの壁を見渡しても矢印の1つも見当たらなかった
【あれ?この方向で合ってるよな?】
【ルキナの言った通り迷子とかやめろよな…。】
段々と不安になりながらもこの先に新しい矢印があると信じて進んでいった
そのうちその廊下は外へと通じ、石造りの高い石塔へと辿り着いた
【まさか…ここか?】
【あからさまに古い建物だが…。】
考えても仕方ないので木製の扉をギィィと音を立てながらゆっくりと開け、中へと入った。
中は涼しく、ランタンが吊るされていた。
螺旋階段のように上へと続く階段を興味本位で登り始めると、一定の間隔で部屋とその扉があった。
それぞれしっかりノックしてみるも応答はなく、誰もいないのだと思った
【これじゃあ本当に迷子だな。もしかしてここって立ち入り禁止の所だったりするのか?こんなことなら違和感に気づいた時に少し引き返してみるべきだったな…】
【一応、一番上まで登ってなにもなかったら引き返そう…。】
その後を数々の扉をノックし続けた応答はなく、いよいよ最後の部屋、最上階の扉の前まできてしまった
【階段もここで終わりだしここが最後か…。】
コンコンコン
「誰だい?」
ノックをすると中から幼い少女のような声が中から聞こえた
【人が居た!】
この日は学園の生徒の全員が休みの日になっていたので、休日にも学園に来ている生徒もなぜか数人はいるようだが、運悪くすれ違わなかったので道も聞けなかった
先生とは程遠いとしても、この学園にいるのならば事務所への行き方くらい知っているだろうと思い、遠慮なく扉を開けた
「?制服じゃない…君は誰だい?」
藤色髪のサイドテールを携えた制服を着た12歳程くらいにしか見えない少女が地面に置かれた白い紙に赤いインクでなにかを描いていた
その部屋は事務所というには程遠く、様々な実験器具が机の上に丁寧に並べられていたり、壁には幾つもの魔法陣の描かれた紙が貼りつけられていた。
しかし、どう見ても真っ白な紙にお絵描きしているようにしか見えない彼女を見て思わず
「託児所…?」
とポロリと言葉が溢れてしまった
「どこがだ!」
「名前も言わずにいきなり託児所?だなんて人を子供扱いして失礼じゃないかなぁ?」
ラウルの言葉を聞いて立ち上がった彼女はその怒りを露わにした
「あぁ…。ごめんごめん。ところで事務所ってどこかわかる?」
「人の話を聞きなよ!僕は君は誰?って聞いたんだけど!」
小さな彼女の圧に気づいたラウルは名前を名乗った
「え?俺の名前はラウルーレンスだけど」
「ラウルーレンス。君は事務所に行きたいってことは試験の合格者か。っていうことは僕の後輩になるってことか。」
「え?あ、先輩なの?」
「制服着てるでしょ!?」
連続で大声を出した彼女はぜぇぜぇ息切れした
「ごめんごめん。背が小さかったから…。」
カッチーン
彼女の地雷を見事に踏んだラウルは次の瞬間、彼女は手に持っていた魔法陣の描かれた紙をラウルに向けた
彼女の地雷を見事に踏んだラウルは次の瞬間、彼女は手に持っていた魔法陣の描かれた紙をラウルに向けた
"光粒子砲"
その陣から放たれた光る波動はラウルへと直撃し、爆発した、威力が弱かったおかげでただ扉の方へ吹き飛ばされるだけで済んだが、一瞬、死んだ。とも思った。
「なにすんだこのチビっ娘!」
尻餅をつきながらもラウルは見下してくる彼女に文句をいった
「誰がチビっ娘だ!この金猫ちゃんが!」
「お前も猫ちゃん言うのか!?せめて虎とか獅子にしてくれ!」
「そんか無様なかっこして獅子?聞いて呆れるね!」
「なんだとー?」
「文句でもあるのかなぁー?」
2人はお互い目力で火花を散らし合ったが、その戦いの幕を下ろす放送が鳴った
「ラウルーレンス・アスランさん。ラウルーレンス・アスランさん。封筒が事務所に届いておりません。早急に事務所へ提出しに来てください。」
「あ!そうだ事務所!」
【こんな所で喧嘩してる場合じゃねぇ!】
その場で慌てふためく彼を見て、彼女は頭を抱えてため息を吐きながらも、目の前で倒れている後輩に小さい手を差し伸べた
「はぁ…。仕方ないなぁ…。案内してあげるから立ちなよ。」
ラウルは見上げるように彼女を見て、大人しくその手を取った
【重っ、!】
「今!わざと体重かけただろ!?」
「さぁ?早く案内してよ先輩」
白々しく口笛を吹く彼に彼女もわざと意地悪をした
「いいのかなぁ?そんな態度取っちゃって?いいんだよ?別に僕は君がこのまま事務所に行けなくても。生意気な後輩が1人減るだけだからメリットしかないね」
その煽り言葉を受けたラウルは彼女の足元へ勢いよく滑り込み、見事な土下座を披露した
「すみませんでした!どうか偉大なる先輩様、愚かなる私に道案内をしてください!」
「ふ、ふーん…。」
彼の豹変ぶり、そしてその無様な姿に少し引いてしまったが、すぐに優越感がそれに勝り、気前よくラウルの願いを快諾した
