2-3 懐古
かつての知り合いに出会って固まっていると、彼女は俺がラウルーレンス・アスランだと確信して嬉し涙を流し始めた。
「良かった…生きてたんだ…、!」
「てっきり、あの日に、!」
ボロボロと涙を流しながら彼女はラウルーレンスに抱きついた。
どう話を切り出そうかと悩んでいると彼女は顔を上げて俺にあの日からの出来事を話し始めた。
もうお手伝いの仕事でこの家には来なくなったが俺のことが心配で騒動の後に街中を駆け回って探し回り、捜索願いを出しても手がかりも得られず、俺たちの部屋であるあの部屋にも帰ってくることが無かったので事件に巻き込まれてしまったと思っていたらしい。
何よりも意外だったのはかつての俺の部屋に今はこの人とその家族が暮らしているということだった。
少しずつ埃を被っていくこの部屋を見ていることができなかったらしい。
俺はもうこの街には住んでいない。遠くの街へと引っ越して親代わりの人と共に暮らしている、今日この街に来たのは寄り道で母さんの墓参りに訪れたということを教えると、彼女は俺に少し待っていて欲しいと告げて部屋の中へと駆け込んで行った。
部屋に入ってすぐに彼女はまた何かを手に持って戻ってきた。
手に持っていたのは一枚の写真が入った写真立て。そこに写っていたのは子供の頃に父さんと母さん達と撮った写真だった。
「これ…部屋の整理をしている時にね、書斎の机の引き出しの中に大事にしまってあった写真をこの中に保存したの。いつかラウルーレンス君に会えたら渡そうと思って…。」
「ありがとう、ございます…。」
書斎というと、父さんの部屋だ。
気づいたら俺の頬には一筋の涙が流れていた。
頭で考えるよりも先に本能的な直感でわかった。
父さんは家族を大切に思っていたんだ、と。
そうわかると途端に最後にあの人と会った時に彼に告げた言葉がどれほど父さんの胸に突き刺さったかがわかり、後悔の念が出てきた。
父さんは俺たちが大事だったんだ…
俺はそのまま彼女に別れを告げて墓地の方へと赴いた。
道中、日はもう半分ほど見えなくなっており、反対側からは青暗い空が広がり始めていた。
そして母さんのお墓の前に着いた。
何年ぶりだろうか、年月が経って汚れているだろうと思って借りた掃除用具を手に取って墓の前まで来たが、墓は予想とは違って綺麗だった。
おそらく墓地の管理人が掃除してくれていたのだろう…。
ラウルーレンスは掃除用具を地面に置くと墓の前に立ち尽くした。
「ただいま。久しぶりだね。最後にここに来てからもう何年も経ったよ。」
「もちろん忘れてた訳じゃないよ。ちょっと変なことに巻き込まれて今は別の街で暮らしてる。」
「心配しないで、俺は元気にやってるから…」
「俺さ、何にでもなれるなんて思ってたんだ。それこそ本の中に出てくる英雄や救世主みたいな。」
「だけどさ現実は違ったんだよ…何にも守れなかった。誰かに助けてもらってばかりで俺はただ見てるだけ逃げるだけだった。」
「だけどさ、今は…少しは変わったんだ、実際に誰かを助けたりした訳じゃないけど…。心持ちは変わった気がするんだ。」
「誰か1人でも守れるならって、ルーブクっていうちょっと駄目な所もある人だけど尊敬できる人の弟子になったりしてさ、誰かを守れるくらいにはなったと思うんだ。」
「だけどまだ一人前じゃない。」
「だってまだ誰も救えてないんだ。」
「それに、ルーブクからも自分だけの力を身に付けろって言われてさ...」
「俺、セントコアルに行くよ。俺だけの力を手に入れるために。誰かを救う力を手にするために。」
「だから、またしばらくはこうしてここに来ることも出来なくなるんだ。それでも見ていて欲しいんだ…。」
「母さんの息子はしっかりやってるってことを。」
これまで吹いていたまだ冷たい冬の風が一瞬だけなつかしい温かさを感じる風に変わって頬を撫でた気がした。
ラウルーレンスは最後に墓の掃除をしてその足で駅へと向かって歩き始めた。




