2-4 痴話喧嘩…?
駅に着く頃にはもう日が落ちて綺麗な月が浮かんでいた。
ラウルーレンスは汽車が来るまでの少しの間に明日の朝食のパンをいくつか販店で買い、そのまま到着したセントコアル行きの汽車に乗った。
外で冷え切った体を列車の空気が少し温めてくれたが、コートを脱ぐにはまだ寒かったのでコートに包まりながら睡眠を取り始めた。
久しぶりに訪れた故郷は良かった。壊された街並は復興し、懐かしい人にも出会えて、墓参りも済ませた…。
だけどこれだけは違う意味で俺の心に残った。
それは母の墓参りが終わって墓地を歩いていた時に気がついたことだった。
数年前に訪れた時にはなかった墓が大量にあったからだ。
あの光景だけは忘れてはいけない…。
あの墓標の数だけこの街の人間が死んでいったのだから。
列車の窓から差し込む朝日がラウルーレンスを目覚めさせる。
そして見開いた目は窓の外へと向き、少し遠くに見える巨大な壁を映した。
背伸びをしてラウルーレンスはカバンの中から朝食に選んだただの丸いパンを2つ取り出して窓の外を眺めながら食べ始めた。
【あと20分ってところか…。】
セントコアルは7つの国家が共同で設置した、どこにも属さない世界最先端の地区と称されている。
世界のさらなる発展のために、と全ての国家が合意した上でこの地区は作られた。
国家間のいざこざを感じさせないこの地区だが、そのいざこざは人が運営している以上必ず起こる。
そういった問題の決着を決めるのもこの地区で行われている。
詳しい話を知っているわけではないがここの地区の最も有名な学園、アネモネ学園で行われている代理戦争でそうしたものを解決することもあるらしい。
朝食を食べ終わる頃には汽車は壁のトンネルを通過してその街中へと入っていった。
街はただただ広い。一般的な大都市を4つはくっつけたかのように広かった。
それでも建物の造りはアルバンやカラストとあまり変わらないレンガ造りの建物が多かった。
街の景色を眺めていると車両中に大きな声が響き渡った。
「見てみろよ!すげぇデカイ街だな!」
「うるさいわよ!周りの人たちに迷惑でしょ!」
あまり姿は見えなかったが話してるのは歳の近い男女2人組だとはわかった。
そしてラウルーレンスの脳内に1つの疑問がよぎった
【待って…。同年代の奴と話す時、どういうこと話せばいいんだ?】
ラウルーレンスはカラストでもアルバンでも同年代の友達というものが出来たことがなかった。
大抵は近所の子どもの相手をその母親からお願いされることが多かったので年下と接したり主婦世代の年上と話すくらいしか深い関わり合いはなかった。
近所のガキには「大人気ない!」とか言われ、年上の人には「大人だね!」と言われる。
そこでこの疑問が頭から離れない。
【15歳ってどういう感じで話すんだ?】
喋り方とか活題で困っている訳ではない。
そこら辺はそんなに変わらないと思うからだ。
ただ俺はスタンスがわからないんだ。
気がつくと俺は自然とその2人の会話に聞き目を立てていた。
「まるでお前の腹みたいだな!」
「誰がデブかー!」
その瞬間、車内にバシィーン!という音が響き渡った。
「何すんだ!ただの冗談じゃねぇーか!」
男は涙目になりながら赤くなった頬をさすってそう言った。
「ふざけるんじゃないわよ!冗談だとしても言っていい事と悪い事ってのがねえ…」
「はいはい。悪かったよ〜」
彼女の話を遮って全く悪びれる様子もなく軽く謝るその態度は彼女の怒りを買うことになった。
「あんたねぇ…。もういいわ。だったら確かめてみなさいよ。」
「は?」
男の拍子抜けた様子を見て彼女は席を立って彼の膝の上に顔を向かい合わせるように座った。
「これでもまだ太ってるなんて言えるのかしら?」
「いやいや!馬鹿!こんな所で、!」
そんな痴話喧嘩のようなやり取りを聞いてラウルーレンスは頭の中で整理をし始めた
【こんなもんなのか…?これってただのバカップルの痴話喧嘩じゃ…】
【いや、でも参考にはなるか…。実際に仲は良さそうだし。】
そう考えているうちに汽車は段々とスピードを緩めて駅のホームへと入った
やっと着いたかと荷物を確認して汽車が止まると同時に席を立ち、車両から降りて深呼吸と背伸びをして凝り固まった身体を軽くほぐした。
【よし…行くか!】
そう心の中で自分に言い聞かせるように言うと、ラウルーレンスは気持ちを切り替えて駅の出口へと一歩を踏み出した。