「ま、まぁ…。そこまでいうなら、連れて行ってあげなくもないけど…」
「……着いて来なよ…。」
「ありがとうございます!」
ラウルは立ち上がって照れながら上機嫌に先導し始めた彼女の後を着いて行った
【意外とチョロいな…この先輩。】
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長い階段降り石塔を離れ、先行する彼女について行き、2人は校舎の中へと入っていった
「先輩!」
「なにかな?」
「先輩の名前教えてくださいよ!」
「はぁ?なんで君みたいなのに僕の名前を教えてあげないといけないわけ?」
ただ名前を聞いただけで彼女は急に立ち止まり
そして、まるでチビっ娘と言ったこと忘れたわけじゃないよな?とその目が語っていた
「え?」
名前くらい普通に教えてくれると思っていたラウルは思わず目を丸くした
「いや、それは…ほら!」
「ただの先輩じゃ他の上級生にも当てはまるから、!」
ただ名前を知りたかっただけでこんなことになるとも思えなかったので苦し紛れの言葉しか出てこなかった
当然、彼女がそんな言葉で了承するはずもなかった
「勘違いしないことだね。僕は君のこと嫌いなんだよ。」
「君のあの土下座に免じて案内してるだけだから。」
【酷くない?なんでこんなに好感度低いんだ!?】
絶対零度のような冷たい彼女の言葉にラウルはこれ以上何か言っても火に油を注ぐだけだと思い、しばらく黙っていた。
「・・・。」
【嫌いって、ちょっと言いすぎたかな…。いや、でもチビって言ったのは事実だし…】
チラッとラウルをみると、しょんぼりした様子でヨロヨロと後ろをついて来ていた
【これは…、なんか可哀想になってきたな、】
【いや、!でも。悪いのは向こうなわけだし、!】
「ここじゃないんですか?」
「え?」
ラウルの呼びかけに振り向くと既に事務所の目の前まで来ていた
彼女は考え事に夢中になって見えてなかったようだった
「そうそう、ここ、ここ。」
「こんにちは。今日はどうしたんですか?ラフィさん」
「付き添いだよ。この迷子の入学者を道案内してたんだ。」
「そうでしたか。えーと、ラウルーレンス・アスランさんですね?封筒は持ってますか?」
「はいここに。」
ラウルは封筒を手渡すと受付のお姉さんは封を開いて中身を確認した
「はい確かに。」
「それでは、この入学式の予定表と学内必需品一覧表をどうぞ」
「必需品は街のローベル衣料雑貨店で買えるのですが…」
言葉を詰まらせるお姉さんの様子を見たラウルは疑問を抱いた
「?なにかあるんですか?」
お姉さんはラウルの質問に焦るように否定した
「いえいえ!お店に問題があるわけではなくて…」
「どうかしたの?」
隣で話を聞いていたラフィも会話に入って来た
「それが…その…、合格者の方に渡すお店までの経路図の紙が1枚足りなくて…。」
「確かに実技試験第一部合格者の人数分は刷っていて余るはずなんですけれど…。」
「そうだ!ラフィさん!」
何か思いついたかのようにお姉さんは明るい表情に戻ってラフィに呼びかけた
「待って!嫌な予感がするんだけど…」
「絶対嫌だからね!?」
「まだなにも言ってませんよ…」
ただ全力で拒否する彼女を見て寂しそうにお姉さんはそう言った
「どうせこの子をお店まで連れてけって言うんだろ!」
「話が早くて助かります!」
「だから嫌だって!」
「そんなに俺のこと嫌いなんですか…?」
歩いていた先程の時のようにしょんぼりとしたラウルがラフィに向けてそう言った
彼の姿を見てさらにお姉さんは勢いをつけてラフィを攻め立てる
「ほら!ラウルさんだってこんな悲しそうな顔してるのに!」
「一緒に行った方がいいですよ!」
「後輩のこと虐めて…それでも先輩ですか!」
「だったら君が一緒にいけよ!」
「いや…。私、仕事あるので。」
ラフィの激昂にお姉さんは真反対に冷静に返した
「君のミスをどうして僕がカバーしなくちゃいけないんだ!?」
そのように喚く彼女に対してお姉さんは最後の切り札を出した
「石塔から追い出しますよ?」
「それはズルくない!?」
「学園長がラフィさんに許可を出してから石塔の管理は事務所に移転してそこら辺の権限もあるのでいつでも追い出せるんですよ?」
「それが嫌なら大人しくラウルさんを連れて行ってください」
「ぐぬぬ…!」
「わかったよ!連れていけばいいんでしょ!?」
唇を噛んで憤りを覚えながらも彼女は渋々承諾した
「それではお願いしますね?」
「お店にはこの証明書を出せば無料で必需品は揃えられるので、どうぞ。」
ラウルはお姉さんからカウンター越しにさらに1枚紙を貰った
「ありがとうございます」
「それではいってらっしゃい!」
「覚えてなよ…」
お姉さんのお見送りにラフィは悪態をつきながら2人で去っていった




